4 海に棲む魔物
いつものように桜海が町を歩いていると、正面から見知った顔が友人たちと歩いてくるのが見えた。
当然だが、相手も桜海を認識した。
しかし、桜海は声を掛けるのは遠慮して道を譲った。
ところが、
「やあ。俺たち、これから海に行くんだ」
と、彼の方から桜海に声を掛けてきた。
「赤星、知り合い?」
連れの男友達も立ち止まった。
桜海は赤星と3人の友人たちに軽く会釈をした。
「海?」
桜海は赤星に尋ねた。
「海水浴」
赤星が嬉しそうに答えた。
「何で…」
桜海にすれば、いくらタマコが一緒でも、海や川など、霊溜まりの多い場所に行くのは危険だと言いたかったのだが上手く言葉にできなかった。
「可愛い女の子と出会えるかもしれないって…」
赤星は自分の後ろにいる友人たちを親指で指しながら言った。
「やっぱ夏は海水浴じゃん」
「アローハー!」
「イェーイ!」
友人たちは見るからに軟派な雰囲気の若者ばかりだ。
「桜海さんも行く?」
赤星は、どう見ても連れ立っている友人たちとは毛色の違う桜海を誘った。
すると、
「その格好で海?」
と、一斉に友人たちが桜海の服装を見て指摘した。
彼らはみんなアロハシャツにサングラス、短パンにサンダル姿。
一方桜海は、地味な紺色の作務衣にスニーカーといったスタイルだ。
「ナンパは難しくね?」
「逆に目立つかもしれないぜ?」
3人は桜海を品定めするような目つきで見つめた。
「いや~。ちょっと無理だろ?」
桜海はギンギラギンなフェロモン垂れ流しの彼らに目眩を感じた。
「俺は遠慮します」
「ごめんね、桜海さん」
云いたい放題の友人に代わって赤星が恐縮そうに詫びた。
「気をつけて」
桜海はタマコに伸びる標の端を持たせた。
『心配性ね』
タマコは笑いながら標を赤星の頭にくっつけた。
赤星はひらひらと手を振って友人たちと去って行った。
その辺の店がまだ開いていない時間から、張り切って海を目指す赤星につけた、普通の人には見えない標が、桜海の手の平からドンドン伸びていった。
カジュアルファッションの店が開店すると桜海は店員を捕まえて、適当に今流行のスタイルにコーディネートしてもらってから、標の示す場所へと移動した。
まぶしい太陽と、青い海。
若者から家族連れまで大勢で賑わう浜辺にやってきた桜海は、標の先に居る赤星の姿を確認した。
桜海は、ナンパな仲間たちと一緒に次々と女の子たちに声を掛けている赤星にかなり違和感を持った。
あまりに暑いので桜海は店員の趣味で持た(買わ)されたビーチパラソルとビーチチェアを広げた。
何かあってもタマコの声が聞こえるし、標も付けてあるので、桜海は安心して、飲み物を買ってきてビーチチェアに腰を下ろし、寛いだ。
しばらくは潮の香りと浜辺で楽しむ人たちの明るいオーラを感じながら水平線を眺めていたが、徐々にサングラスの下の桜海の瞼は段々その重さに負けていった。
「な。やっぱりそうだろう?」
「今朝の雰囲気からは想像できないド派手なパラソルだよな」
「寝てんのかな?」
知人を見つけたと言うので、赤星も確かめた。
「…桜海さん?」
「せっかくのビーチで昼寝かよ」
「海の水かけてやろうか」
何やらガヤガヤ声がするので、桜海は目を開けた。
すると、サングラスの陰の中に赤星を含むナンパ一族が群がっていた。
「え?」
桜海は目を瞬いた。
「やっぱり海に来たかったんだね」
赤星がニコニコしながら言った。
「せっかく来たんだから、寝てないで、女の子と遊ぼうぜ」
赤星のナンパ仲間の1人がニヤニヤしながら言った。
桜海にしてみれば、こっそりつけてきて、こっそり見張っているはずだったのでバツが悪いことこれうえない。
