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10 カッコイイ死に方

独断と偏見キャスティング(敬称略)


岩本寛志:櫻井 翔


桜海 天:大野 智

赤星聖也:二宮和也


 寺を後にした桜海と赤星の二人。


 桜海が、いくら寺が苦手だとしても、行っただけで倒れたりはしないだろう。

 そう思った赤星は、

「何やって、そんなに疲れたの?」

と尋ねた。


 しかし、桜海は、

「う…ん。腹、減った」

の一言。

 返事になってない。


「なんだそりゃ。近くにファミレスあるから、行く?」

 赤星は桜海のリアクションに呆れながら提案した。

「うん」


 二人はとりあえず手近なファミリーレストランへ向かった。

 建物の入り口にある、大きなポプラの木が印象的なレストランを見つけた。

 中途半端な時間にも拘わらず、駐車場には沢山車が止まっていた。

 二人は駐車場をすり抜け、店に入って行った。


 少し待って案内された席に着くと、赤星がメニュー表を広げて言った。

「何、食べる?」

「同じものでいい」


「俺と同じでいいってこと?」

「うん」


 それだけ言うと桜海はテーブルに突っ伏した。


 仕方なく赤星は、レストランお勧めのセットメニューを選んで注文した。


 桜海はテーブルに突っ伏したままなので、赤星は話しかけたりしないで、暮れゆく街の景色を眺めた。


「お待たせしました」

 退屈を持て余していた赤星の目の前に、二人分の料理が運ばれてきた。


「ほら、料理来たよ」


 桜海はむくっと起き上がると、水を一気に飲んで、ガツガツ食べ始めた。


「もう少しゆっくり食べなよ」

 子供みたいに必死になって食べる桜海を見て、赤星は笑った。


 そして、赤星も桜海の食欲につられるように食べた。


 二人のお腹が満たされてきたころを見越して、デザートのプチケーキとコーヒーが運ばれてきた。


「お腹いっぱいになったね」

「うん」

 元気になった桜海を見て、赤星は嬉しそうにケーキを頬張った。


「ところで、なんであの寺に来たんだ?」

 ふと、桜海が尋ねた。

 赤星のマンションから近いとはいえ、奇遇に思えたからだ。


「いつものコンビニ弁当に飽きたから、向うのスーパーまで食材を見に行った帰りだったんだ」


 そういうわりに、買い物袋の一つも持っていなかった赤星に、

「買い物は?」

と不思議そうに尋ねた。


「一人分だと、高物につくと思って、やめたんだ」

「ふ~ん」

「ま、暇だっただけ?」

 赤星が笑った。

 桜海も笑顔でケーキを食べた。


 そして、桜海が食後のコーヒーを飲み干したときだった。


 カップの底にわずかに残ったコーヒーが、片目を形作って、それが瞬きをしたのだ。


「ゲッ」


「どうした?」

「何でもない」

 そう言った桜海の顔は、何でもないようには見えない。


「俺には遠慮しなくてもいいじゃん。少々じゃ驚かないよ?」

「うん?」


 コーヒーカップの中の目が消えた。


「何だったんだ?」


「それは俺のセリフだよ」

 赤星がぼやいた。


「寺から何か連れてきてしまったかな?」

「霊?」


 赤星もコーヒーを啜った。


「そっちもカップの底に何か見える?」

「え。ちょっと待って」

 赤星はふうふういいながら、なるべく早くコーヒーを飲み干しカップの底を見た。


「どう?」

 桜海が待ちかねたように言った。


「どう、って言われても」


 赤星は、

「やっぱり俺には見えないからねぇ」

とカップを桜海に渡した。


「そうだけど…」

 赤星のカップには何もなかった。

「もういいや…」



「帰る?」

 桜海がレシートを手に取ったので、更に赤星が尋ねた。

「割り勘?」


「ワリカン?」


「あ、自分の分は自分で払う?」

