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アナザーライン-遥か異界で-  作者: 伏桜 アルト
a dream of beginning [始まりの夢]
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ハルピュイアの少女-19

 クロードに投げ飛ばされた俺は、加速度がゼロになるまでの数十秒を過ごしつつ足場になりそうなところを見つけられずにいた。

 つまり落ちる以外の選択肢がない。

 墜落死以外のフラグが立たない。

 デッドエンドまっしぐらのフラグしか立っていない。

 そもそもかなりの距離、投げ飛ばされたはずなのに未だにユグドラシルの天辺が見えないし。


「……えぇ?」


 いや、ねえ?

 受け止めてくれるって話だけど、これまっすぐ落ちたらの前提つくよな。

 俺、落ちる間に失神して変なコースで地上まで落ちる自信あるよ?


「うぉああああああああぁぁぁぁ!!」

「トォウ!」


 ……なんか今、モザイク必須のものが見えたような気が。


「大丈夫ですかな?」


 ような、じゃない。

 ほんとにいたよ。

 シルクハットチョビ髭の変態全裸紳士が……。


「はなせ!! 気持ち悪いっ!!」

「ぬははははは、このまま上まで行きますぞ」

「いーーーーーーーやぁーーーーーーーー!!」


 人生初のお姫様抱っこ。

 こんな変態に抱えられるというこの屈辱!

 嫌だ、この記憶だけ部分的に消したい。

 てか今すぐに消してくれ。


 ……そんなこんなで十五分ほど。


「着きましたぞ!」


 安全な足場を確認するや変態を蹴り飛ばし戦闘態勢。

 焼き尽くす思いで火炎弾を創り出す。


「どこだよここは……」


 しっかし……ユグドラシルの枝の上だけど、なんでこうも太いのかねぇ。

 煙突付きの小さなログハウス。

 花壇のようなものまであって毒々しい見た目の花まで植えられている。

 その真ん中には立札があり、『スミスの家』ときったない字……ではなく、まるで書道家の段位所有者が書いたような綺麗な字で書かれていた。

 スミス……まさかこの変態の名前か?

 いやそれより、家一件分の重量を受けてなお折れない枝の強度が恐ろしい。


「さあ、どうぞ。お上がりください」


 変態は俺の火炎弾をあっさりと消滅させて家のドアを開けた。

 なんだろう、入ったら後戻りできないなにかが起こりそうな予感がする。

 ……当たるよな。

 俺の悪い方向の運はカンストしているはずだから。


「ささ、どうぞ」


 踏みとどまっていると、背中を押されて中へと入れられた。

 家の中には暖炉と椅子とテーブルがあった。

 掃除もきちんとされていてとてもきれいだ。

 俺の汚部屋とは凄まじい差だ。

 ただ……窓から見えるばかみたいにでかい食虫植物がなぁ。


「どうぞ」


 カチャッと音がして、銀製の物凄く高価そうなカップが置かれる。

 カップには橙赤色の液体……多分、お茶、が入っていた。


「あ、どうも」


 流れ的にお礼を言って口に含み……。


「ぶほっ!」


 口が! 口が焼ける!!

 なんだこれは!?

 解析を使う。


『銀のティーカップ』……セインツのリーダーが特注して作られたもの。現在いくつかが盗難に遭い行方不明

『アクアリジア』……いわゆる王水。一部を除いてすべての金属を溶かす。人体にとっては極めて有害である


 俺はどこぞの仙人じゃねえ!!

 こんな劇物を飲んで強くなんてなれないの!!


「あんたなんてもん出してんだ!?」

「いえー、飲めるかと思いまして」

「飲めねーよ殺す気か!!」


 魔法で水を出して念入りにうがいをして治癒した。

 大量の水で洗い流せば大抵はどうにかなる。

 ……大丈夫なはずだ、皮膚が爛れるとかその程度なら治癒魔法で防げるはずだ。


「ふむ、ではこちらをどうぞ」


 再びお茶が出される。

 今度は変なものじゃないだろうな……。


『真鍮のティーカップ』……セインツのリーダーによる特注品。現在いくつかが盗難に遭い行方不明

『退魔草のお茶』……強力な魔力抑制、分解作用がある。これを飲んだ暁には並大抵の魔法使いは意識を失う


 ……あっぶねぇ。

 先にこっち出されてたら終わってたぞ。

 たぶんこれなら変な味のするお茶って思って飲んじゃってるよ。


「一杯どうです?」

「……これを飲んでどうしろと?」

「貴方と一緒にいたおちびさんのためです」

「へ?」

「まだ生まれたばかり、そんな状態で魔力に晒されては可哀想です。なのであなたの……どうしました?」

「実は……ついさっき吐血して……」

「なんと!?」


 一瞬だった。

 変態が戸棚からリュックを出したかと思うと、またも俺を抱えて今度はユグドラシルの幹を駆け下り始めた。

 もういーよ。俺の精神の耐久値はヒビ入りの赤色だよ。

 しかしだ、この全裸の変態をハーピーに見せるには教育的に大変よろしくない。

 何とかせねば……。

 でも前を隠せ、何か着ろ、退魔草だけ置いて帰ってくれ。

 いろいろと言ってみたが一切聞いてもらえず、ウィリスたちのところまで戻ってきた。

 まあ俺だけじゃ降りられないんですけどね。


「止まれ!」


 臙脂色の軍服たちが一斉に銃口や魔法弾を差し向けてくる。

 予想通り。

 ていうか俺まで撃たれるがそんなことお構いなしだろう。


「アキト、なぜそいつがいる?」

「まあなんというか、いろいろあって一緒に来た。こいつが退魔草も持ってるし」


 ウィリスが視線で合図すると軍服たちが俺たちを半包囲する。

 この状態で攻撃されたら、確実に俺だけが蜂の巣だな。

 両手を挙げてホールドアップ。

 どうせこの変態は訳の分からない動きで全部躱してしまうだろうし。


「う、撃つなよ」

「セフティー解除」

「おい!?」


 ガチャガチャと嫌な音が響く。

 おいおいおいマジで撃つんかい!!

 指が引き金に掛けられたのを見た瞬間に、体が勝手に伏せることを選んでいた。

 スダダダダダダダッ!!

 俺のすぐ上を銃弾と魔法が通過する。

 そして例の如く変態は全て躱して、退魔草の入ったリュックを残していずこへと消えていた。


「お、お前ら……」

「くっそ、また逃げられた。アキトさっさと起きてそれを飲ませておけ」


 相変わらず俺の心配は一切ないんだな。

 こん畜生め!

 んでもってクロードはどこ行った?

 まいっか。


 変態のリュックに入っていた退魔草を乾燥させたものを空属性の魔法でいい感じに細切れに。

 先ほどの腹いせも兼ねて調子の悪いウィリスから鍋とコップをぶんどっいぇしっかりと洗浄、加熱殺菌。

 水属性の魔法で水を出し、鍋で湯を沸かしてお茶を入れて飲ませた。

 しばらくすると咳をしなくなり顔色もよくなったので、ついでにウィリスから毛布を剥ぎ取って、しっかりと洗って乾かして掛けておいた。

 一応これで大丈夫だと思うが、しばらく安静にしておこうと思う。


 ちなみにこの後、軍服たちにめっちゃ怒られてウィリスに魔力を吸い取られ、怪我人の治療をさせられる破目になったのはまた別の話。

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