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6 彷徨う魂

独断と偏見キャスティング(敬称略)


砂川有一:松本 潤


桜海 天:大野 智

赤星聖也:二宮和也


「彼女が待ちくたびれるな」


 ブルージーンズに白いポロシャツという、爽やかな青年らしい出で立ちの有一(ゆういち)は、待ち合わせ場所へと急いだ。


「いつも西口と東口を間違えるからなぁ」

 呟きながら歩く有一は段々と駅ビルに近づいてきた。


「何か嫌な感じがするなぁ」

 彼が駅ビルに入った途端、爆発が起こった。


「まずい。有紗(ありさ)に知らせないと…」



「どうしました?」


 突然知らない男に声を掛けられた有一は、いきなり変なことを言うヤツだなぁと思い無視した。


「彼女、待ちくたびれるな」

 有一は急ぎ足で待ち合わせ場所へと向かう。


「いつも西口と東口を間違えるからなぁ」

 しかし、彼は待ち合わせの駅ビルには行ってはいけないような気がするのだった。


「何か嫌な予感がする」

 爆発が起こり、有一は慌てて走り出そうとした。


 その時、

「あの、有一さんですか?」

と、何故か携帯電話を片手に、まるで電話の相手に話しかけるような調子で、しかし目は自分を見つめて声を掛けてきた若者に驚き、有一は立ち止まった。


『はぁ、あなたは?』

 有一はキョロキョロと周りを見て、自分に声を掛けられている事を確認し、返答した。


(おう)()といいます。アリサさんからの伝言を預かりました」

『伝言?』


「はい」

『待ち合わせ場所が変わったなら、直接連絡くれると思うんだけど…?』


 そう言って有一は、桜海を疑いの目で見つめ、携帯電話をヒラヒラさせた。


「あなたはずっと、同じ場所を行き来していますよね」

『え?』


 桜海は、有一が待ち合わせ場所に何度行こうとしても辿り着けないでいる事を指摘したのだが、本人にはわからないようだ。


「えーと、向こうでアリサさんが待っているので、ご案内します」

『何処? 俺、自分で行けるから』


「いえ。まず、あなたは自分を見つけないと…。」

『は?』

 有一は桜海の言っている意味がわからない。


「とにかく、来て下さい」

『知らない人にはついて行くなっていうでしょ?』

 有一は桜海のことをまるで信用していない。


「仕方ないな。じゃ、これをしっかり持ってください」

 桜海は説得を諦めて、何やら細い紐のような透明に光る物を手渡した。


 わけもわからないまま紐の端を握った途端、有一は引っ張られるように宙を飛んでいった。


「戻れたかな?」

 桜海は手をかざして有一が飛んで行った方向を心配そうに見つめた。


 やがて、携帯電話をポケットにしまって、桜海は満足そうな顔で帰っていった。



「有、紗…」

「有一? 有一! 目が覚めたのね! 良かった」

 有一は病院のベッドで目を覚ました。


「有一、ごめんね。私、また待ち合わせ場所間違えちゃって。爆発事故が起こるなんて」

「爆発…」


「私、東口にいたのに、西口で待ってるって言っちゃって、本当にごめんね」

「有紗、きみは無事なんだね?」


「うん。有一の怪我は軽いってお医者様がおっしゃったのに、目を覚まさないから、もうどうしようかと思った」

 有紗は涙を流しながら言った。


「心配かけたね。もう大丈夫だから」

「うん。また会えて良かった」


 この時、有一はようやく桜海の言ったことの意味が理解できたのだった。


 ――まず、自分をみつけないと…。――


「不思議なヤツだな」



 意識が戻った有一(ゆういち)は、検査を受けて異常が見られなかったので、すぐに退院することができた。


 生と死の狭間(はざま)に居た自分を元に戻してくれた(おう)()が、有一の見た夢にしては、リアルだったので、有紗(ありさ)に確認してみたのだが、彼女は知らないという。


