表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アナザーライン-遥か異界で-  作者: 伏桜 アルト
dreaming of dream [夢を見る夢]
19/154

フェニックスの少女-1

 陰鬱な空模様……どこまでも禍々しい色だ。

 そんな中、地図ナビを頼りにイザヴェルに向かっていると、戦いの音が聞こえてきた。

 小さな丘の向こう側で激戦が繰り広げられているようだ。

 身を伏せながら進んでみると、そこには阿鼻叫喚の地獄絵図が広がっていた。

 頭天が大きく陥没、もしくは潰れた死体が二〇以上。

 いまだに武器を持って立ち回っている人間が一〇人ほど。

 そして召喚獣であろうものが三〇体、しかもすべてがドラゴンだ。

 あの堕天使が言っていた戦争ってのは嘘じゃなかったよ。

 近づけばとばっちりをくらうだろう。

 だから離れようと思ったのだが、ちらっと集団の中にニワトリが見えた。

 例のニワトリだ。

 フェニックスともいうあのニワトリだ。

 しつこいがあのニワトリがいた。

 よく見れば攻撃はすべてがニワトリに向けられたもので、そのすべてを回避しながら反撃している。

 ドラゴンのテイルアタックを華麗に――宙に飛び上がって翼を広げてくるっと回転して回避。

 そのまま走って手近な人間の前で大きく身体を反らして、脳天にPeck a hole。

 ……………………。

 あの嘴、そこまでの破壊力があったのか……。

 俺はよく死なな……いや殺されなかったな。

 それにしても気持ち悪い。

 もう赤色スプラッタはみたくないんだよ。


「おぉ……うげぇ」


 吐くだけ吐いて、もちろんなにも食べてないから吐くのは辛いが。

 視線を戻した時には残っているのは、これぞバハムートって感じのドラゴンが一体だけだ。

 どうなるのか見てみよう。

 ニワトリが走りだすと同時にバハムートが口元に青白いエネルギーを溜め始めた。

 両者の距離が半分ほどになったとき、バハムートからフレアが放たれる。

 威力が高すぎるせいか、一直線だった攻撃をニワトリはサイドステップですっと回避。

 そのまま飛び上がり、攻撃後の硬直で動けないバハムートの脳天に嘴でズドンッッ!!

 …………パイルドライバーという建設重機を知っているだろうか。

 よく杭打機と呼ばれるあれ。

 あれが杭を打ち込むときより凄まじく大きな音がしたよ。

 頭部が……首から上がなくなったバハムートがよろりとバランスを崩し、倒れ切る前に光の粒子になって消え去った。

 バハムートが消え去ったそこには、ころんと紫色の珠が落ちる。

 ニワトリはそれをくわえると俺の方を見た。

 次はお前だ、というような目つきで。

 あれ? おかしいな、しっかり伏せて隠れてたはずなのに。

 ニワトリはずかずかと俺の方に向かってくる。

 あんな戦いを見た後だ、勝てる気がしない。

 ……ばれたからには仕方がない、逃げるっ!

 あの嘴は脅威だ、きっと攻撃力が255(0xFF)あるに違いない。

 あんな凶器どころか兵器クラスの一撃で脳天ぶち割られたらたまったもんじゃない。


「ぐへっ」


 慌てすぎていたせいか走り出した途端にバランスを崩した。

 後ろを見ればニワトリが……いない?

 素早く体を起こして辺りを見回す。

 どこだ? どこに消えた、あの兵器。


「コケェェーーー」


 すると真上から鳴き声が。


「いつの間にっ!」


 勢いのついた一撃が振り下ろされる。

 俺は咄嗟に後ろに飛んだ。

 そして……地面が割れた。


「は、ははっ…………み、見逃してくれませんかね?」


 言葉が通じるなんて思ってはいない。

 気持ちが通じるはずだ、だって、さっきだって心の中で負けを認めたら終わったから。


「コケェー!」

「ダメですよねぇぇぇぇっ!」


 この瞬間、俺は本気で死を覚悟した。

 反射的に腕で顔を覆って目を閉じる。

 今度こそ本当にさようなら、俺の人生。


 ……ぽすん


 …………?

 思っていたようなアースブレイカーのデッドエンドは訪れなかった。

 代わりに柔らかい一撃が頭の上に降りた。

 羽毛だ、羽毛が乗っている。

 手を頭の上に伸ばすと柔らかい羽の感触がある。

 そしてざらざらとした感触もある。

 顔の前に手を下ろしてみると、付着していたのは真っ白な灰だ。

 そういえば、フェニックスといえば焼死して灰になってその中から蘇えるというのを聞いたことがある。

 ということはこれはその灰なのだろう。

 香木のような甘い香りもするし。

 ……うむ、どうでもいいな。

 まずはこいつを頭の上から降ろさないと。

 そう思って両手で掴んで持ち上げようとしたら、


「いだだだだだだだっ」


 思い切り鉤爪を頭皮に食い込ませて、離されまいと抵抗する。

 そこから動きはしないんですね……ニワトリさん。

 どうしようもないので俺は頭の上にニワトリを乗せたまま、イザヴェルへと向かって歩き出した。

 こいつは怖い。

 触らぬ神に祟りなしと言うように、触らぬニワトリに祟りなしだ。

 このまま放っておくのが一番の安全策だ。

 ちょっと重いのが難点だが。

 恐らく一キロと少しくらいの重さだろう、まだ雛と呼ばれるくらいだから。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