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アナザーライン-遥か異界で-  作者: 伏桜 アルト
dreaming of dream [夢を見る夢]
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飛ばされた先で-9

 思考が追いついていない。

 確かに腕が斬り落とされた。

 そして血がぽたぽたどころではなくぼたぼたと流れ落ちている。

 ショック状態……と言ったらいいだろうか、心臓が締め付けられるような感じだ。

 悪意のない瞳で、いきなりスパッと。

 それでも殺すような意思はあった。

 急変した堕天使の気配に、本能が降参の意思を示す。

 勝てない、怖い。

 これが実戦だったらこうやって突っ立いる間にトドメを刺されるだろう。


「……え……なんで」

「さあ、自分で治癒してみせなさい。

 実戦じゃもっと酷いケガをするのよ。

 これくらいのことで反応できなくちゃ、ほんとに死ぬわよ」


 その言葉で、ショックで麻痺していた感覚が回り始めた。

 焼けるような痛みに始まり、それはすぐに激痛に。


「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、あああああぁぁぁぁっ!!」

「早く治癒しなさい! 失血死するわよ」

「ぐぎぃ……!」


 歯を強く噛み締めて、無理やり痛みを押し出してイメージを構築。

 斬り落とされた腕がくっつく。

 レベル100、現在使える最高レベルだ。


「……!」


 まぶた越しに眩い緑色の光が溢れたのが分かり、ぬるりとした感触と共に腕が元に戻っていた。


「かっ……はぁ……はぁぁ」


 貧血のときと同じ感じだ。

 無理やり立ち上がったがかなりふらついている。

 どうやら回復魔法といっても、いま使えるものは傷は塞げるが失った血液までは戻せないようだ。


「い、いまの……本気で、ころ、す、きだった、でしょう」

「ええそうね」


 目の前に立つ堕天使はさらっとそれを認めた。


「本当の殺し合いになれば、普通は恐怖で動けなくなるもの。

 だからね、今のうちに慣れておいてほしいのよ」

「は、はは……そうですか」


 腰が抜けてすとんと地面に座った。

 ダメだな俺。

 そこらの異世界転移した一般人ってどれだけメンタルが強いんだよ。

 それに転移した直後から常識外れの能力を使いこなせるとか……俺には無理だ。


「うんうん、なかなかいいんじゃないかな」

「何がですか……」


 いきなり腕を斬り落とすし……。

 これそこらでやったら傷害じゃなくて重傷害になるのではないだろうか。

 もしくは殺人未遂くらいに。

 そんなことを思っていると、いきなり堕天使が背中に手を回してきた。


「な、なんですか」

「ちょっと動かないでね――神の祝福を(エルジーグェン)


 堕天使が詠唱した途端、白と緑の光が溢れた。

 それと同時に体の中に暖かいものが溢れるような感じがして、背中に痛みを感じた。


「はい、これでよし。出血した分はきっちり補充したから」


 なんだろうか。

 死にかけるという体験の後ということもあるのだろうけど、初めて天使だと思えた。

 まあ、白衣の天使ではなくだぼだぼよれよれジャージの堕天使だけど。

 でもよく見れば顔は良いしスタイルも良さそう。

 出会えるだけでもラッキーと思えるほどの美少女では……?


「それじゃ、頑張りなさいね」


 不思議な錫杖を手に、堕天使はゆるやかに飛び立った。


「ちょっと待ってください、どこかに飯が食える場所はないですか」


 こんな荒野で餓死するという終わりは迎えたくない。


「うーん……ここらへんでいうと…………そうね、イザヴェルに行きなさい。

 そこにセインツっていう勢力がいるはずだから、私と戦ったって言うといいわ。

 多分信じてもらえないでしょうから、この羽根を見せないさい」


 背に広げた大きな黒翼からぷつんっと羽を抜くと、風に乗せて俺の手元まで落とした。

 触った感触は鳥の羽根と大差ない……いや、もっと柔らかいし、なにか得体のしれない気配を感じる。

 空に視線を戻すと、堕天使は昏い空に溶けるように消えていくところだった。

 …………?

 少し違和感がある。

 あの翼の大きさで人は飛べるのか。

 否だ。

 ちょっと計算がうろ覚えなので概算で……。

 多分だけど、翼の幅がプラス一〇メートルくらいいるんじゃないだろうか。

 まあいい。

 どうせ魔法を使っているに違いない。

 科学で幻想を殺しちゃいかんのだ。

 ファンタジーのドラゴンが飛んでいるのはファンタジー補正があるからだ。

 アイドルはxxxをしないという幻想と同じなのだ、掘り下げた考えは信者に殺される。


 ぐぎゅるるるる~


 そんなことより飯だ。

 イザヴェルって言っていたな。

 地図を開いて確認すればおそよ一キロほどだ。

 少し休憩してから出発しよう。

 座り込んで景色を一望すれば、あらまあカオスだことで。

 あ、そう言えば魔法しか教えてもらってないが、スキルとはなんぞや?

 試しに使ってみよう。

 魔法と同じだと思うので、頭の中で念じてみる。

 まずは解析レベル5だ。

 試しに手元の魔導書に使ってみると、半透明の青いパネルが表示された。


『メティの魔導書』……悪意80%・遊び心19%・そして真実1%で書かれている


 ……え? どういうことだろう。

 次は解析レベル7を使ってみた。


『堕天使メティサーナが記した魔導書グリモワール』……地図とステータス以外信用するべからず


 ご丁寧にルビまで振ってある。

 しかしなんだろうな、これ。

 最後に解析レベル9を使った。


『警告・この本は殆ど偽の情報が記されています』


 ……。

 …………。

 ……………………。

 あの堕天使はなんてものを渡してくれたんだよ。

 つまるところこの本に書いてあることは嘘が99%だということですね。

 しかもその1%は地図と俺のステータスのページだけ。

 比率もおかしいよね。

 この本、明らかに五〇〇ページくらいあるよ……。



《愚痴》


えー……。

色々とファンタジーな部分をぶち壊すような科学も書いていきますので。

まったく、あの同居人め。

虫ってあの大きさだからこそあの形なだけであって、あれより大きくすると形ががらりと変わるよ、とか言ってくるんですよ。

アラクネとかの虫系ネタを使いづらくなるじゃないの。

しかも異世界転移系なら言語うんたらかんたら……。

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