飛ばされた先で-7
「はいちょっと動かないでねー」
予防接種のちょっとチクッとしますよー、な感じで言われた途端、
「ぐぎっ……あぁぁぁっ!」
とてつもない激痛が体全体を駆け抜けた。
何かが身体に押し入ってくる。
なにかこうドロッとしたしたものが流れ込んでくる感覚があって、そしてそれを拒絶する身体の感覚が……。
「あががっががっがががががぁっっ!!」
「もうちょっとで終わるから、動くんじゃないわよ」
翼のふわりとした拘束は不動の壁の如く強かった。
いくら暴れても無意味。
そして強く、万力で締め付けられるかのようにぎゅぅっとされ意識……が、ぁ。
「あら……」
バチバチと平手打ちをくらって意識が戻る。
「だいじょぶ?」
「…………死ぬかと思いましたよ」
「そう、なら大丈夫ね。ステータスを見なさい」
放されると同時に魔導書が浮かんで手元に来る。
最後のページを開けば書かれている内容が変わっていた。
【霧崎アキト】
種族:人間
職業:無職
【スキル】
解析Lv.9
魔力吸収Lv.9
魔法妨害Lv.9
【召喚獣】
バハムート(魚型)
【魔法】
火属性Lv.1
水属性Lv.3
生属性Lv.9
破壊力:C
速度:F
射程:E
持続力:魔力次第
精密動作:精神力次第
魔力総量:A
成長性:多分ある
F-凡人並み<E<D<C-近代兵器並み<B<A<S-神格級<???
……うん、なんかこう、あっちこっちに色々と突っ込みたいところがありまくるけど今は無視しよう。
「なんですか、これ?」
「ちょっとしたサービスよ。とりあえず説明すると」
解析……対象の情報を取得する。なお使用に当たっては対象を視認する必要があり
魔力吸収……周囲の魔力を吸収する。レベルによって範囲が広がり、上限は自身の魔力保有量まで
魔法妨害……同レベル以下の魔法を無効化できる。なお使用に当たっては魔法の核を視認する必要あり
生属性魔法……生命力を操作する魔法。いわゆる回復魔法、攻撃にも使える
「と、いうわけで。まずこれから何かわからないものに手を出すときは、
か・な・ら・ず解析すること!」
「……わ、わかりました」
なんだろう、若干寮長に似てるのは気のせいか。
「だいたいあなたねえ、鶏と不死鳥の区別くらいつくでしょう? それにその年で魔法もダメとか――」
ながっっっながとお説教をされた。
長すぎて途中で意識を別方向に向けていると、また杖のようなものでぶっ叩かれた。
そしてまたお説教を受け、結構な時間が経ってから解放される。
「以上、何か質問は?」
「あの、魔法ってどうやって使うんですか?」
がくっ、と堕天使がずっこけ。
「そこからぁ…………あなた桜都の人間よねぇ」
「そう…………?」
あれ? なんだろうか、記憶に靄がかかったような……。
うん? なんだろうか、思いしたくても思い出せない。
「まあいいわ。魔法にはそれぞれ使いやすい形があるの。
例えば体の構えだったり、何かの動作だったり、道具を使ったりね。
私の場合は使いたい属性を思い浮かべてどういう形にするかイメージするの」
「えっと……どんな感じで?」
「こうやって。よく見てなさい」
堕天使が右手を前に突き出したその瞬間、そこに拳大の炎弾が現れる。
それはシュッ! と音を放ち凄まじい速度で飛翔し、遥か彼方に巨大なキノコ雲を作りながら隕石でも落ちたかのようなクレーターを穿った。
……よく解らないが、あれと同じものをイメージすればいいんだろうか?
「やってみなさい」
「…………」
なにごとも挑戦が大事だ。
集中、集中…………。
手の先に火の玉を……。
ぽっ、と小さな音と共に伸ばした手の先に火の玉が現れた。
「おぉ」
次は飛んで行って爆発……。
飛翔コースと爆発の範囲だが、これはなるべく近くで小規模に。
ぽひゅ~っと気の抜ける音を発しながら飛び、五〇メートルくらい先に着弾。
ぼごっと重たい音を響かせて、小さめにイメージしたのに大穴ができた。
魔法って……案外簡単?
やればできるじゃないか、俺。
「やればできるじゃない。それじゃあ他のものもやってみましょうか」
こうして、堕天使という教師の指導の下、魔法の訓練が始まった……。




