表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/51

14 北海道のその後

 桜海に北海道から手紙が届いた。


 斉藤からだった。


 引き取り手の居なかった、由希子の遺骨は、桜海たちがお世話になったペンションのオーナー、北川が引き取ったことや、鳴美の遺骨も戸田家の墓にきちんと埋葬されたことなど、その後の様子を細かくつづられていた。


 元の身体に戻った戸田郁美は、なかなか現実に馴染めず、暫くは入院生活を送っていたのだが、斉藤のお蔭で、最近ようやく普通の生活を送れるようになったらしい。


 斉藤は彼女と結婚し、静かに暮らしているということだった。



「あれから、1年以上経つんだな」

 独り言のように桜海が言った。


「え? 何?」

 赤星が尋ねた。


「斉藤さんから、手紙」

 桜海は赤星に手紙を渡した。


「斉藤さん! 元気かな」

 赤星は手紙に目を通しながら呟いた。


「元気みたい」

「良かったね」


 赤星は当たり前のように、紅茶の準備を始める。


「郁美ちゃん持ってかれたのに?」


 赤星は、桜海に指摘されて、以前郁美に夢中だった頃の自分を思い出した。

「何、古い話してんの? 今は由美子ちゃん一筋」


「あれ? こないだまで、さやかさんじゃなかったっけ?」

「まあまあ、いいじゃん」


「就活はどうなってんの?」

 桜海は半ば呆れ顔で尋ねた。


「うん、大丈夫」


「決まったの?」

「桜海さんのマネージャーって事で」


「な…」

「よろしく」


「姉ちゃ~ん」

「いつまでも姉ちゃん、姉ちゃん言うなって」


「ちゃんと就職しろよ」

 真面目に指摘する桜海をからかう様に、

「あの時の泣きべそ、可愛かったぞ」

と赤星が言った。


「何だよ」

 桜海はあの時、自分の未熟さをわかっていなかった。

 苦くて辛い思い出だ。


 赤星は慣れた手つきで紅茶を入れながら言う。

「お兄ちゃんが手助けしてあげるから」

 赤星が兄貴風を吹かせる。


「2つしか違わないじゃないか」


 むくれる桜海を宥めるようにゆっくり紅茶を差し出した。

「本当に落ち込んでたよな。あの時は。はい、お茶」


 桜海は紅茶を一口啜ってから、話し始めた。

「今思えば、由希子ちゃんは、鳴美ちゃんの方がヤバイってわかっていたんだろうね」

 ふと当時を振り返って桜海がしみじみと言った。


「そうなの?」

 赤星もテーブルに着いた。


「うん。長い間別の身体で生きてきた魂は、生きたい欲が強いから、死を受け入れるのは難しくて、悪霊になりやすいのかもしれない」


 それを聞いて赤星は、

「生きるって、死ぬ覚悟を作っていくことなのかな」

と神妙な顔をした。


「それも生きることの一つなのかもしれないね」

 紅茶の湯気が、桜海の硬い表情を、ほんわかと包み込んだ。


 赤星も紅茶をゆっくりと飲み、窓の外を見つめた。


 その横顔を見つめる桜海の目は、前世で愛した高貴な姫の面影をなぞっていた。


「結局さ、由希子ちゃんを殺した犯人はわからないままだよね」

 悲しそうに赤星に尋ねられ、桜海は少し辛そうに(うつむ)いた。


 桜海の表情を見て、赤星が確認する。

「あ? ひょっとして、わかってるの?」


「まあ」

「誰?」


「赤星が泣くからヤダ」

「ええ? もしかして…?」

赤星は桜海の瞳を見つめた。


「無理心中。泣くなよ」


 赤星はあっかんべをした。


「俺さ、今、気付いたんだけど、由希子ちゃんのお父さんて、北川さんなんじゃない?」

「うわっ」

 桜海は赤星の推理に少し驚いた。


「じゃなきゃ、遺骨を引き取ったりなんて、普通しないよね?」

 桜海は、当時その事をすでに感じ取っていたのだが、

「侮れねぇ」

と赤星を褒めた。


「でしょ?」

 赤星は優雅な手つきで紅茶をゆっくりとかき混ぜた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