飛ばされた先で-1 〉〉 第一層アスガルドのどこか
はい、というわけ(どういうわけだよ!)であまり変わらないようにかなり変えましたよ(はいそこ、おかしい)。
前よりも読みにくいかもしれませんが『遥か異界で』再開します。
体が引っ張られる。
どこまでも浮かんでいく浮遊感はいつまでも続かず、唐突に落下に切り替わった。
それでも、フリーフォールのような急激な落下じゃなくで緩やかな、まるで羽根がふわりと落ちるような感じだ。
しばらくするとカサッ、と音がしてちくりと背中を刺す感触。
これは草かな。
「おーい、こっちに堕ちたぞ」
「なにこれ? 死体?」
「……かもな。焼け焦げてるのになんで安らかな死に顔なんだ?」
「まあ、放っておけば魔物に食われるだろ。取れそうなものもないし、服も焦げてるし」
「じゃ、このまま放置しますか」
「だな。それより『黒翼の天使』討伐の依頼が途中だ、行こう」
ザクッ、ザクッ、と草を踏みながら遠ざかる誰かの足音が消えていく。
しばらくして目を開くと、一番に見えたのは禍々しい空だった。
紫色に染まった天空に黒い雲がかかっている。
顔だけ動かして、右を見て、草が。
左を見て……されこうべ、え?
「……はっ?」
待て、慌てたらダメだ冷静になろう。
街中、いや、そこらの林にあったとしてもすぐに警察が駆けつけてきそうなものがなんで転がってるんですか?
それにさっき人がいたよね?
なんで俺とこれを見てそのまま放置できるの?
なんで警察に電話しないの、ねえ。
普通こういうときって救急車を呼ぶよね?
こんな状況でも恐ろしく冷静だった俺は上半身だけを起こした。
「…………マジですかい」
見渡す限りの禍々しい平原、ところどころにドクロがころんと転がって……。
それもイノシシとかのような動物のじゃなくて、思い切り人間の。
どこまでも何もない、誰もいない。
なんでこんなところに?
思い出せ。
俺は確かふっつーにカレーを作っていただけのはずだ。
なのにいきなりピカッと光って、ドゴンって爆発音がして、しばらく変な浮遊感に包まれて気づけばここに。
…………。
考えられることは一つ。
爆発して俺、死んだ?
服はところどころが焦げてるし。
……………………。
…………。
自問自答、X回目。
なあ、ついさっきまで確かに自分の部屋でカレーを作っていたはずなんだよ。
寮の一室、如月寮という名の実質俺の引き籠もり場所で。
それを証明できる証拠は右手に染み付いているカレーの匂いしかないんだけどさ。
でもなんでこんなところにいるのだろうか?
全く理由が分からないのだがな、ははっ。
そんなことよりも早く帰ってコンロの火を消さないとカレーが焦げるよな。
焦げ付いた鍋の焦げ落としってかなり重労働なんだよ。
いや、もう焦げてるだろうな。
だってもう何十回も同じ自問自答をしてんだぜ?
かるく三十分は経ってるよ。
ああもう、覚えているのはふっつーにカレー作ってたら上の部屋から騒音が聞こえていきなりピカッて光って、ドゴンッて音がして、気付いたらここに座ってる訳じゃん。
服はところどころ焦げて……本当に……まさか爆発して、本当に死にました?
いやいや、そんな訳はないでしょうよ。
だってホントに死んでるなら天国に行ってないとおかしいでしょうよ。
毎日毎日(昼頃に)起きて飯食ってゲームして飯食って、ゲームして(朝に)寝て……。
「やめだ、やめ」
自分で考えておきながらまるっきり天国行きのチケットを破り捨てている。
簡潔に言おう、つまりここは地獄だ。
いままで自堕落な暮らしをしてきた愚か者に強制労働を強いる永遠の監獄だ。
だから空はこんなにも禍々しいんだ。
だからそこらじゅうに人骨が散らばっているんだ。
今頃現世では散らばった肉片をかき集めて完全に封のされた棺桶で葬儀が行われているんだ。
「いやねえ……死って唐突だな……」
もうほんとに恐ろしいくらい冷静だった俺はその場に立ち上がった。
完全な無風状態。
草が揺れる音一つ、それすらない。
なんというか、少し前にゲームでみたな。
魔王領の風景だ。
このまま進んでいくと城があって魔王がいてこう言うのだ。
「フハハハ、よく来たな勇者!」
とかの決まり文句を。
まあとりあえずだ。
こんなところでじっとしていてもなにもない。
一番の問題は退屈から来る精神異常だ。
人間って刺激が多すぎるとストレスになるくせに、何もなくてもストレスになるっていう我儘な生き物なんだよ。
そう思って一歩踏み出した矢先、こつんと傍らのされこうべにヒット。
人骨がカタカタと揺れ始めて、音もなく浮かび上がって一瞬にして……。
「スケルトン……?」
リアルだな……映画かなにかのセットかな?