 赤星は自分と桜海を交互に指さしながら言った。


 桜海はレシートの合計額を見て、

「面倒くさいから俺、払う」

と言いながら、会計でクレジットカードを出して清算した。


「カード…ごちそうさまでした」


 赤星は目を点にして、桜海の後をついてファミレスを出ようとした。


 すると突然、店の入り口の側にあるポプラの木の枝に、首を乗せてぶらんと首吊死体のようにぶら下がる霊の姿が、桜海の目に飛び込んできたのだ。


「わっ」

「あたっ」

 桜海が急に立ち止まったので、赤星は避けきれず、軽くぶつかってしまい、

「今度は何?」

と、わけを尋ねた。


「ごめん。無視しよう。いちいち驚いてごめん」

「見える、って大変なんだね」


『ククク…』

「タマコ哂うなよ」

 桜海が不貞腐れたように呟いた。


「タマコさんが笑ってんの? それは見たいかも」

「ちぇっ」

 赤星の言葉は桜海を尚更不貞腐れさせた。


 ファミレスから赤星の住むマンションまで、二人はゆっくり歩いた。


「どんな霊?」


 赤星の問いに桜海は不機嫌そうに、

「男」

と、答えた。


「子供?」

「若者」


「若者?」

「これだから、寺は嫌なんだ」


「お寺から連れてきちゃったの?」

「うー、わからん」


「俺は見えないものに色々影響されるのが怖いけど、見えたらもっと怖いかな」

 赤星が肩をすくめながら言った。


「いざというときの対処法がある俺でも怖いときがあるから、そうだろうね」


「見えない相手から、こっちは見られてるんだよね。なんか、癪に障るなぁ」


 二人が交差点にさしかかった時、桜海が苛立ちを押えつつ叫んだ。

「あいつ!」


 桜海の目の前で、車の前に飛び出して轢かれ、『気をつけ』をしたような態勢で道路に寝転がって目をパチパチさせてニヤッと笑った。

 そして上半身をムックリ起こして道路に座ったまま桜海の顔を見て、

『色々あるのになぁ』

と言って消えた。


「どうしたの?」

 道路を睨みながら立ち止まった桜海に赤星が尋ねた。

「わからんから、放っておこう」


 しばらく歩くと、赤星の住むマンションが見えてきた。


「あれ? 何かあったのかな?」

 赤い回転灯の光に気付いた赤星が背伸びをしながら言った。

「うん?」

 マンションの駐車場に救急車が止まっていた。


 二人が辿り着いたとき、救急隊員が担架で患者を運んできた。

「岩本さん! 大丈夫ですか?」

「あっ!」

 桜海は思わず声を上げていた。


「え?」

 桜海の驚きの声に赤星も驚いた。


「どうしたんですか、この人」

 桜海が隊員の一人に声をかけた。


「ああ、飛び降りたみたいです。知り合いですか」

「ええ、まあ。顔見知り程度ですが」


 桜海の言葉に驚いたのは赤星だ。

「知り合いなの?」


 赤星の問いに答えず、桜海は隊員に質問した。

「亡くなったんですか?」

「意識不明です」


「助かりますか?」

「わかりません」


「そうですか。お引止めしてスミマセン」

 話しながら桜海は、その患者の身体に見えない糸(標)を2つ取り付けておいた。


 救急車がゆっくりと慎重に発進して、サイレンを鳴らして去って行った。



「あなたの身体は病院に運ばれましたよ。ここに居ていいんですか?」

 桜海が赤星の後方に向かって話すので、そこに霊が居ることに赤星も気付いて振り返った。


『例えば、こんな方法もあったのにね』

 そういうと、青年は刃物で手首を切る仕草をした。


 その仕草が大きかったので、見えない刃物が赤星の腕を掠めた。


「あっ!」

 赤星が腕を押えて蹲った。


「あんたが死ぬのは勝手だが、他人に迷惑をかけんな!」


 桜海はひとつの糸の端を青年に貼り付けた。

 青年はその糸に引っ張られ、しかめっ面で腕組みをした姿勢で宙を飛んでいった。


「ごめん。大丈夫?」

『ゴメンネ』

