表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/12

愚痴はほどほどに

 デジタルなメールとは縁のない俺だけに、いつ手紙が来るとかはすぐに分からない。その日も発端はまったくもって突然だった。休日の午後、俺が部屋で本などを読みつつ畳でごろごろしていた時だった。


「わたるー、手紙来とるよ」

「んー、ほんまにー? ちょっと待ってすぐ行く」


 下からおじいちゃんの呼び声が聞こえたので俺はとろんとした声で返事をすると、読書を中断して走るように階段を下りた。俺の家は二階建て、1階におじいちゃんとおばあちゃんが住んでいて、2階には、今は俺だけが住んでいる。いささか手に余る空間だが思い出さえあれば決して狭くない、そう思うことにしている。


 さて、そんな俺に手紙を出すのはまず1人しかいない。それははじめだ。時々は手紙を送ってくる様にと、これはあいつがここを離れる時に約束したものだ。今のところは律儀に守り続けている。


「どこどこ」

「ほらこれよ。はよ開けてみんさい」


 おじいちゃんに急かされながらも、中身を破かないようにゆっくりと封筒の口を開けたら、中から1枚の手紙と何枚もの写真が飛び出してきた。写真のはじめは体操服を着ていて、どうやら運動会のものらしい。入場行進やら開会式のラジオ体操でこんなにまあきりりと気の張った表情を見せるのも総理の責任感のなせる業だろう。


 その他にも走ったり踊ったり休んだり、現役総理大臣の貴重な生写真が溢れている。これをアルバムに入れるのは俺の仕事のひとつだ。まあこの年齢で過去に思いを馳せてばかりだとアレな部分もあるが、たまにならそれもいいだろうさ。


 そしてもうひとつ、手紙だ。書き出しは沈痛だった。


「お兄ちゃん、それにおじいちゃんとおばあちゃん、元気ですか。僕は体は元気ですが心はしおれています。今年もカープは無理そうですが、しかしくじけてばかりではいられません」


 ああ、またも、またもBクラスが確定してしまった。8月まではよくやれていたが9月に猛烈な失速をしてしまい、今や3位どころか5位争いに巻き込まれる勢いだ。本当に落ちっぷりが凄まじく急激だったのであっけに取られた。


 総じて言うと選手層が薄かったとなるのだろう。規定打席に到達しているのが梵と堂林だけ。大体その2人だってタイトルとは程遠い数字なんだし。栗原の離脱はまず大きかった。そして外野よ。天谷、岩本、まだなのか。そしてまたなのか。今年こそは本格化してと願っていたし、好調な時期もあったと言うのに気付いたら随分落ち着いていた。


 廣瀬は元々怪我の多い選手だったし過大な期待はしていない。赤松も守備は期待しているが打撃何というかここまでかなあとさえ思える。丸もこの程度で終わってしまっては困るのだが。二遊間には安部、菊池と出てきたし二軍では庄司もいる。東出、梵、木村の同世代組の後継者はこれともう1人ぐらいから争わせるのが良いのではないか。もちろん彼らはまだまだ戦力として貴重だし、ポジションは実力で奪ってほしい。


 ニックの怪我も痛かった。出来ればエルドレッド栗原ニック揃い踏みが一番良かったのだが。それでようやく普通レベルの打撃力よ。堂林はよく頑張ってくれたが、彼をずっと7番で使い続けることが出来る層があればどれほど良かっただろう。バーデンって、何だったんだろうな。


 投手陣はやっぱり前田、野村、大竹にバリントンまでは良いとしてそれ以降が貧弱だった。今のところ今井がよく頑張っているが9月の好調は話半分に受け取らないと。斉藤、篠田、福井あたりがこの程度で終わっては厳しい。


 それにしても野村はいい新人を獲れたものだなあといまさらながら感心している。だからこそ、もう少し打線は援護してほしかったのだがこれもまた宿命だと言うのか。バリントンも負けが多かったが、それ以外の投手が出ていればもっと酷い数字だっただろうと想像するのはたやすい。


 リリーフもどうも不安定。今年はサファテに去年ほどの切れ味が見られず、ミコライオも良くやってくれたが打たれるときは派手だったりする。いっそ福井と篠田あたりまでリリーフに回すか。今村を潰さないようにしてほしいものだが。


 左投手に関してもまず青木の怪我が問題だったのだが、数だけはそれなりなのに一行に出てくる気配がない選手たちがそれ以上に大問題だった。河内が奇跡的な復活から戦力になったが、それでも全然足りない。岩見、金丸、二軍でよろしくやってる場合じゃないぞ。トレード加入の江草もそれほどでもなかったし。リリーフは左右ともに2枚は足りなかった。


 監督に関しては、走塁を絡めたりそういうのは良かったがそもそも長打力が不足しているからなあ。となると打撃コーチの領分なのか。外国人は枠に限界があるし、チーム力を一段高めるにはやはりFA解禁しかない。どっかの漫画にもあったがマネーイズパワーだ。何でも自分たちの力だけで調達できるわけはないんだから。


 さて、一通り語ったところで手紙の続きに戻ろう。本当に、ファンは期待していたんだから、もう今年はいいとして来年ははっきりとした形でその期待に報いてほしいとただ願っている。あと、サンフレッチェについてもちょっと書かれていたがこれの総括は終了後が良かろう。


「写真も入っているはずですが、先週の土曜日に運動会がありました。かけっこではあっくんって言って、ものすごく足が速い同級生がいて、その次の2位でした。自分で言うのも何だけどよくできたと思っています」


 まあ自分で自分をほめるのはちょっと気恥ずかしいからな。代わりに俺がほめまくってやるぜ! よくやったぞはじめ! お前ならやれると思ってた! はい次行こう。


「お仕事でも中国との関係とかお金の問題とか色々ありますが、その辺はこちらでみんなと相談してより良い形になるようにがんばりたいです」


 そしてこの辺が今回の手紙で一番シリアスな問題だ。いやあ、俺にだって政治のどうこうは気安く言えるもんじゃない。外交とかとりあえず戦争だけは勘弁してくれればいいからさ。でも言うべきときは言う、これも多分大事だ。


 例えばだ、抽象的な言い方になるがこっちが「これは君に譲るよ」と言ったところで普通相手は「じゃあ次は僕が君に譲るよ」とか言うか? 俺なら「じゃあ次も俺に譲れやオラオラ!」ってなっちゃうわ。自分の利益を得ようとするには強引なやり口に走るのは仕方ない。まああんまりはしたない事をはじめに言わせてほしくないし、そこは周りの大人たち頑張ってって話だな。


「次は文化祭が終わったあたりで出します。急に寒くなってきましたが、変わらず元気でいてください」


 最後に自分の名前に少し重なるようにあいつの判子を押して手紙は終わっていた。まあ、大丈夫だろう。カープに関してもドラフトで萎えたガッツをチャージすれば来年まではキープできる。FAとまでは言わないから他球団から誰か獲得ってのも結構必要だと思うんだがな。


 さて、この手紙を読み終えると俺は早速階段を駆け上り、返事の手紙を書く準備を始めた。まあ内容はここまで散々語ってきた感じだ。それをもうちょっとマイルドに、容量もやや減らしてだ。はじめを煩わせないのが一番だからさ。


 そして書き終わったら写真はアルバムに、手紙は専用の箱の中に入れる。あいつが行ってから今までの手紙はすべてその箱の中に入ってある。この積み重ねこそあいつが順調に過ごしているという証拠なのだから。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