「…」
「お。カワイ子ちゃん発見!」
仲間の一人が声を上げると、
「行こうぜ!」
と赤星の友人たちは走って行った。
「凄いイメチェンだね」
赤星が、桜海の格好を頭の先から足の先まで見て言った。
「行かないの?」
赤星の友達が波打ち際で女の子たちと笑いあっているのを見て桜海が言った。
「勿論行くけど、桜海さんは何しに来たの?」
誘いに乗らなかった桜海が海に来たことを赤星は不思議に思ったのだ。
「社会勉強」
どうやら浜辺では赤星の友人たちが女の子たちをビーチボール遊びに誘っているようだ。
「女の子との出会いを求めて来たんじゃないの?」
桜海は、赤星が心配でついて来たとは言い難かったので、
「今日はみんなの様子を見て、勉強するよ」
と、笑って誤魔化した。
「そう。日焼け止めくらいは塗っておいた方がいいよ」
赤星から助言をもらったので桜海も、
「他のものに出会わないよう気をつけて」
と注意を促した。
「他のもの?」
タマコのお蔭で、普段は霊に脅かされることがないようで、ピンとこない赤星に桜海は、
「海の底の住人とか…」
と、あまり脅かさないように言った。
「大丈夫。潜らないし、大して泳がないから。ビーチボールで水着の女の子たちと遊ぶんだ」
嬉しそうな顔で言う赤星に、
「何か、いやらしいな」
と桜海は呆れた。
「良かったら後でおいでよ。じゃっ」
赤星は仲間たちの元へ一目散に走って行った。
桜海は前世で愛した女性のオーラを持つ赤星の存在が気になって仕方が無かった。
霊の影響を受けやすいのはそのオーラの所為かもしれない。
しかし当の本人は全くそんなことはわかっていない。
心配する桜海を尻目に赤星と3人の友人は、ちょうど4人連れの女性たちに声を掛け、ビーチボールを使い波打ち際ではしゃぎ始めた。
「ユウコちゃん」
赤星がボールをトスした。
「はーい」
赤いビキニから青い海パンへ。
「タツヤくん」
青い海パンから白いビキニへ。
「マリナちゃん」
白いビキニから黒い海パンへ。
「は~い。ケンタくん」
黒い海パンから黒いワンピース水着へ。
「よっしゃ。ほれ、ナナちゃん」
黒いワンピース水着から赤星へ。
「マサヤくん」
赤星から緑の短パンへ。
「はい。リュウくん」
「お前なぁ」
赤星が女子にパスせず、男子にパスしたのでリュウは苦笑いだ。
緑の短パンからピンクのワンピース水着へ。
「蜜蜂ちゃん」
ピンクのワンピース水着からボールは海へ。
「やだっ。ミツコだもん」
ピンクのミツコちゃんは巨乳なのが、遠目でもよくわかる。
「あ~あ」
赤星が拾って、白いビキニへ。
続く…。
楽しそうにビーチボールで遊ぶ彼らを遠目で見つめながら、桜海は何杯目かのジュースを飲み干した。
「疲れるなぁ」
あまりの暑さのせいか、彼らもどうやら少し休憩するようだ。
海の家風の売店に8人が群がり、それぞれカキ氷や飲み物を購入している。
そんな様子をぼんやり見ている桜海のパラソルへと、赤星がやってくるのが見えた。
「ちょっと休ませて」
お店に入る以外は、日陰しい日陰がないからだろう。
「いいけど。女の子はあっちだよ?」
眠そうな桜海の目はサングラスで誤魔化され、何やら鋭い指摘をしたような感じになった。
「う…ん。なんか、リュウが気に入ったナナちゃんは俺がいいみたいで、ちょっとね…」
その雰囲気はボールのやり取りを見ていても歴然とわかるくらいだった。
「ふーん。赤星はどの娘がいいんだ?」
「わかんない」
「あ、赤い水着の女の子がこっちに来る」
赤星が桜海と話しているのを見つけ、嬉しそうに近づいてきた。
「ユウコちゃんだ」
何故か赤星はため息を吐いた。
「行ってあげなよ」
