フェニックスの少女-11
ゴツンッ! と鼻先に激痛を感じつつ、上から落ちてきたのもに伸し掛かられる。
冷たい地面に押し付けられる中、何かとても柔らかいけど非常に残念な何かが手にあたっていた。
ふにふにと。
もにゅもにゅと。
「いっつぅ……」
声で分かった、これは女の子だ。
……あれ?
つまりこの柔らか――
「すみませんでしたぁっ!!」
お互い体勢を立て直した直後に土下座。
こういうのは先手必勝だ、謝って負けを認めてしまったほうが責めが少ないと思うのです。
「…………」
落ちてきたのは全体的に白い少女だ。
服はボロボロで汚れている。
さっきまで触っていたのは間違いなく少女の胸。
必死に土下座をしているのだが、これが無言の圧力というやつか……とても怖い。
「はぁ……お前も被害者か……」
「え? どうい……!?」
訳の分からないことを言われ、見上げようと顔だけ上げてみると、下からは青いミニスカートの中の禁断領域が丸見えだった。
そう禁断。
穿いていないのです、この少女。
「なんで穿いてないん……ぐぶっ!?」
足が振り上げられ、見えてはいけないところが良く見えた瞬間、後頭部にブーツのスパイクが突き刺さった。
……こういうことは聞かないほうがいいんですね。
「そういう方向に興味があるのなら、ここで灰も残さず綺麗に燃やすけど」
言いながら白い少女の手に真っ白に輝く火炎弾、いや、これは太陽だ。
太陽というしかないほどに輝いて、そして圧倒的な熱を撒き散らしている。
熱い、肌がチリチリと焼けるほどに熱い。
「すみませんでした! もう余計なことは言いませんから許してください!」
「……まあいい、次こういうことがあったら次元の狭間に蹴り落とすから」
「分かりました!」
なんだろうね、次元の狭間って。
もしかして赤い頭巾の誰かさんのように某魔法で飛ばされるのだろうか……そんなの嫌だけどさ。
いやでも、もしそれでいろんな世界に……帰れるのなら……。
「あぁ、やっぱりアキトだ。間違いないな」
「はい? なんで俺の名前を知ってるんですか」
「いやちょっと……あー、解析だ。お前も持ってるだろ」
「あ、はい」
ふむ、そういうことか。
いやまて、この白い髪はどこかで見たような……。
あれ、どこで見たっけな。
まあいいや『解析』してみよう。
『解析不能』
えぇ……。
ニワトリのときは『偽装』というもので『解析』できなかったが、こっちはほんとに不可能と来たか。
「今『解析』したな?」
「しましたけど、できませんでしたよ」
「あ、偽装やら色々使ってるからな……いったん解除するからもう一回やってみろ」
解除、か。
さてさてどんなステータスが見られるやら。
【レイズ・アルクノア・レイシス】
種族:不明
職業:大天使の僕
【スキル】
偽装Lv.1000
解析Lv.1000
概念魔術
神話魔術
【召喚獣】
神龍
【魔法】
火属性Lv.1000
水属性Lv.1000
地属性Lv.1000
風属性Lv.1000
精属性Lv.1000
生属性Lv.1000
光属性Lv.1000
魔属性Lv.1000
時属性Lv.1000
空属性Lv.1000
破壊力:???
速度:???
射程:???
持続力:???
精密動作:???
魔力総量:???
成長性:ほぼ無し
「はいぃ?」
表示されたステータスを見て気の抜けた声を出してしまった。
レベルが……1000?
俺と桁が三つも違うな。
うん、それにしても1000?
1000って……。
基本的にゲームじゃ、とくにそこらのRPGでも限界は100だろう。
もしかして限界突破して天元突破してしまったんだろうか。
だとすれば成長性が『ほぼ無し』というのには納得がいく。
それから、見たところ相当な数の属性が揃ってるのはどういう事だろうか。
キニアスは三つ以上はあまりいないと言っていた。
だったらとてもお強い女の子という……俺、よく殺されなかったな。
神様的な少女だ。
美少女と言えるよ、うん。
あれだけのレベルなら神龍を召喚できるのだって納得がいく。
それにしてもレベル1000……。
三つ合わせたらレベル10億の魔法が発動される……世界が壊れそうな気がするな。
「すごいですね」
「そうでもない、あのずぼら天使の方がまだまだ上だ」
「ずぼら天使ってなんです?」
「お前にその本を渡した堕天使のことだ」
なるほど、ずぼら、ずぼらか。
確かにそうだな。
やるべきことはやってない天使だからな。
……あれ、でもなんでこの人は俺が堕天使に魔導書をもらったことを知っているだろうか。
「アキト、この氷はお前が?」
そうだと頷く。
そしてこの白い少女、レイズは何のためらいもなく氷をぶん殴った。
ガラスの砕け散るような鋭い音が響き、すべての氷が連鎖的に砕け散る。
冷気と氷の礫が舞い、すぐに霧散した。
代わりに銀色の燐光が煌めき、空間が裂ける。
裂けた空間、歪な穴からは次々と黒系統の服を着たやつらが現れる。
不気味な連中に瞬く間に包囲されてしまった。
