表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

ゆず編 第1話

全国の三次元の妹のいない兄達に最高の妹を、をコンセプトに書いていこうと思います。

処女作なので未熟かつ短くなると思いますが楽しんでいただけると嬉しいです。


ゆずはイメージとしてはショートカットで茶or黒髪の快活系妹です。

「遅い……」


 焦れったい。

 俺、景介はえもいわれぬ焦燥に駆られていた。

 何が焦れったいのか、何がこれ程までに焦燥を駆り立てるのか。


 俺は今、この数ヶ月毎日のようにお世話になっているアイロンと対峙していた。

 正確には、アイロン台の見える位置にあるベッドに腰掛けていた。

 ちなみにスチーム機能はおとといおしゃかになった。お陰さまでシワを伸ばすためにこの鉄の塊を往復させる回数は2倍になった。

 そのアイロンの、温度調整ランプを俺は見つめていた。

 この忌々しいオレンジランプさえ消えれば俺のターン。くそう、この待ち時間ってなんでこんなに長く感じるんだろう。


 程なくして、待望の瞬間は訪れる。

 ランプは消灯した。今こそ適温。このワイシャツをシワひとつなく仕上げ、トーストにマーガリンを塗ってコーヒーで流し込み、余裕を持って学校へ向かう。うむ、なんとも完璧でスタイリッシュな朝。

 しかしランプが消えても、景介はアイロン台の前に立とうとはしなかった。

 立とうとしなかった、のではなく立てなかったのだが。


「あの、ゆず? ちょっと、降りてくれないかな?」

「んー、やだー」

「このままだとお前もろとも遅刻しちゃうぞー? しわくちゃのままのシャツじゃゆずもやだろ?」

「……んー、やだ」

「じゃあ、ちょっと降りてくれないですかね?」

「にぃがゆずごと移動すればいいでしょー?」

「いや、アイロン熱いし。ゆずが怪我したら大変だしさ。お願い! ね? 」

「むぅ……わかった」

「……足の方に抱きつけばいいってことじゃないよ?」

「……にぃはワガママ」

「くっ、何を言っても折れてくれる気がしない!」


 ベッドに腰掛ける景介のシルエットは明らかに一人分ではなかった。

 ゆず。俺の妹。

 要するに13歳の美少女が、寝間着姿で彼の背に抱きついていたのである。今は足にだが。


 妹モノのサブカルチャー作品が充実してきているこのご時世、妹がいるなんて! とか、妹がそんなにベタベタなんて! とか羨む輩もいるかもしれない。

 しかし実際問題、妹がいる兄にとって妹は妹、抱きつかれるくらい……まぁ嫌な気分ではないが、そんな期待されるほどときめくイベントではないのである。

 そしてそれが、俺たち兄妹となると尚更だ。

 この逆・あすなろ抱きイベント、もはや毎日の恒例行事なのである。


 何を隠そう妹・ゆずは、すべからく寝起きが悪い。

 たまに、寝起きが悪い人を起こしに行って、うるさい! とか言われるシーンがアニメとかで見られるけれどもゆずは特殊なタイプの寝起きの悪さなのである。

 起きて、なにか甘いものを体に摂取するまで物凄く甘えん坊になるのだ。それはもう赤子のように。

 それでいて身体だけ成長していくものだから兄としては最近益々悩みの種である。

 低血圧な妹を抱える全国の兄貴たちは羨ましがるかもしれない。しかし低血糖な妹もそれはそれで難有りなのである。

 むしろそこまで妹の面倒見る兄が珍しい?

