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アナザーライン-遥か異界で-  作者: 伏桜 アルト
Piece/Fragment of memories [思い出の欠片/断片]
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転移前-3

「うーっす……はぁ」

「どうしたんですか、元気ないですけど」

「寮長のムチャクチャな命令でマジで戦闘機に乗ってきた」

「えぇ……そんな簡単に乗れるものなんですか」

「PMSCの財力舐めんな。戦艦すら余裕で保有してるんだぞ」

「……えっと、戦闘機でも確か一機で一〇〇億しましたよね?」

「そうだよ! なのに戦艦を十二隻も保有してるんだぞ。しかも最新型の飛行空母とかいうどうやったらあんな巨大なものが空飛べるのか分からないようなもんまで!」

「あのキロメートルクラスの超大型艦?」

「そうそう、あれ一隻で兆……いや、京くらいの単位が付いたな」

「なんでそんな国家予算すら軽く超えたものを民間の会社が持っているんですか……」

「ほら、うちはいろんなところに派遣されてるから」

「……?」

「つまるところ仕事で味方同士撃ち合うなんてことにもなっちゃうわけだよ」

「そうなった場合って?」

「金のある方に寝返って、無い方から金目の物を全部頂戴する」

「ひどっ!? っていうか法律は大丈夫なんですか?」

「ま、そこはほら。PMSCって曖昧なところだからさあ」

「うわぁ……思い切り悪い会社じゃないですか」


 話していると、視界にウィンドウが表示された。

 アクセス許可を求めるものだ。


「あ、おおかみたに? って人からアクセスが来ているんですが」

「お、来たか。呼んでたやつだよ、ちなみに狼に谷と書いて狼谷かみたにだ」

「それともう一人、倉岡って人からも」

「そいつもそいつも。とりあえず通してやれ」

「はい」


 ウィンドウの下に仮想キーボードを表示してワンタイムアクセスコードを発行する。

 変なのが入ってきたら困るからな。

 ほどなくして四角くグリッドが表示されて二人転送されてきた。


「えと、初めまして狼谷です」

「どもー倉岡です」


 若干茶色が混ざった髪の色。良くも悪くもない青年。

 かなり砕けた雰囲気の青年の二人だ。

 権限を使ってIDを表示させてみるが間違ってはいない。

 しかも同じ学園の一年生ときた。


「うっす、イチゴだ。敬語はいらないぞ」

「あ、あーと、霧崎……だ」


 やっぱり初対面だとなぁ……いくら年下でも、なんというか……うん。


「とりあえず今日は顔合わせだ。明日の大会でいきなり、ってのもな」

「それで……俺たち四人だけですか?」

「いんや、都合が合わなくて途中参加になるけどサポートが二人とスナイパーが一人いる」

「そうなんですか。それでその人たちって」

「まあ、うん、女子だよ。なにが嬉しくてむさ苦しい男ばっかりで分隊スクワッドを組まなければならないのだね」

「マジっすか! やった」


 倉岡がやけにテンションの高い声で言う。


「んで可愛い子なんですよねぇ」


 ぐへへぇ、という効果音が付きそうな顔だ。

 これは女好きな……。


「残念ながらポジション的にサポートはリアルから戦況分析支援、スナイパーは後方配置のため会う機会すらない」

「うえぇっ! そ ん なっ!」

「そう嘆くな少年。もしかしたら本職の軍人が来るかもしれないから。優勝確定だぞ?」


 イチゴ、あんたも一応本職だろ?


「いや、嬉しくないっすよ。なんで男ばっかなんですか!」


 そんなことは当たり前だろう。

 こんな銃撃戦メインのVRMMOに可愛げな女の子が来ると思うか?


「女の子が血みどろの戦いをすると思う?」

「……ですねー」


 二人とイチゴが隅の方に行って具体的なプランを話し始め、俺は俺で装備の確認をしておく。

 なんせ賞金有の大会だ。

 最低でもトップスリーに入って賞金を貰わねば損だ。

 ゲームサーバーから自分のデータを引き出して確認する。

 当日使用する武器の制限は、すべて持ち運べる範囲なら制限なし。

 持ち運べるなら。

 荷物担当を用意してマガジンや替えの銃身、グレネードなどをすべて持たせてしまうというのも手だ。

 だが俺は毎度毎度囮をやるので単独行動が多い、補給を受ける間がないともいえる。

 だから装備はアサルトカービンにドラムマガジンをぶち込んで、予備の普通のマガジンを六本持つ。

 後は攪乱用のスモークとチャフだ。あ、それとコンバットナイフも。

 仮想ネットでこうして本物そっくりに再現された武器を使って、本物そっくりの世界で戦ってるといつのまにか現実でもそういう動きができるようになることがある。

 だがあくまで仮想の話。

 いくら筋力トレーニングしようが、仮想の体――単に仮想体、もしくは電子体と呼ばれる――は現実の体をそのまま再現しているだけだから一切の影響はない。

 あるとすれば”無意味”な偽りの筋肉痛だけだ。

 でもその動き自体は体が、脳が記憶する。そうすれば仮想で後方宙返りの練習をして、現実で実際に行うこともできるようになったりする。

 そんなわけで俺は現実において、少しばかり剣の扱いができる。

 ファンタジー系のVRMMOでは剣が主力武器だからな。そのおかげだ。

 まあ実際に真剣持って振り回したら即、タイホー!! ということにはなるが。


「…………ニートゲーマーで気づいたら剣術の段位ありましたとか……ありそうだな」

「実際にある。それはうちのPMSCでも取り入れてるよ。仮想ならいくらケガをしたところでリミッターで誤魔化せるから、危険な戦闘訓練なんかをやってる。ついでにいくら撃ったところで弾薬代を気にしなくてもいいし」