 しかし、あの時、おうみと名乗った人物は、有紗の存在を知っていた。つまりその人物は、事故後意識の戻らない有一と有紗の関係や状況を知っていたということになる。


 そう思った有一はあの時会った桜海が実在人物と考え、彼を探すため、事故現場の駅ビル周辺でその姿を探すことにしたのだった。

 何日か、仕事の合間や通勤時を利用して、やっとお目当ての人物に遭遇した。


「あっ」

 道ですれ違いざまに思わず有一は大きな声を出していた。

「?」


「ちょっと待って、キミ、オウミさんでしょ」

 有一は目の前を通り過ぎようとする桜海の腕を掴んだ。

「な、何ですか?」


「あの時、彷徨(さまよ)っていた俺を助けてくれて、ありがとう」

「…」


「でも、有紗はキミを知らないって言うんだ」

「あの、いったい何のことでしょう?」

 有一は、確かにあの時の彼かどうか、自分が幽体の時の記憶があてになるのかどうか、戸惑った。


「僕、急ぐので失礼します」

 桜海はやんわりと言って歩き出した。


 有一は諦めきれず、去って行く桜海の後をこっそりつけていく。


 しばらく歩くと、桜海はふと立ち止まって誰も居ないはずの木陰に向かって、

「こんなところで、どうしたの?」

と、言った。


 有一は自分が声を掛けられた時の事を思い出し、黙って物陰に隠れ、その様子を見つめた。


「じゃあ、これ持ってね。放しちゃだめだよ」

 桜海が安堵(あんど)溜息(ためいき)()いた。そこで有一は彼に近づき声を掛けた。


「今、そこに誰か居たんだね?」

 桜海はギョッとして振り返った。

「あなたに助けてもらった砂川(すながわ)です」

「向こうに行きましょう」

 桜海は砂川(すながわ)有一(ゆういち)を木陰から連れ出した。

「よくよく考えれば、俺はあの時、霊体だったんですけど、あなたには見えていた、ということですよね?」

「あ、の…」


「俺はあなたのおかげで生き返った。本当にありがとうございました」

 桜海は無言で砂川を見つめた。


「是非、あなたのご連絡先を教えてください」

「どうして、ですか?」


「俺は雑誌の編集をしています」

「ひ、人違いです。お断り…」


「いえ、あなたの事を記事にしたいわけではなくて…」

 桜海の怪訝そうな目つきに怯みながら有一は続けた。

「…相談したい事があるんです」


「やっぱりお断りします」

 そう言うと桜海は、足早に砂川のそばから遠ざかって行った。


 有一は桜海の背中を見送りながら、

「彼に間違いないな」

と呟いた。


 いつものように(おう)()がテリトリーチェックのために街を散策していると、

『ぴー!!』という聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「うん? タマコ?」

 桜海は急ぎ足で声のしたほうへ向かった。


 すると、狭い路地で赤星(あかぼし)が立ち止まっていた。

 もちろん例によって彼の意思でそうしているわけではなかった。


「タマコさん、居るんでしょ。何とかしてよ。頼むから…」


 どうやら強い地縛(じばく)(れい)に捕まってしまったようだ。


「ヤバイよ。車が。避けなきゃ()かれちゃうよ。死にたくない。放してくれよ」

 前方から路地いっぱいになる程幅広いトラックがやってきていた。


 トラック運転手は、じっとしている赤星にクラクションを鳴らしながら、ブレーキを踏むが間に合いそうに無い。

 桜海が助けに行くのも間に合わない。

 そこで桜海は赤星を結界で囲み、それを上昇させることで危険を回避させた。


 急ブレーキをかけたトラックは、赤星の居た位置からかなりの距離を過ぎて止まった。

 しかし何の衝撃も無かったので、運転手はキョロキョロとミラー等で確認した。


「おかしいな。目の錯覚か?」

 つぶやく運転席の脇を、身体を横にしてすり抜けながら、

「こんな狭い道をそんな大きなトラックで暴走すんじゃねぇ!」

と、桜海が叫んだ。


「うわっ、すいません! 大丈夫ですか?」

 運転手は高い運転席の窓から桜海を見下ろして言った。


 桜海は携帯のカメラで運転手を写して言った。

「今度こんな事したら、警察に通報するから覚えてろ」

「警察? 勘弁してくださいよ、怪我ないんでしょ?」