 そ、そんなことはないはずだ! と、思いたい。


「ほら、ゆず頼むからどいてってば」

「……にぃは私とシャツどっちが大事なの?」

「今はシャツかな」

「……(ガシガシガシ)」

「いたたたた、脛殴らないで!」


 くぅ〜〜きゅるるるるる。


「……おなかへった」

「これ終わったらご飯にするから、ちょっとここでいい子にしてて。ね?」

「わかった」

「とりあえず足から手を離そうか」

「……いみがわからないよ」

「語彙力は手離さないでほしかったな…」


 こうして今日も、俺はスタイリッシュな朝を手放した。




 様々な(主にゆずを体から引き剥がすための)紆余曲折を経て、なんとかアイロンを終わらせた。シャツは完璧な仕上がり。代わりに俺がヨレヨレになったけど。

 休む間も無く妹に糖分を摂取させるべく朝食作りフェイズに移行。

 今朝のメニューはさっきも言った通りトースト。俺はマーガリンを塗ってそのまま派。ゆずのには忘れずにイチゴジャムを添える。

 程なくして朝食は完成。2人で食卓を囲む。


「いただきます」

「いただきまぁーす」


 かりかりもふもふ。かりかりもふもふ。


「ふぅ〜やっぱ朝はイチゴジャムだよね! お兄ちゃん!」

「俺は甘いの苦手だからジャムはちょっと……」

「ふっふっふ、わかっとらん、分かっとらんな若者よ! 朝食にイチゴジャムを食べずして何が朝食か!」

「分かった分かった、そうだねー」

「もぅ、つれないなぁお兄ちゃんはぁ、どうしてそんなに毎朝陰気な顔してんのー? せっかくのイケメンが台無し! この残念イケメン! 略してザンメン!」

「俺は毎日糖分とった瞬間にトップギアになるゆずが羨ましいよ。あとその略し方は噛んだ時危ないからやめなさい……」

「……? まぁいいや、はい! ご馳走様でした!!」

「お粗末様でした」


 ゆずを本調子に無事戻し、学校の準備を再開する。と言っても、あとは身支度を整える程度なのだが。

 歯を磨き、鞄に今日の授業の教科書を詰める。今日は水曜、1週間の内で1、2を争う楽な日程となっている。

 気持ち足取り軽く、鞄を持って1階へ。ちなみに我が家は2階建てで、俺とゆずの部屋は2階にある。さっき食事をしていたリビングは1階だ。

 そして、待つ。

 何かと聞かれれば、シャツを。

 そのシャツは、先程俺が本来必要な労力の倍近くの労力を費やしてアイロン掛けをした、あのシャツだ。


「くっそ……このイベントいつ飽きてくれるのかなぁ……」


 やがて軽い足音と、俺のシャツとブレザーと共に妹が降りてきた。


「は〜い、アナタ! お着替えタイムですよ〜」

「へいへい」

「あ〜もう、こんな美人幼妻が着替えさせてくれるっていうのになんでこう毎日テンション低いかな!」

「だって妹ですし……慣れましたし」

「そこは慣れるな! (ドゴッ)」


 かはっ。

 こ、こいつ……明らかにさっきの脛パンチより威力が増してやがる。

 これがイチゴジャムの力か……俺も明日から食べようかな。


「腹パンはよくない……良くないぞぉ……いいから早く着替えさせてよ」

「もうっ、旦那様ったらせっかちなんだからぁ〜」


 そうして妹、ゆずは俺にシャツを着せにかかる。

 なぜ俺は、実の妹に旦那様とかアナタとか呼ばれて、あまつさえ着替えまでさせてもらっているのか。


 ゆずはものすごく……なんというか、影響を受けやすい性格をしている。

 よく小学生とかが、アニメを見て、その真似をしてその必殺技名を叫びながら決めポーズをとる……

 の強化版みたいなものだ。

 前例としては、釣りドラマを見て毎日釣りに出かけて行ったり。(俺を連れ出して)

 刑事モノのドラマのワンシーンでチェス盤が置いてあったのを見て(俺の金で)購入し、チェスに耽ったり。(俺を相手にして)

 毎週日曜にやってる国民的アニメで坊主のガキが小遣い欲しさに兄さんの背中を流しているのを見て、風呂場に突撃してきたり(これはなんとか思いとどまらせた。もちろん小遣いは差し上げた。)


 などなど、そんな具合なのである。

 今回はトレンディードラマか何かに新妻が夫を着替えさせるなんともバカップルなシーンがあったらしく、それに影響されてのことらしいが……流石に1週間も続くと慣れる。

 一週間も繰り返すということはよっぽどハマっているのだろう。チェスは3日でやめたし。


「もう、こんな歳になってこんなこと……恥ずかしいんだから早く飽きてくれよ」

「〜〜♪」


 俺の話を聞いてくれ!!!


「ほほいのほーいで、はい完成!」

「んーあんがとよー」

「えー、それだけ……?」

「…………くそっ(ナデナデ)」

「えへへ〜〜♪」


 甘いなぁ俺。可愛いなぁゆず。



 そんなこんなで支度も終わり、やっと登校。

 相当余裕を持って起きたのにもう時間はギリギリだ。これもいつものことだが。


「行ってきます」

「はい、いってらっしゃいアナタ」

「……ゆずも行くよ」


 今日は晴れ。ぽかぽか陽気の中、妹を自転車の後ろに乗せて(これもドラマの影響らしい)走る。


「いい天気だねぇ」

「そんなことよりもっとスピードは出ないのか!」

「危ないから出さないよ」

「昨日テレビで見たんだけど、時速60キロ超えると風が、おっぱいみたいになるって!」

「自転車で60キロはちょっと無理かな……」


 そんなたわいない話をしている間にゆずの中学校前に到着。


「とーちゃーく!」

「はい、行ってらっしゃい」

「いってきまーっす!! あ、ゆかりんおはよー!!」


 早速友達に挨拶するゆず。うん、友達多くて兄さん安心。

 さて、俺も学校に向かわないと。

 ここから俺の通う高校の間にはとてつもなく急な坂がある。地元では地獄坂なんて呼ばれて有名な坂だ。

 それを越えなければ高校にはたどり着けない。

 ちょっと気合いを入れ直す。


「よしっ!」

「あ、お兄ちゃん!」

「……なんだい」


 凄く……挫かれました。


「今日もありがとね!」


 でも可愛いから許す!むしろ気合入った!


「あとお迎えよろしく!」


 喜んで!!!!


 ようやくペダルを漕ぎだした俺。地獄坂なんて全然苦にもならなかったさ。

 妹力(いもうとりょく)偉大なり。


 こんな俺と、ゆずの日常。

 ゆずは可愛くて、一緒にいるといつも幸せ。

 ゆずを迎えに行く放課後が今から待ち遠しいぜ!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