うっさい
(*^ワ^*)完結です。最後までお付き合いいただきありがとうございました!
ご意見・ご感想いただけたら嬉しいです。
それから私は関西色を隠さずに仕事をするようになり、役の幅が広がったことでドラマなどへのオファーも徐々に増えていった。
収入がある程度落ち着いてきたころ私は居を構え、ハウスキーパーとして久を雇った。もちろんそれは表向きの話で実際は単なる同棲なのだけれども。
とはいえ律儀な彼女は与えられた仕事もきちんとこなしている。家はいつでもお客を呼べる状態に保ってあるし、役に合わせて体型を変えなくてはならない私のために栄養管理もしてくれる。そしてその料理はとびきりおいしい。一人暮らしのとき私が作っていた料理は何だったのかと思われるほどだ。「ええお嫁さんになりそうやなぁ」と感心したら、「何言うてんの、もう嫁さんやろ」と久は不思議そうな顔で言った。その夜はいつも以上に激しく彼女を愛してしまったりしたのだけれどまあそれはさておき、私たちは今のところ幸せに暮らしていた。
**********
その日、彼女は少し不機嫌だった。私が今人気沸騰中の俳優と恋人役を演じているドラマをうっかり観てしまったからだ。
普段はちゃんと避けているのだけれど、今日はテレビを付けたらちょうどキスシーンが映ってしまったのだった。不可抗力とはいえ見たものは見たのだ。なかったことにしろとは言えない。
久は私のマンションから持ってきたソファーの上で膝を抱え、高い背を小さく丸めて座っている。座る位置が微妙に左寄りなことに私はくすりと笑みを漏らして、空いているそこに腰を下ろした。
「仕事やからしゃあない。分かってる」
宥めようとする気配に気付いたのか、久は先回りして強がった。
「なら何でそんな拗ねてんの?」
「拗ねてない」
どう見ても拗ねている。理屈の上では仕方ないと納得していてもそう簡単に割り切れるわけではないようだ。
元来あまり外に出さないだけで独占欲はそこそこある彼女だから、こういう仕事を許してくれているだけありがたい。多分相当我慢させている。“恋愛モノの仕事を受けるのは許すけど観ない”というのは彼女なりの譲歩だった。
拗ねる彼女も可愛いけれどこのまま放っておくと明日の朝食が一品くらい焦げて出てきそうだった。彼女のおいしい料理が食べられなくなるのは惜しいので、私は小さくなっている彼女を引き寄せて少し伸びた髪を撫でた。
「ごめん。これからああいうドラマは全部断る」
「そんなことしたらあかん。仕事来なくなったら雪乃が嫌やろ?」
収入がなくなることではなく純粋に私が業界での信頼を失うことを心配しているようだった。相変わらず久は優しい。
「ならいっそ辞めよか?」
そう言うと久は首を振った。
「もっとあかん。あたしテレビで雪乃観るの好きやし」
「……そりゃどうも」
不意打ちだった。全く女優冥利につきるお嫁さんである。
恋愛モノでさえなければ久は必ず私の出るドラマを観てくれる。撮影などで帰れない日はそれらの録画を見て気を紛らわしている、ということはかなり早い段階で白状させた事実だった。もちろんその夜も大変に盛り上がった。主に私が。
「けどああいうのは嫌なんやろ?」
からかってやると久は呻く。見たいけど見たくない。乙女心は複雑だ。
「本気で嫌になったら言って。別にこの仕事辞めても二人食べてくくらいは稼げるし」
演技は好きだ。だがそれ以外の人生は考えられないと言い切るほどではないし、彼女が望むならいつでも辞めようと思っている。
実際正式に付き合いはじめたとき辞めようとしたのだけれど、久は今と同じようなこと言ってそれを止めたのだ。何を隠そう関西キャラを表に出すよう勧めてくれたのは彼女である。デビュー当時から私のことはチェックしてくれていたらしく、テレビを通して私を見て、この女優が自分を好きなのだとあらためて実感したと言う。それが私を意識し始めるきっかけとなったと。
仕事をしている私が好きだと彼女は言うから、私がこの先それを辞めるとすればやむを得ない事情が生じたときだろう。やむを得ない事情、というのは私が世間からの信頼を失った場合だ。
「――例えば、私たちのことが週刊誌とかでバレたとするやろ」
「何よいきなり」