「やってんですか……」

「ああ、そうそう。あいつらには説明終わったけど、なんか聞いとく事ある?」

「えっと、どうやったら死亡判定が下るんですか?」

「いつもと同じだ。リミッター下で気絶するほどの大ダメージを与えればいい。ついでに言っておくが、リミッターオフエリアでそんなことになると冗談抜きに、本当に死ぬからな」

「分かっていますよ。それに俺は"戦争"に行く気はありませんから」


 仮想が現実とほぼ変わらないのが”リミッターオフ”のエリア。

 通常の構造体ならばもちろんリミッターがかかっている。

 だがそれがないエリアのほうが圧倒的に多い。

 今やすべてはネットでつながる時代。

 そうなれば、仮想を通じて現実の施設の制御を乗っ取ることも可能。

 ならば防衛する側も当然仮想で応戦することになる。

 リミッターオフ、仮想での偽りの死が本物の死になる。

 だから仮想でも戦争は行われているのだ。

 現実よりも、より頻繁に、より激しい戦争が。

 いくら核兵器を使用しても影響がなく、移動の手間も転送プロセスで省ける。

 今や現実の泥沼の戦争よりもクリーンな戦争とすら呼ばれる。

 消費されるのは電力と、本物の命だけ。

 そんなある意味、もっとも残酷な戦争だ。


「だろうな。でももし戦闘行為に巻き込まれたときは、自力で生き残れよ」

「ログアウトすれば済むことですよね?」

「基本的に戦闘が始まればアンカー……って知ってるよな」

「あの、転送やら離脱を妨害するプログラムの?」

「そう、それだ。表計算ソフトの(こてい)記号と同じだな。そいつを展開されたら、自力で戦域の外まで駆け抜けることになるからな」

「てかそんなことにはならないでしょうよ、なんせゲームサーバーの中ですし」

「万が一だ。明日は少々不味いことになるからな」

「どんなことに?」

「知りたければログアウトしろ」

「なぜです?」

「さて問題です。君の部屋のカギは電子ロックをメインとし、サブに物理キーです」

「まさかぁ!?」


 すぐに目の前にツールバーを呼び出して、ログアウトプロセスを走らせる。

 仮想の感覚が消失して、夢から醒めるように視界が白く染まる。

 背中に布団の感触ではなく、畳の感触を感じながら目を開けると部屋が片づけられていた。


「ん、やっと起きた?」

「えぇっとと……どうやって入ったの?」


 目の前には青い髪の女の子。

 染めているに違いない、だって人間に青色の髪の毛ってありえない。

 "人間"にあり得るのは黒茶赤金白くらいだろう。


「これ。それとイチゴから」


 手の中に針金と磁石をチラつかせながら、一枚の紙を出してきた。


「契約書?」

「うん」


 何の契約にせよ、俺はしたくない。

 寮の契約とネット以外は放っておいてもいいからな。


「いらない?」

「いらないよ」

「そ、だったらこれで」


 軽く微笑みながら、なぜか頬を少し赤らめて部屋から出て行った。

 ガチャとオートロックがかかる。

 ダイブ前はごちゃごちゃしていた部屋がある程度綺麗に片づけられた。

 明らかにゴミと分かるモノだけを捨て、あとは極力配置を変えないように整頓されている。

 気付けばいつもだ。青い髪のあの子は俺の部屋に入り込んでいる。


『で、どうだったよ?』


 視野の端にフェイスウィンドウが投影され、直接声が聞こえる。

 これも頭の中を弄った者の特権だ。


『いつもどーりです。なんであの子はピッキングなんてできるんですか』


 こちらも声は出さず、頭の中でしゃべる。

 それだけで相手に伝わる。


『あの子、あれでも調整体、もしくは模倣体クローンともいう兵器だが』

『……はっ?』

『確かファーストシリーズとか……言ってたな』

『えっ、なんですかそれ。ていうかそもそもクローン技術って禁止されていませんでしたっけ?』

『禁止されているともー。まあうちの敷地内は一種の治外法権的なアレだから』

『なんかこの短期間でしっちゃいけないことをたくさん知ったような気がするんですが』

『あ、その辺は大丈夫だ。機密事項はうっかり言ったりしないから、軍部の連中に消される心配はないぞ』

『脅しですか……』

『うっかり教えるかもしれない』

『言い換えるといつでも殺せると?』

『…………。』

『無言は怖いですよ!』

『ま、そんなことより明日に備えて準備しとけ』

『分かりましたよ』

 

 通話を切って窓を閉めに行く。

 いつもあの子が強制換気をしていくもんだから。

 外を見れば男子たちがグリルに炭をおこしてバーベキューをしている。

 ちょうど風向き的に煙が流れてこないでよかった。

 それにしても、俺も引き籠もりになんてならなければああいう風になってたのか、どうなのか。



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