「なんで桜海さんが謝るの?」


 不思議がる赤星に更に付け加える。

「タマコもごめんって言ってる」


「何かピッと切れた。もしかして、これがカマイタチ?」

「ちょっと、違うかな」


「違うの?」


 桜海はようやく謎が解けた気分だった。

 あの岩本という青年の霊を連れてきたのは赤星だったのだ。


「タマコ、頼むよ」


「え? なんで、タマコさんにアタルわけ?」

「そうじゃないよ」

『だから、ごめんね。この子のオーラに惹かれてついてきたんだもの。仕方ないでしょ?』


 桜海は血の滲んだ赤星の二の腕に結界の絆創膏を宛がった。


「じゃ、なんだよ。俺には見えないんだから、わかるように説明してくれよ」

 桜海は赤星の肩に居るタマコと顔を見合わせた。


「何、その沈黙は」


 桜海は両手を挙げて降参のポーズで言う。

「俺が悪かった。ほら、なんか、みんなが見てるから」


「へ?」


 マンションからの飛び降りの騒ぎに野次馬たちが集まっていたのだが、口論を始めた二人の様子もついでに見ていたようだ。


「帰るよ。気をつけて、姫」

 桜海は赤星を抱き寄せ大げさなジェスチャーで仲直りを周りにアピールした。


「よせ、ばかっ」

 赤星はあたふたとマンションへ入って行った。


 桜海は赤星の帰宅を見届けて歩き出した。




「あいつ、どこの病院に運ばれたんだろ」

 赤星は何気なく自分の部屋のベランダから外を覗いた。

 すると桜海が、自宅ではなく、救急車が走っていった方向へゆっくり歩いて行くのが見えた。

「桜海さん…?」


 桜海は、もう一方の糸を辿って、青年が連れて行かれた病院に向かって行ったのだ。


「タマコさん。俺、もしかして…」

 赤星はその先の言葉を飲み込んだ。青年の霊を連れてきたのは他の誰でもない自分だと気付いてしまったからだ。


 もしかしたら、桜海にとって赤星の存在は、ただのトラブルメーカーなのではないか、という思いが過ぎった。

 それを口にするのも躊躇うくらい、赤星の心に重く圧し掛かった思いだった。


「タマコさん、ごめん」

 タマコは赤星の肩の上で、彼の頬を撫でながら、あたふたした。

『泣かないで』

 タマコの声は赤星には聞こえない。

『ああもう、どうしよ』

 赤星は部屋の隅で座って泣きながら眠ってしまった。




「岩本 寛志さん。検査の結果、どうやら脳震盪だったようです」

 意識の戻った青年に医師が言った。


「外傷は出血の割に傷も浅かったですし、脳内も大丈夫でした」

「はあ」


「ベランダから、誤って落ちたんですか?」

「ええ、まあ」


「今夜は病院で過ごしてください。明日、異常なければ帰ってかまいません」

「はい」


「お大事に」

「ありがとうございました」



 桜海が医師と入れ違いに青年の病室に入った。

「あなたは…」

 岩本は見覚え有り過ぎる桜海の顔を見て絶句した。


「地獄の使者です」

 桜海は、びびる岩本に輪を掛けるように脅かした。


「えっ?」


「死にたいんですか?」

「え? いや…」


「では何故あんなことをしたんですか?」

「俺、BSアンテナの向きを修正しようとして、2階のベランダから足滑らせて落ちちゃって。もしかしてこのまま死ぬのかな~って。だったらもっとカッコイイ死に方があったんじゃないかって思ってさ」


「カッコイイ死に方?」

「ええ。だってダサいでしょ? あんな低い、マンションの2階からの転落死なんて…」

 桜海はひとつ溜息を吐いてから告げる。


「せっかく助かったんですから、あなたがこれから考えるべきことは、死に方ではなく、どう生きるか、だと思いますよ」

「そう、ですね。すみませんでした」


 しゅんとした岩本を残して、桜海は病室を出て行ったのだった。



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