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アナザーライン-遥か異界で-  作者: 伏桜 アルト
dreaming of dream [夢を見る夢]
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フェニックスの少女-4 〉〉 第二層ミズガルドのどこか

 ミズガルド。

 長大な城壁に囲まれた都市だ。

 四方のうち外に出られる門は二つ、それ以外の場所は城壁から見下ろせば陸地か海が眺められる。

 城壁にはところどころに転送陣と呼ばれる、各地の石柱と繋がった魔法陣が置かれ、出入りができるようになっている。

 ここにはセインツと呼ばれる大勢力と、その他の小規模な勢力が傘下として居を構えている。

 海の向こう側にも同じように城壁に囲まれた都市がある。

 そこにはヴィランズと呼ばれる大勢力とその傘下が住み、セインツとは全面的に敵対している。

 双方の長きにわたる戦争は未だに決着がつかず、本来起こるはずだった『神界戦争』は起こることなく世界は続いて行く。


 -1-


 石柱に触れた瞬間、潮風を身に浴びた。

 気付けばとても高い場所に立っていて、見下ろせば夕日を映した綺麗な海が見える。

 見上げれば夕焼けが眩しい。

 アスガルドの空があんなにも禍々しく暗かったからなのか、随分と綺麗に見えてしまう。

 それにしてもこの高さで手すりも何もないとなれば、高所恐怖症の人だったら絶対に動けなくなってしまうだろう。

 十メートルを軽く超えるこの高さは。


「ついてこい」


 高く、そして分厚い城壁の上にある通路を歩いて行く。

 落ちないように距離を取りつつ、下を眺めると珍しいものがたくさんある。

 眼下に見えるもの、まずは馬車だ。

 いつの時代のだよ……だがまあ、馬車が普通に走っているところを見れば機械なんてなさそうだ。

 あるとすれば器械くらいか。

 いや、魔法があるから魔法機械なんてものがあったりしそうだ、ほら、飛空艇とか空飛ぶ絨毯とか。

 なんて考えながらさらに向こう側を見ると、露天商が立ち並んでこれぞ冒険者といった様子の人たちが売り買いをして、もっと向こう側には馬屋や宿屋のようなものが並んでいる。

 うん、なんだろうね、RPGの仮想世界にフルダイブしているような感じだ。


「なんだ、そんなに珍しいか」


 きょろきょろしすぎたかな。


「こんなゲームの世界みたいなところは見たことないですから」


 あ、ゲームとかそういう概念が伝わるのか……。


「そうかそうか、まあ後でいろいろと紹介してやるよ」


 問題なく伝わったな。

 もしかしてここがどうしようもないほどの田舎で実は都会があったりするのだろうか。

 街並みを眺めながら少し歩くと、下に降りるための階段が見えてきた。

 これまた手すりとかの落下防止用のものが一切ついていない。

 万が一踏み外したら確実に大怪我が確定するな……。


「気を付けろよー、お前みたいな新入りがいっつも転落してるからな」

「大丈夫ですよ」


 適当に返事をしながら降りる。


「俺は落ちませ――うおぉぉわぁぁぁぁーーーーー!」


 ずるっと。

 言われたそばから踏み外して落ちたよ……。

 滑りやすい、ここ危険。

 およそ十メートル分の階段をガタガタドタバタ一番下まで転がり落ち、腕があらぬ方向を向いていた。

 頭の上のオブジェクトは踏み外すと同時に翼を広げてすーっと飛んだ。


「お、おい! 大丈夫か!?」


 慣れた足取りで後ろから降りてくる足音が聞こえる。


「う、腕が……」

「ちょっと待ってろ、すぐに生属性ヴィタの使い手を連れてくる」

「ぁ……あぁ、クソ……痛ぇよ」


 だがなんだ、腕を斬りおとされたときに比べたらまだまだかすり傷だ。

 より酷い状態を経験したからなのか、冷静にイメージを構築して生属性の魔法を発動させることができた。

 映像を逆再生するかのように腕があるべき方向を向いて痛みが消えていく。


「おいおい、お前ヴィタかよ」

「なんですか、ヴィタって」

「属性だよ、属性アトリビュート

「そうなんですか。それで、ヴィタだとなにかあるんですか」

「そんなことも知らないのか……はぁ。

 生属性は唯一、純粋な治癒ができる属性だぞ。

 それにその属性は人数が少ないから貴重なんだ」


 貴重、あの堕天使め、なかなかいい魔法をくれるではないか。


「それでお前レベルは――」


 カウボーイハットの優男が言いかけたとき、RPGでよく見かける門番のような人が走ってきた。


「くぉらー! 貴様なにをしとるかぁー!」


 相当怒っているようだ。

 片手に持った槍の穂先が優男に向いているもの。


「やっべ、後でまた会おう。じゃあな」


 銃を肩に担いで大急ぎで逃げて行った。

 銃の方が強いんだから脅せばいいのに、そう思うのは俺だけだろうか。


「おい、君。大丈夫か? なにも変なことされてないか?」

「い、いえ、なにもされていませんけど」

「そうか、ならよかった。

 あいつはなぁ、女の子を見ると片っ端から口説きにかかるし、男だってな」

「もーいいです! それ以上は言わないでいいです」


 ……なんだか意外に危ない人だったのかもしれない。

 いきなり銃口を向けて来るし。

 銃を扱うなら最初に習うはずだ『傷つけたくないものには例え銃弾が入っていなくても銃口を向けるな』って。

 あ、だからか。

 俺は別に殺したところで問題がないから向けたのか。


「とりあえずだな、この辺にはあまり近づかねえほうがいい。

 いろいろと危ない人がいるからな。

 特にそこの修理屋には近づくんじゃねえぞ、いいな」


 そう言い残して門番さんはどこかへと走って行った。

 それにしてもなぁ……いろんな意味で危ない修理屋と言えばアレが思い当たるんだが。

 自動車の修理工で青系のつなぎを着たあんな感じのアレな人でもいるのだろうか。

 なんだか身の危険を感じるので大通りに出てみることにした。

 裸足での一歩。

 舗装されては無いが踏み固められた地面は歩きやすい。


「…………」


 ぽすん、と。

 飛んでいたニワトリが頭の上に着地する。

 そして降りてくれない。

 もういいよ、諦めたよ。




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