「代打。桜海選手。よろしく」
「無理」
桜海はビーチチェアに寝転がった。
「マサヤくん、お願いがあるんだけど…」
「な、何?」
ビーチパラソルの少し手前で赤星に声をかけたユウコは、何やらもじもじしている。
どうやら、桜海には聞かれたくない話のようだ。
赤星は仕方なくパラソルから出て、ユウコに近づいた。
ユウコは赤星に小さく耳打ちした。
「えっ?」
ユウコの声が小さいので、赤星が彼女の顔に耳を近づけて聞き取ろうとしていると、黒い水着のナナちゃんが、慌ててやってきた。
「ちょっと、抜け駆け、ズルイ~」
「べーっ。早い者勝ちよ」
ユウコはナナに向かって舌を出した。
「あのさ。みんなで遊ぼう。ほら、呼んでるよ。行こう」
赤星は両手に花の状態で、
「こういうのをモテキっていうのかな?」
と呟きながら仲間の居る波打ち際へと戻っていった。
桜海はあたふたする赤星の背中を見送った。
ビーチボールバレーが再開して暫くすると、少し風が出てきて、ボールが想うようにパスできず、それはそれで面白いようで笑いが耐えなかった。
「もうユウコったら、飛ばし過ぎよ」
ナナが海へ逸れて飛んだビーチボールを取りに行くのを面倒くさがった。
「わかったわ。あたしが取ってくる」
ユウコは水の中へとビーチボールを追いかけていった。
「マサヤくん、帰りにゴハン、私と行かない?」
ナナはユウコの居ない隙に、赤星に声をかけた。
「みんなで行くなら」
赤星はリュウの視線を気にしながら返事した。
「みんな、もう昼だぜ。焼きそばでも食べよう」
タツヤがみんなに声を掛けると、ボールをユウコ一人に任せて、ゾロゾロと店へ向かった。
赤星はユウコを気にして振り返った。
「マサヤく~ん」
ユウコが海の中から呼んだ。
「ボール取れない」
見れば、ユウコは首まで浸かった状態だが、ボールは少し先に浮いている。
どうやら彼女は化粧を崩したくなくて、顔を浸けて泳ぐつもりがないようだ。
赤星は仕方なくユウコのそばまで行った。
「みんな、焼きそば食べに行ったから、ユウコちゃんも行きなよ。ボールは俺が取って…」
ユウコはいきなり、
「マサヤくんとここに居る方がいい」
と言って赤星に抱きついた。
「あ、ちょっと、ボールが流されちゃったよ。危ないから戻ろう」
赤星はユウコと一緒に波打ち際へ戻ろうとした。
ユウコは赤星を独り占めしようと、突然キスをした。
驚いた赤星は足を砂に取られてバランスを崩し、抱きついたユウコ共々水中に潜ってしまった。
すぐに手を離したユウコは水中から顔を出して逃げ出したが、なぜか赤星は水の底に沈んだ。
大した深さでもないのに、体が言うことを聞かない。
『テ~ン』
空中に浮いて避難したタマコが叫んだ。
(海の底の住人とか…)
赤星の脳裏に、桜海に言われた言葉が浮かんだ。
(なんで俺ばっかりこんな目に遭うんだ)
赤星の悔し涙が海の中に溶けた。
波打ち際から浜辺へ上がろうとするユウコとは逆に、桜海がシャツを脱ぎ捨てながら急いで海の中へ入っていった。
赤星が自分はこのまま死ぬのかなと思いながら、海の底から海面を見上げていると、桜海の姿が見えた。と思ったらすぐに防波堤の外側のテトラポットに助け上げられていた。
「もう一人助けてくる」
桜海はそう言うと、水の中に飛び込んだ。
赤星は咳き込みながら、
「もう一人って?」
と呟いた。
ユウコは先に海から上がったはずだからだ。
赤星はテトラポットを上って防波堤の平らな所から波間を見つめた。
ところが、飛び込んだまま桜海がなかなか上がってこない。
「桜海さん? 大丈夫?」
潮風と波の音ばかりだ。
「桜海さん! 桜海さん!」
赤星は青ざめた。