黒い光がスケルトンの手元に集まって剣が出現。
「ものほん?」
警戒して構えた瞬間、スケルトンが剣を振り下ろし、そこから斬撃が放たれた。
構えていたお蔭か一歩横にずれるだけで難なく躱せた。
しかし、気になるのが地面に刻まれた一筋の線。
振り向けばかなり先まで刻まれている。
まさか……斬撃があそこまで?
ありえない。
ゲームじゃないんだから、どうみても疑似的な真空切断ができるような速さでもないし。
圧縮した空気で切断するようなことも道具なしにできるわけがない。
魔法? いやいや、そんなもの――ズシャァッ!
「がっ! ……てぇ……いてえよ」
よそ見しながら考えていたせいで二の太刀をまともに受けた。
片腕の皮膚が裂けて血がぽたぽたと落ちる。
焼けるように痛い、訳はなく、痛すぎて痺れてきた。
雨風にさらされて、錆びてぼろぼろになったような剣なのに、なんでこんな綺麗に斬れるんだよ。
……そんなことより血だ。
血が出る、痛みを感じた。
そう言う事ならば、まだ俺は生きているといえるのでは?
つまりここで斬られると一般常識の範疇の死が適用されるってことだよな。
「死ねるかぁぁーーーーーっ!!」
戦う?
バカ言っちゃいけない。
素人が狂気と凶器を持った強盗に立ち向かうとほとんどの場合は殺される。
だから逃げるに……。
敵は魔法のようなものを使った、俺は別世界への転移、もしくは夢の可能性あり。
ならば?
「ファイアァァ!」
腕を突き出して中二病全開のように叫んでみた。
…………。
……。
当然なにも起こらない。
これ、あたりまえですよ。
「…………、」
不味いね、逃げようか。
一歩後ろに下がり、バキッ!
何か踏ん…………地雷よりも踏んじゃいけないものを踏んでしまった。
されこうべ、頭蓋骨、髑髏。
それを合図に続々とスケルトンが現れ始めた。
ものの数秒で辺り一面を埋め尽くす。
「あ、あぁ、うわぁぁああああーーー!」
恐怖よりも死にたくない一心で走った。
心の奥底から生きてと誰かが呼びかけてくる。
死にたくない、死ねない、こんなところで終われない。
腕の傷口を抑えながらただ走った。
裸足だが、草が地面を蹴る痛みを抑えてくれる。
途中何度も骨を踏み砕き、そのたびに進行方向の骨が起き上ってスケルトンになって。
それを繰り返しているうちに現れるスケルトンも、剣を持ったものから弓矢や杖を持ったものに変わってきた。
どう見ても近接攻撃に遠距離攻撃が加わった不味い状況。
まっすぐ走れば後ろから撃ちぬかれる。
だからジグザグに走り方を変えたのだが、剣を持ったスケルトンは当然まっすぐに追ってくる。
あっという間だった。
逃げ切れるわけもなく、数百メートル走ったところで完全に包囲された。
盾持ち、剣と杖持ち、その外に弓を持ったスケルトン。
円形ファランクスとでも言いたい鉄壁の壁。
抜けられない。
「……くそ」
こういう時はどうすればいいんだっけ?
意表を突いて、その隙に逃げることが大事だ。
あ、あそこに未確認飛行物体が! てきな方法で。
「すみませんでしたぁ!!」
突然の土下座。
視線は斜め下の俺に向かう。
それを狙って股下を駆け抜け――ドスッ!
地面を思い切り蹴った瞬間、違う音がした。
「あ……れぇ」
背中から胸元にかけて焼けるように、もの凄く熱い。
頭を下げれば突き出した赤色の剣。
頭を上げれば、背中に突き立てられた剣と、それを押し込んでくる骨。
体から力が抜ける。
「なん……でぇ……」
地面に押し付けられた肢体。
霞んでいく視界。
まだ耳だけはしっかりと機能しているのか、嫌な音を感じている。
ぐちゃぐちゃ、じゃりじゃり、べちゃり、ぼぎっ……。
踏まれて、刺されて、殴られて、腕を斬られて、足を斬られて、骨を砕かれて。
感覚が消えていく。
深い海の底に沈むように、意識が深淵に沈んでいく。
あぁ、俺ってこんな訳の分からないところで人生を終えていくのか。
緩やかなそっとなでるような風が身体を撫でた。
最後に心地よい風を全身で感じて、静かに俺は目を閉じた。
超不定期更新と書いてますが、最初の内は一週間に二回の更新を目指します。