フェニックスの少女-5
大通りに出た瞬間、通行人の視線が一斉に俺に向いた。
恐らく原因は二つ。
路地から出てきたぼろぼろの不審者ということ。
そして頭に真っ赤なニワトリを乗せているということ。
視線が痛い。
でもね、俺は引き籠もりだよ、引き籠もり。
この人だかりに近づくだけでもう辛いのさ。
だから視線がなんだ、気にしたら負けだ。
一思いに通りに出て歩き始めると、同じような感じのみすぼらしい人が意外に多く、すぐに視線は離れていった。
歩いているのは様々だが、一番多いのはやはり冒険者風のものだろう。
剣と盾を腰に下げた、コスプレのようにも見える人がたくさん。
そしてそれを当たり前のように受け入れているあたり、俺のようなのが浮いている側なのだろう。
なるべくきょろきょろせずに歩いて行きたくはあるのだが、目を引くものが多すぎる。
とくに露店で売られているものなどが、よくゲームや漫画で見るようなものばかりなのが気になる。
お金はないけど、見るだけっていうのはいいのだろうか。
「あの、すみません、これはなんですか」
「イモリの黒焼きさね。好きな女の子にでもどうだい」
「……いえ、結構です」
イモリの黒焼きと言えば……。
引かれ合う二匹のイモリを引き離して遠く離れた場所で焼けば、その煙が空高くで再び出会うとかいう。
ようは惚れ薬というアレだ。
俺にはそんなものを使うようなお相手はいない。
さらに歩いて行くと、裏雑貨と書かれた看板の立てられた店があった。
台の上に並べられているのは得体のしれないモノばかり……というか見るからに……。
まあ聞いてみようか。
「おじさん、これってなんですか」
「クラインドラゴンのペ●スだよ」
「…………」
思った通りのものだった。
ただ予想外だったのはドラゴンのナニだったということだが。
「ああ、君こういうのを知らないのかい。これはね、女の人が一人で寂しい夜に使う」
「いえ知ってます。もういいですから、それ以上の説明はいりません」
他にも見てみると、なにやらぶるぶると震える卵型のものや、アレなことに使う鞭とか色々……。
なんでこういうものばかり売っているのだろうか。
まあどうでもいいや、見なかったことにしよう。
人ごみの中を通り抜けていくと、ある場所から急に雰囲気が変わった。
ガラの悪い人がたくさんいる。
例えるなら暴力団系の……。
「あんだ? ようでもあんのか、えぇ?」
「ひっ……い、いえ」
別の方向に目を逸らせば、檻が並んでいて、中には亜人とでも言うべき人が入れられていた。
皆一様に体を覆う布は一枚もなく、鎖で手足を戒められている。
頭から角が生えている者や獣耳のある者、尻尾があったり天使のように翼がある者。
年齢はバラバラだ。
「奴隷…………市場?」
ぽろっと口から漏れたのはそんな言葉だった。
それ以外にあてはまるものがないと思うのだが。
「おい、そっちには行くな」
後ろを振り向けば、肩に銃を担いだあの優男がいた。
「下手すりゃお前もあそこの仲間入りだ。
一度でも落ちたら元がどんな身分だろうが戻ってこれなくなる」
優男は檻を指差しながらそう警告した。
ガラの悪い連中の目が向けられると、すぐに俺の首根っこを掴んだ。
「すぐに暗くなる。宿に行くぞ」
そういって容赦なく引き摺り始めた。
見た目は細いのにどこにこれだけの力があるというだこの優男。
というか、裸足で引きずられるのは、
「痛いっ、痛いって!」
ずるずるずるずる……
引き摺られること……意識が痛みで遠くなるほど。
気付けば宿らしき建物の中に入れられてカウンターの前にいた。
……かかとが痛い。
恐らく角質なんてものは完全に落ちただろう。
真っ赤に腫れたかかとが悲鳴を上げています。
「おやっさん、僕の隣の部屋空いてたよな」
「おう」
「それじゃ一人と一羽追加で。金はここにおいとくよ」
「あいよ」
カウンターに金貨のようなものを三枚置き、二階へと上がる。
廊下の左右に部屋がある作りだ。
その突き当りまで連れていかれて、一番端にある部屋に案内された。
「とりあえずここがお前の部屋だ。リーダーが帰ってくるまでは僕が金を払っておくから」
「……そうですか」
なんだろうこのとんとん拍子。
へんなところに飛ばされたかと思いきや死にかけて堕天使と遭遇、そしてニワトリという初めてのお供を加えて無事街の宿に辿り着きましたとさ。
そうとう都合がいいよな。
こういうのは大抵何かしらの裏があるはずだ。
気を付けよう。
部屋に入って配置を確認する。
鉄格子付きのしっかりとした窓、端には固いベッドだ。
日当たりは悪そうだ、それに……ベッドは掃除がされていないのかピョンピョンと小さな虫が跳ねている。
「飯は朝と夜の二回、トイレと水は下にある」
「分かりました。それと鳥の餌ってあります?」
「それは……うーん、適当にナッツでも食わせとけ。
それじゃ、また後でな」
優男がドアを閉めて立ち去っていく。
さてどうするか。
薄暗い部屋にはランプが置いてあった。
幸い油はちゃんと入っているようで……ライターなんてないよな。
とりあえず魔法で着火する、便利だ。
次に頭の上のニワトリを剥そうとしたのだが、
「あだだだだだっ!」
鉤爪の食い込みが激しく、剥せそうにない。
仕方ないのでまず寝床の確保から始める。
火の魔法というからには、燃やす以外にも加熱とかができるはず。
そう思ってイメージすると簡単にできた。
これを使ってベッド全体を加熱して高温乾燥殺菌して、水を作りだして簡単に洗う。
そして再び火の魔法で乾燥させる。
汚水も一緒に蒸発させた。
虫の死骸は、悪いが窓から捨てた。
ああ、ほんとに魔法って便利だ。
「ふぅ」
綺麗になった固いベッドを整えて、寝転がる。
さすがにこの体勢となると、頭の上をキープするのが難しいのか大人しく降りてくれる。
試しに起き上がるとすぐに乗ってくるのだが……。
まあいいか。
飯の時間まで少し休もう。