「おーい。大丈夫か~?」
ふと、浜辺からケンタの声が響いた。
どうやら、ユウコから知らせを受けて駆けつけようとしたが、防波堤の上でウロウロする赤星を見つけ、ホッとしているようだった。
赤星は浜辺のみんなに手を振って応えた。
「薄情者だな」
背中に浴びせられた言葉に振り返った赤星は、
「そっちこそ。わざと心配させたんだろ」
とテトラポットを上ってきた桜海に震えながら言い返した。
「何やってんだ、あいつら」
タツヤが心配して損したと言わんばかりの態度で言った。
「無事みたいだし、焼きそばできてるから、行こうぜ」
ケンタのお腹が鳴った。
「良かった」
赤星が無事だったのを見てユウコは安堵した。
「何が良かったのよ。どうして、マサヤくんが溺れることになったの? オカシイでしょ!」
ナナはユウコに鋭く言った。
「ごめんなさい」
「どうせユウコのことだから、抜け駆けでしょ」
ミツコが見てきたかのように言った。
「あ~あ。ユウコに頂かれちゃったのか」
マリナは人差し指を銜えた。
「変な言い方しないでよ」
ユウコは3人を睨みながらお店に入った。
「どちらにしろ、今日の逆ナンは失敗ね」
ミツコが恨めしそうに呟いた。
続けてお店に入ってきたケンタとタツヤの耳にミツコの一言が聞こえて、2人は顔を見合わせた。
タツヤとリュウは先に陣取った女の子の向かい側の席に座った。
「あれ? ナンパされたの、俺たちの方なんだ」
リュウが訊いた。
「そりゃそうでしょ」
マリナは艶っぽい唇を、細くて柔らかそうな指先で隠しながら、色っぽく微笑んだ。
「マジ?」
タツヤは自分たちがナンパしたつもりだったので、驚いて言葉を失ったが、ケンタはちゃっかり自分が気に入ったマリナの隣の席を陣取った。
「どっちでもいい。カワイ子ちゃんと一緒なら」
「ケンタ、正直者だな」
リュウが呆れ顔で言った。
焼きそばを囲んでワイワイ言って賑やかな屋台とは裏腹に、防波堤では、赤星に喚かれてうろたえる桜海の姿があった。
「俺、死ぬかと思った。ここのところ平和だったから…俺…」
赤星は、何ヶ月か、何事も無く過ごしてきたことで、すっかり忘れていた自分の不思議な体質(?)のことを、強烈に再認識しなければならなかった。
悔しくて、目に見えない何かに影響される自分が腹立たしくて、涙で言葉が詰まった。
「そんな、な、泣かなくても…」
桜海は赤星を慰めようにも、気の利いた言葉が見つからなかった。
「違う。海の水が目にしみただけだよ」
強がりを言う赤星の顔色が良くないので、
「すぐに助けたつもりだけど、念のため病院で診てもらおう」
と、桜海はタマコの居ない肩に優しく触れた。
「そ、それに、もう一人って、誰」
赤星は恐怖で身体を震わせた。
「えっと、キミに縋りついた…あ、知らない方がいいと思…」
「ぅわ~ん」
赤星は桜海のたどたどしい説明に余計な想像を駆り立てられるのを防ぎたかったのか、両手で耳を塞いで叫んだ。
桜海は、耳元で大声を出されて仰け反った。
『念のために連れて来といて正解だったわ』
桜海は、タマコの独り言に目が点になった。
「俺って、連れて来られたんだ…」
桜海の言ったもう1人は、後日警察の手で遺骨を収容され、3年前に海で行方不明になった釣り人だと判明するのだった。
浜辺で遊んだ一行は、そのままカラオケへとなだれ込むようだった。
「赤星さんを病院に連れていきます」
桜海は赤星の仲間たちに声をかけた。
「ああ、気をつけて」
タツヤが言うと、他のメンバーは手を小さく振った。
「ごめん。お先に失礼します」
赤星が挨拶すると、女の子たちが口々に、残念そうな言葉を並べていたが、赤星の耳には入らなかった。
