飛ばされた先で-4
変わらない景色の中を歩き続け、早くも四時間が経過しようとしている。
正直なところ、引き籠もりニートの俺にとっては部屋の中を移動するのですらも億劫。
だから四時間も歩き続ければ足が痛くなる。
しかも裸足という追加の悪条件込みで!
ついさっきまでは草の生えた柔らかい場所で痒かったけど歩きやすかった。
だけど今はもう土と石ばかりの荒地のような地面だ。
ぐぎゅるるるるるるぅ~
うむ、それにしてもお腹減ったな。
本来なら俺は昼飯としてカレーを食べるはずだったのだよ。
なのに!
だというのに!
なんなんですかあの意味不明な爆発的なものは。
あれのお蔭で俺は昼飯抜きでこんなぼろぼろの服で裸足で、こんな世界に飛ばされてんですよ。
ポケットの中を探っても食べ物はない。
ならばと何か食べられそうなモノがないかと辺りを見回せば、特に何も……いや、何かいる。
魔物……ではないな、岩の陰に覗く影は……ニワトリ?
うん、ニワトリのようなものだ。
尾っぽが赤いけど形はニワトリだ。
ニワトリはニワトリだ。
…………捕まえて食おう!
だが心配なことがある。
ここは異世界……いや、大丈夫なはず。
誰かの伝説みたいに攻撃したら、どこからともなく大量のニワトリが来て突き回されるなんてことにはならないだろう。
それにヒ●チ●ックさんのあれのようなことにもならないと思いたい。
ない、ないと思え。
あると思ったらそれが現実になるんだからないんだよ。
嫌だよあんな地獄。
どこへ逃げても、どれだけ逃げてもしつこく追いかけて来るなんて。
とまあ、そんなことより飯だ。
鳥の丸焼き。
善は急げ、俺は襲うぞ。
あいつにとっては悪だろうけどな。
「…………」
やってやる。
トコトコと歩いてきたニワトリ目掛け、助走をつけて飛び掛かる。
「うぉぉぉぉっ!」
スッ…………ドシャァァァ…………
ニワトリってとても俊敏なんですね。
顔がなまらすごいことになりましたよ。
「ふ、ふふっ、やってくれたなニワトリ!」
顔面床掃除をし終えた格好を利用して、今度は猛獣のような構えで思い切り飛び掛かる。
サッ! ……ドシャァァァッ
なんだろうか今のは?
たった今このニワトリがサイドステップしたように見えたんだけど。
…………え?
そんな訳ないよね。
だってニワトリだよ。
「コケェェーーー!!」
グサッ!
うん、これは間違いない。
たった今、目の前のニワトリがカウンターキックを決めてきた。
しかもニワトリにしてはやけに鋭い爪が顔面に食い込んでいる。
「クワァァァッ!!」
「んぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」
やめてっ! そのままの体勢で嘴を振り下ろすな!
知ってるか、キツツキとかのような鳥は頑丈な嘴で頭蓋骨を突き破ることができるんだ。
当然それより頑丈な嘴のこいつはそんなことができてしまぁぁぁぁぁっ!!
「悪がっだ、俺が悪がっが、がぁぁぁぁぁっ!」
俺の負け、降参する! もう襲わないから許して!
心の中で叫ぶと、思いが通じたのかニワトリは攻撃を止めてくれた。
そして、
「コッケコッコーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
勝鬨を上げる勝者のように、鋭い一声を発した。
むかつくなぁ……ニワトリのくせに。
なんて思った途端にもう一回、グサッ!
ニワトリにしては鋭すぎる爪が再び、今度はより深くめり込んできた。
分かったよもう……俺の負けだ。
君の嘴に完敗だ。
顔からバサバサと飛び降りたニワトリは、悠然とこの魔境の大地を歩いて行くのであった。
後に残された俺は額と顔から血を流し、ぼろ負けした敗者として立ちつくすのだった。
そして頭の中に追い打ちをかける声が響く。
『アワード、鶏に負けた人間を獲得しました』
「いらないって、ねぇ!! そんな笑いの種のような称号いらないよ!?」
…………いや、いいよもう。
どうせさぁ、こういう称号のたぐいって外せないし外れないんでしょ。
無職引き籠もりニートのほうがまだまだ酷いだろうし、これはマシかな。
なんて思うと、
『アワード、自他共に認める引き籠もりを獲得しました』
…………なんだろうね、虚しいね。
ヒュゥゥー……と空っ風が吹き抜けて行った。