転移前-1
誠に申し訳ありませんでした。
復活しましたよこの駄作。
第256次実験
世界を再構成――リブート
目標・魔神の殺害、魔法の排除、及び保護対象への脅威を完全排除
開始時点・世界暦999年を基点に誤差24000時間以内
西暦時点での歴史介入・無
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「なあ霧崎」
「ん?」
「公式掲示板に出てたあのニュース見たか? なんでも賞金有りの大会らしいんだけど」
「ああそれ、昨日見ましたけど……知っていますよね? 俺がどういう人間か」
「知ってるよ。不登校、引き籠もり、現実では対人恐怖症なのか一切部屋から出ない、仮想では廃人並みのゲーマー、寮長に」
「もういいですよ! てかそれ以上言わないでください」
「ははっ、それでだ、そんなお前に知り合いはいない。この大会は二人以上の参加。と、なれば?」
「……。俺にどうしろと? そもそも大会の日は、珍しく寮長から『仮想へのダイブ禁止!』なんて注意されているんですが」
「ふん、この私を誰だと思っているのかねぇー、ワトソン君」
「誰がワトソンですか」
「ならエドワードと呼んだ方が良かったかな?」
「ジャングルの奥地で羽ばたきませんよ……」
「連れないなぁ」
「というか本題に戻りません? アサルトライフル抱えたまま荒野のど真ん中に座り込んでる俺らって良い的ですよ?」
俺が腕に抱えるのは軍用自動小銃。
確か、数百年前まで『ろしあ』とか言う国で使われていたモデルを再現したらしい。
さすがに内部機構までは分からなかったが、ここは仮想。
見せかけの処理でどうとでも誤魔化せるらしい。
「大丈夫大丈夫、撃たれても超痛いだけで死なないってのがヴァーチャルリアリティー」
「……痛覚まで忠実に再現します、の、どこがいいんですかこのゲームは」
成人向けサーバーならあちこち千切れ飛ぶこともあるのに。
「まあ確かに」
「それで? その大会、俺にどうしろと?」
「よくぞ聞いてくれた!」
「うわっ」
「如月寮の廃人……もとい仮想で腕の立つやつらを集めて参加しよう、ということだ。霧崎、俺、室井と……後は募集するか」
「まだ決まってないんですかい」
「うむ、決まっておらんよ二等兵。敵が来た」
「……、」
お隣、寮の先輩であり直属の上官――と言っても仮想で、だ――が立ち上がる。
この荒野に太陽の日はあまり降り注がない。
上空の風、舞い上がる赤茶けた砂。
そんなどんよりしたものが常に大空を覆っている、という設定のため、廃れた世界という印象が強い。
遠くを見れば傾いたビルとか、砂漠に突き刺さった船とかあるし。
「それじゃあ、いつも通り」
「りょーかい……」
嫌々ながらやるしかない。
今、絶賛引き籠もり中の稼ぎはこれしかないのだから。
他のプレイヤーを倒し、ペナルティのドロップで武器を奪ってRMT。
運営が禁止していないのだからやっていい。
まあ、そんなことばっかりやってると賞金掛けられて袋叩きにされるのが落ちなんだけど。
「スキャン完了、行くぞ」
「いえっさー……。はぁ、なんでいつも囮……」
上官がアイテムを使って敵の位置をマップに投影する。
当然視野に表示されている地図にくっきりと位置が現れ、動きの予測がしやすくなる。
だがそれは相手側も使えるという事であり、囮の俺にとっては大変困るのである。
「わたっ、いってぇっ!」
音も光も何もなく、気づけば足に激痛。
被弾した。相手はどうやらそれなりに良い武器を所持しているようだ。
被弾の効果である赤い光点がつま先に。
衝撃も現実同様に再現されるが、血が飛び散ったり身体が千切れたりなんてところまでは、規制があるから再現されない。
そのため、実際に撃たれても、爆破に巻き込まれても欠損なんてことはない。
その代わり、確実にそんなダメージを食らったと判定された部位は激痛と共に動かなくなる。
だが幸い俺の足はまだ動いてくれる。
「やっちまえー!」
敵が左右に分かれて向かってくる。
俺はスモークグレネードのピンを引き抜いてばら撒いた。
あくまで囮。
”対人戦”の経験はあるにはあるが”覚えて”いない。
明らかに戦ったという事実はある、だがその記憶だけはすっぽりと抜けている。
覚えていたくない、忘れたい、強烈な思い込みでわざと忘れている。
それでも体が覚えてるんだけど。
「賞金首みぃっけ」
前面には真っ白なスモーク。
声は俺の背後から。
「ステルス!?」
そう叫んだ時には赤い光点が煌めき、俺を撃とうとしていたヤツがエフェクトと共に消え去った。
上官が撃ったようだ。
「悪い」
「しっかり確認してくださいよ」
砲弾のように大きなサプレッサーを付けたスナイパーライフルを構えながら、さらに二発。
スモークの向こう側で三人分の反応が消えた。
強力な攻撃にはシステム側で貫通判定までやってくれる。
「ほら、ドロップ回収するぞ」
「はいはい……後で復讐されないだろうか……」
「それはその時だな、うん」
そんな呑気なことをいう上官を放っておいてドロップ品を回収。
さっさと売り払って来月分の寮の金にしよう。
絶賛引き籠もり中である俺はまず部屋から出ない。
そうなるとアルバイトなんてしているわけではないので収入がない。
当然親からの仕送りなんてものもない。
と言うか、引き籠もりすぎて親に見捨てられた。
そういうわけでこれが稼ぎのメイン且つすべてになる。
「それで……さっきの話ってなんだったっけ?」
「忘れないで下さいよ、大会の話でしょう」
「ああそうだった。んでだな、霧崎、お前の参加は強制だ」
「……はい? 俺その日はダイブ禁止令が」
「ふふん、この現実でも兵長やってる現役のPMSC社員にまっかせなさーい」
「嫌な予感しかしないんですが……それにうちの如月寮って、学生寮じゃなかったですかね」
「あ、それは表向きな」
「裏向きは?」
「寮長にでも聞いてみな。それより今回の大会だ。フレシェットスクワッド」
「変な名前ですね」
「スクワッドは分隊。人数は十人前後だな。ここの大会は一グループの人数と大まかな戦い方で名前を決めているからな」
「ってことは……高速で動き回る人間たちか」
「フレシェットが高速で標的を貫通する弾丸だから、まあニュアンス的にはそれでいいか」
「で、具体的にどんなものなんですか」
「なに、簡単な事さ。このゲイルクロニクルの中で、ちっぽけな戦争、殺し合いをしようってことさ」
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