 桜海がトラックの後方まで通り抜けたのを見た運転手はゆっくりとトラックを発進させて去って行った。


 桜海は赤星を地上へ降ろし、結界を解いた。


「痛っ…」

 赤星は結界が解けた反動で尻餅をついた。


「大丈夫?」

 桜海があわてて駆け寄ると、座っていた赤星が、ゴロンと道路に寝転んだ。

「もう、お、やだ…」


「ここは危険だから、移動しよう。ほら、立って」

 桜海が赤星の手を取って立ち上がらせようとするが、

「もう、いい。もう、たくさんだ」

 と言って、赤星は手を振り払った。


駄々捏(だだこ)ねんなよ」

 桜海はそんな赤星をため息混じりに見下ろした。


「どうせ、地縛(じばく)(れい)だろ。封じてくれた?」

「無理。タマコが捕まった。一緒に封じてしまうことになる」


「えっ?」

 赤星はハッと身体を起こしてキョロキョロするが、見えるはずもなく、

「あ、俺には見えないと思ってウソついた?」

と桜海に疑いの眼差しを向けた。


 そして赤星は背中の土埃を払う振りをしてタマコの温もりを確かめてみた。

 だが、どちらの肩にもその存在が感じられなかった。


「…」

 桜海(おうみ)の表情は硬い。


「どうするの?」


 しばし考え込んでいた桜海は、急に赤星(あかぼし)の両肩を掴んで言った。


「今はキミがタマコの主人だ。地縛霊の元からこちらに戻らせてくれないかな?」


「え? 何にも見えないのに、どうやって」

 桜海は赤星の手を取って立ち上がらせると、タマコを捕まえている地縛霊の方向を指差しながら言った。


「キミとタマコだけの秘密とか、何か無いかな? タマコに思い出させないといけないんだ」


「思い出させる? 何を?」

「キミと供に存在していたことを」


 赤星は考えた。

「うーん。難しいな」

「タマコに話しかけたこと無いのかよ」


「そりゃ、だって、誰にも見えないんだぜ。俺、独り言(ひとりごと)王子になるじゃん」

 桜海はガクッと肩を落とした。


「タマコ、ごめん」

 桜海が俯いて悔しそうに詫びた。


「まさか、一緒に封じる気?」

 赤星は動揺した。


「仕方ない。このままじゃ、地縛霊に取り込まれて、もっと力の強い悪霊(あくりょう)になってしまう」

 桜海は、巨大な地縛霊を見上げた。


「いやだよ。タマコさん、どこ?」

 桜海はもう一度、タマコの位置を指差した。


 赤星はその方向へ手を伸ばして言った。

「卵の次に大好きだよ、タマコさん。帰って来て」

「…」


 すると、タマコがふっと地縛霊から離れて、赤星の手の平に乗った。


「あ…」

 赤星は、ほんわかとした温もりを手の平に感じて、微笑んだ。


「よし」

 桜海は地縛霊を結界で囲んで、印を結び消滅呪文を唱えた。


「ふう…」


「良かった。ほんのり温かいや」

 赤星が自分の手の平を見つめながら言った。


「見えないだけじゃなく、その温もりも感じないはずなんだけど」

 桜海がいつになくニヤニヤしながら言うので、赤星がその真意を探るような目で言った。


「何?」

「やっぱ、体質だな」


「はぁ?」

 桜海が言っている内容と表情が噛み合わないので赤星は怪訝な顔をする。


「吹き出しそうなのを必死で堪えたよ。タマコ、愛されてるな」

 桜海はクククッと笑った。


「なんだよ」

「いいや。ぁははは…」

 堪えきれなくなった桜海は声に出して笑った。


『なによ、テンったら、笑うこと無いじゃない』

 タマコも抗議する。


「驚いたよ。タマコさんでも、敵わない霊が居るんだね」

(まれ)だけどね。俺がたまたま近くに居たから良かったよ」


 桜海はタマコに片手でゴメンのポーズを見せた。


 赤星は桜海を見つめ真面目な顔で尋ねた。

「どうやって、助けてくれたの?」

「え?」


「怖くてずっと、目、瞑っていたからさ」

「う。…知らない方がいいかも」


『そりゃあ、説明できないわよね。プン』

「…」


 桜海は、緊急手段だったとはいえ、あからさまに術を使ったことを少し不安に思った。


 そして、その不安は的中したのだった。



嵐が大好きです。

あくまでも独断と偏見キャスティングですのでお気を悪くしないでくださいね。


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