「あの、レイズさん。これって敵ですか」
「もちろん。所属はチャーチかカテドラルだな」
「……どうするんです?」
さすがに包囲されたとなると……。
「どうするって、負ける理由はないし殺さない理由もない」
ああ、そうだった、この人はレベルが桁違いな人だった。
俺が単独であれほど持ちこたえられたんだ、この人なら瞬殺しそうだ。
「さあ、やろうか」
レイズが一歩を踏み出した途端、全方向から魔法が放たれた。
万華鏡のように綺麗な……なんて思うよりも前に、体が勝手に動いてその場に伏せていた。
少し遅れて凄まじい爆音が響き渡り、爆風と揺れとが体を叩く。
「……」
だがそれだけだった。
おそるおそる目を開けてみれば、地平線の果てまで抉れ、掘り返された大地。
原型を留めている場所がどこにもない。
見渡せば、俺たちを囲んでいたであろう敵がおびただしい数倒れていた。
俺たちに以外に立っている者が一人も見えない。
「以上終了」
本当に瞬殺しやがった。
「バカどもは全滅しました、と。まあ、ちょっとやりすぎか」
「今の……魔法は」
「火属性、爆裂を地中に数千発使っただけだ」
魔法って……ここまでできるのか。
絨毯爆撃でも少しは地面の形が残るだろうに。
「まさか、区別なく吹き飛ばしてませんよね」
「味方は二人ほど巻き込んだが問題はない」
「ありますよね!」
見つけられる訳はないが、俺は周囲を見渡した。
すると五十メートルほど離れたところにズボッと、タケノコのように斧が突き出た。
「なんだ?」
次にその斧の隣に人の手が突き出た。
「ゾンビ?」
そんなイメージしか浮かばないのだが。
「バカ、そんな訳ないだろ」
次の瞬間、地面から這い出てきたのは竜人族の女の子だった。
しかも上半身は素っ裸という状態で。
たぶんさっきの爆発で吹き飛ばされてしまったのだろう。
そして地面から突き出た斧……もといハルベルトを引き抜く。
「ふざっけんなーーー!」
思い切りハルベルトを投げてきた。
それも助走なしで。
重量およそ三キロ前後のハルベルトが狙う先は狂いなくレイズの頭だ。
「ほっ」
レイズはそれを一歩横にずれて躱す。
ある意味、正確すぎる攻撃は避けやすくもある。
「危ないな」
「……レイズ、あんたの方が危ないって!! 味方を爆発に巻き込むなっ!!」
ごもっともな意見です。
というか、この分かっててやっている時点で本当に……。
「そんなこと言うなって」
レイズは悪気なく言いながら、後ろを振り返る。
爆発でメチャクチャになった大地の果てに、そこに雲を貫く光の柱が伸びていた。
「な、なんですかあれ」
「えーっと。確か、レーヴァテインだったかな」
長大な光の柱は、こちらに向かって倒れて来る。
「……! どうするんですか!?」
「こうする」
今まさに当たる寸前、そんなところでレイズはアッパーを叩き込んだ。
たったそれだけで、光の柱――間近で見ると直径三メートルはある――が砕け散った。
そこへ声がかかる。
「ほんと、規格外の化け物だな、お前」
すぐ近くにそいつはいた。
臙脂色の軍服を着た、土に汚れた金髪の青年だ。
手に持っているのは赤い柄に青い透けて見える刀身の……エナジーブレードと言えばいいのか。
「ウィリス、久しぶりに会った仲間にいきなり攻撃ってのはどうかと思うが」
「はぁ? 何言ってやがる、お前が先に手を出しただろ。
爆撃に生き埋めというコンボで。それで、そっちの弱そうなのは?」
いきなり振られたが……どう答えればいい。
何だろう、変な恐怖というか、抵抗がある。
「霧崎……アキト、だ」
「へぇ」
金髪の青年、ウィリスに頭の上から足の先まで見られ、腰に下げた魔導書に視線が重なった途端に、表情にこいつもか……というものが加わった。
なんだろうか、竜人の女の子もだったが、魔導書が原因だろうか。
「お前も被害者か……」
「あの、その被害者って何ですか」
「あの堕天使に嘘の情報を渡されたろ? あれに騙されたりなんだりしたら被害者だ」
「…………」
なんて言ったらいいんだろうか。
騙されていたことは『解析』のお蔭で分かっていたけど、改めて言われるとへこむ。
へこんでいると竜人族の女の子も俺たちの方に近づいてきた。
男が二人もいるというのに、前を隠さずに来ている。
何というか、触り心地が良さそうというか、手で握ったらちょうどいい大きさ……。
「レイズ、こいつ燃やしていい?」
「あの、燃やさないでくれません?」
なんでこう、すぐに燃やす方向に話が行くのだろう。
というか、なんで俺はダメでウィリスはいいのだろうか。
見ればウィリスはレイズをにらんでいた。
邪念がないからか……。
「レイズ、お前さあ」
「言うな、聞くな、喋るな」
なにやら軽い口論が始まったので余所を向く。
するとちょうど、竜人族の女の子がハルベルトを拾いに行ったところだった。
拾うためにかがみこんだところをちらっと見ると、女の子がフッと消えた。
「あれ?」
ドゴッ!
首裏に重たい一撃が入れられて俺の意識も消えた。