そして赤星は、近くの病院で診察を受けたのだった。
「付き合わせちゃってごめん」
赤星は病院の待合で座って待っていた桜海に言った。
「うん。じゃあ帰ろうか」
桜海は徐に立ち上がった。
駅までの道をゆっくり歩く桜海に、赤星が尋ねた。
「さっき、海の中で俺、動けなくなったんだ。あれってひょっとして、海の魔物の仕業なの?」
後で独りになったときに怖くなるような話は極力避けた方がいいと考えていた桜海は、詳しく教えるのはどうかと躊躇った。
「さっきはびっくりして冷静に聞けなかったけど、今は大丈夫だから…」
桜海の気遣いを察するように赤星が言った。
「う…ん。俺、上手く説明できないから…」
それは以前にも聞いた桜海のセリフだった。
「そうだったね。じゃあ、海の中でも金縛りって起こるの?」
「金縛り?」
「うん。だって、体が動かなかったんだ。何かに押さえつけられてるみたいでさ」
仕方なく桜海は、
「もう、大体見当はついてると思うけど、あの海辺で亡くなった人が、キミに助けを求めていたんだ」
と、説明した。
「ええ?」
赤星は気持ち悪がるというより、驚いていた。
自分に助けを求めてきたなどとは全く想像していなかったからだ。
「俺に助けを求める?」
「うん。多分だけど、霊はキミのオーラに縋りたくなるんだろうね」
「俺には見えないんだし、何の力も無いし、全然、頼りにならないと思うけど…」
赤星が首を傾げながら言った。
「そうだね。キミには迷惑以外の何者でもないかもしれない」
「かもじゃなくて、本当にそうなんだけど…」
赤星は大きなため息を吐いた。
「とにかく無事で良かったよ」
今日のように楽しそうな赤星を思い出すと、これに懲りたら海での遊びを止めた方がいい、とまでは桜海も言えなかった。
「桜海さんは泳ぎが得意なんだね。俺助けて、また潜ってさ」
もう1度海に飛び込んだ時の桜海の姿を思い出しながら尋ねた。
「いや。ちょっとしか泳げない」
「え? でも…」
赤星は桜海がかなり長く潜っていたのを思い出して言った。
「結界で保護するから、溺れない」
「うっわ、ずるいな」
桜海は薄っすら笑った。
駅までの道のりを二人はそれぞれの思いに耽りながらゆっくりと歩いた。
正直な所桜海は、前世の記憶の中の姫にずっと恋をしてきた。
そこへ彼女の生まれ変わりが現れたという嬉しさと、恋心を擽るオーラの持ち主が同性であることに戸惑うばかりだった。
しかし、もし彼の命を脅かすようなことが起こった場合、桜海は助けずにはいられず、彼との関わりを避けては通れない運命のように感じていた。
一方、本人が望んだわけでもないのに霊を引きつけてしまう赤星にとっては、今日のような際に、桜海の力が不可欠だと感じずにはいられなかった。
そこで赤星は桜海の不思議な力を認め、連絡先を確認すべく尋ねる。
「あのさ、桜海さんはどこに住んでるの?」
「う~ん」
当然、桜海は場所の説明だって得意なはずはなかった。
「秘密なの?」
「いや。一度来たことあるよ」
「え? 俺が、桜海さん家に?」
赤星は首を捻った。
どう考えても桜海の家に行った記憶は無い。
「うん。神社だから…」
「へ? 神社って、あの、神社?」
赤星はあの時不安な気持ちで見上げた小さな鳥居を思い出した。
「そう」
「神社に住んでるの?」
赤星には、桜海がますます不思議な存在に思えた瞬間だった。
どう考えても、住むなんてスペースが無いような気がする赤星は、もう一度訪ねてみたくなった。
「今度、遊びに行ってもいい?」
と、赤星からきかれて、
「…うん」
と、桜海は赤面しながら頷いた。
『おえっ。気持ち悪い…』
赤星の肩の上でタマコがずっこけた。