フェニックスの少女-12 〉〉 ミズガルドのどこか
気付けば真夜中。
首が痛い。
外傷じゃなくても治せるんだろうか……。
そう思ってやってみると意外に痛みはすぐに引いた。
落ち着いたところで部屋を見れば、例の宿の中だ。
誰かが運んでくれたんだな、あのまま放置されなくてよかった……。
いや、むしろ捕虜扱いされなくてよかったな。
戦場で見知らぬ生存者を見つけた場合は……うん、その場で射殺か虜囚だ。
生きてるだけでもいいと思えるよ。
ああ、それにしても疲れた。
いきなり戦場に放り込まれて奇跡的に生き残って……おかしいくらいに運が良かったな。
普通最前線の生存率は……。
本当に運が良かったな、しかも無傷……ではなかったが。
「…………はぁ」
寝るか。
さすがにあれは疲れた。
-1-
しばらくすると、またもや布団の上にごそごそと動く気配。
また来たか、素っ裸の女の子。
いや、さすがに服くらい来ているだろう。
きっと昨日は何かあって裸だったんだ。
もしかしたら部屋を間違えた女の子が変な人がいると思って……ないない。
だったらなんで裸だったんだよ。
とりあえず昨日と同じように殴られてやる気はない。
予定した通り、触手でいこう。
火だと火傷させるかもしれないし、水だとうっかりで窒息させてしまうかもしれない。
まあ触手でも締め付けすぎてオトスかもしれないが……。
まあ、安全だろう。
板張りの天井に魔法を掛け、触手を配置する。
どこぞの誰かさんのように捕まえた後に凌辱はしないよ。
何と言ってもそっちの趣味は無いから。
寝ているふりをしたまま、ターゲットが昨日と同じポジションに着くのを待つ。
……………………。
…………。
行け触手、出番だ!
その瞬間、触手たちの悲鳴が聞こえたような気がした。
いや、違う、違うったら違う。
俺はどこぞの中二病な独語癖の王様じゃないぞ。
目を開けてみれば燃え上がる触手たち、赤色に煌めく素っ裸の女の子の拳。
「なっ!?」
「死ね!」
拳が振り下ろされる。
ズゴッ! バゴッ! と殴られ、二発目で顔の骨が軋んだ。
不味い、このままだと冗談抜きに顔面陥没がありえる。
「ごふっ……」
このままやられてなるか。
手加減なんてしていられない。
水弾を作りだし、火属性の魔法で急速加熱して爆発。
圧倒的な水蒸気で吹き飛ばす。
視界が揺れ、意識が途切れそうになるが無理やりベッドから転がり落ちて立ち上がる。
迎撃の為、水弾をいくつか作って周りに待機させるが、女の子が見当たらない。
「どこに……がっ!?」
探そうとした途端に、真下からアッパーカットを入れられた。
ふらついてバランスを崩したところに足払い――柔道でやるよなやつじゃなくて、片手をついてくるっと回転するやつ――を掛けられ、床に倒される。
制御を失った水弾がバチャバチャと床を濡らす。
倒されたところで、さらに追撃が迫る。
素早く腹の上に乗られ、膝で両腕を押さえられ、あっという間に完封……マウントポジションを取られた。
女の子の柔肌を味わうとか、裸体を眺めるとかそういったことをしている暇は一瞬もない。
「……え?」
なんだこの女の子は。
格闘戦のプロか?
いや、そんなことよりも不味い。
非常に不味いよ、これは殺される。
「くっ、どうにでもなれ!」
床に散った水を一気に気化、同時にレイズの爆裂を真似て大爆発を指向性付きで起こした。
部屋が消し飛んでしまったが、今はそっちを気にしている場合じゃない。
横に転がってうつぶせになり、その状態から起き上がろうとした。
したのだが女の子の方が早かった。
横合いから蹴られ、再び仰向けにされ、またもマウントポジションを取られて、今度は顔面に拳が振り下ろされた。
一撃で視力がなくなって視界がぼやける。
二撃で音が聞こえなくなって振動だけが分かる。
三撃で俺の意識が奈落の底に叩き落とされた。
なんでだよ、戦場よりここの方が遥かに危険じゃないか。
こんなの間違ってる。