突然たとえ話を始めた私を久は怪訝そうな顔で見上げた。
「まあ聞いとって。――んで、騒ぎになったら私は仕事がなくなる」
まあ女同士では噂になりにくいとは思うけれど、可能性はないでもない。そして一度叩かれると世間は一気に冷たくなるということは、この世界に生きていれば身に染みて分かることだ。私たちのような関係に対して理解のある人ばかりではないから、おそらく女優を辞めたとしてもほとぼりが冷めるまでは職にありつけないだろう。
「そうなったら久はどうする?」
久は抱えていた膝を下ろすと笑って言った。
「――そんときはあたしが養ったる」
力強い言葉だった。彼女ならきっと本当にそうしてくれる――。
「久ぁっ!」
久に向かって勢いよく両腕を伸ばす。
「ちょっ、雪乃!?」
出会った頃のような男らしい彼女に抱き付き、そのまま二人でソファーに倒れ込んだ。
一体何度私を惚れさせたら気が済むのだろう。可愛いお嫁さんも好きだけれど、頼れる旦那さんというのもなかなか捨てがたい。
「久イケメン!格好良い!」
ちゅっちゅと顔中にキスを降らせると、久はくすぐったそうに身をよじった。
「何よ、今頃気付いたん?」
おどけてみせる久をこちらも茶化してやる。
「ただのヘタレかと思てた」
「うっさい。明日の朝ご飯減らすで」
「えぇ、そんなん嫌」
「嘘。めっちゃおいしいの作ったるから楽しみにしとき」
うん、と頷くと久は私の髪を撫でた。やっぱり彼女はお嫁さんが似合う。
「あたしも頑張るから、雪乃は何も心配せんと仕事しとって」
「久……」
頼りがいのあるブラウンの瞳に私はまた惚れ直した。決めた、今夜は寝かせない。
まあ恋愛系はちょっとだけ減らしてくれると嬉しいけど、と目を逸らしてぼそっと呟くので私は笑ってしまった。
「せっかくの格好良い台詞が台無し」
そうからかうと彼女はうっさい、と顔を赤くするのだった。
たとえ始まりが傷の舐め合いだったとしても、今確かに。
――私は彼女を愛している。
~END~
どうも、鮃<”><》です
まず、今回関西出身のとある方にお願いして台詞をチェックしていただきました!誠にお世話になりました。この場を借りて御礼申し上げます。
m(_ _)m
ちなみに何故全く喋れない関西弁を使う気になったかといいますと、「いなり、こんこん、恋いろは」を観ているときに妄想し始めたからです。ほら、ずっと特定の喋り方を聞いてると自分の思考までそれに染まったりするじゃないですか……ね?
最初はフィーリングだけで書こうとしたんですが、どうも間違ってる気がするなあと困っていたところ、知り合いに関西出身の方がいたのを思い出して「助けてド○えもぉん」とばかりに飛びついたわけです。
「そんなもん自分で何とかしろ」と一蹴されてもおかしくなかったというのに快く引き受けていただけたときは本気で泣くかと思いました(;_;)
改めまして本当にありがとうございました。
それにしても私はなぜそこで『標準語で書き直す』という選択肢をとらなかったんでしょうか。馬鹿なんでしょうか。
何か関西弁書いてて楽しかったんですよね。やめられなかったんです。
……間違いだらけでしたけどね。
関西の方の語尾が上がるイントネーションって大好きなんですもん(*´∀`*)
……間違いだらけでしたけど。
今回の反省:軽い気持ちでろくに知らない言葉を使ってはいけない。
それはさておき。
私オリジナルは初めてですが、二次創作なら何度か百合を書いてます。割と良い反響を得ているのは「僕は友達が少ない」の星奈夜空。pixivにありますんでよろしければプロフィールのURLから飛んでみてください。
いつも暗~い百合ばっかり書いてるわけじゃないんです。後半に出てくるようなキャッキャウフフな展開を書く方が断然多いです。
今回のはたまたまです……よ?(゜ー゜;)
あ、一応断っておきますがとある方は話の内容にはノータッチですからね?アドバイス等を頂いたのは文章表現における部分だけです。
面白くなかったら全面的に私の責任ですので、その辺りお間違えのないようお願い致します。
文句は全て私が引き受ける!(キリッ
。゜Σ(」>Д<)」ぁ痛たたた、痛いって!石はやめて!ヘタなとこ当たったら死んじゃうからぁぁああ!




