表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/12

夏の終わりと新たなる波

 夏休みはやっぱり短かった。しかし朗報、今年に限っては9月1日が土曜日と休日なので始業式は9月3日まで延長されたのだ。ああ、何という幸福であろうか。


 一応言っておくが宿題とかは8月の中盤あたりですでに終わらせていた。俺にも立場というものがある。仮に宿題やってなかったとしよう。そうなると世間はどう見るだろうか。


「あの人首相の兄なのに宿題もしてないんだって。なんて情けない」

「こんな兄を持つ弟も不憫だな」

「いや、もしかすると首相だってろくに義務を果たしてないんじゃないのか。兄弟なんだし」

「ああ、日本も終わりだな」


 そうならないためにも、弟のはじめだけでなく俺にも倫理の遵守が求められる。そう、日本のためにも宿題をきっちり終わらせるのは俺の義務だったのだ。


 まずはドリル。これはそんなに難しい問題は入っていないので毎日コツコツと解いていったら楽勝。1日30分もかからない。勢いで読み物なんかにも目を通すわけだが(働かされるため日本に連れてこられた中国人とか)それで特にどうという事もない。


 8月6日にはいつも通り折鶴を折りに学校へ行った。低学年の子に教えたりしつつノルマをこなし、午後からは公民館で映画を観賞した。主役の声がルフィの人だった。それと鮫が怖かった。まあ、やっぱり戦争とかはなくなればいいよね。どう頑張っても誰かが死ぬんだから。


 はじめも頼むぞ。そりゃあそうするしかないってなったら出来ることは何でもしたいけど、大事なのはそこまで至らない事だよ、きっと。まああいつはそんな好戦的な性格じゃないし、大丈夫だと思いたいが。変な人に変な事を吹き込まれてたりしたら大変だし。


 さて、お決まりの8月6日も終わったら、そろそろ自由工作の時間だ。牛乳パックを利用した貯金箱というお決まりの手抜き工作が炸裂。もはや工夫も何もあったもんじゃないがそんなことはどうでもいい。こんなので「エコです」とでかい顔をするのはみっともないからやめておこう。


 宿題は遊びながらでも十分にこなせる程度の量しか結局は出ないものだ。よく海へ行ったから肌の色はもうこんがりと焼けて、りょーくんやりんちゃん、それにサンタマリアも一緒に別人のようになった。


 それに甲子園も見た。俺はまだ小学生。これから中学校に入学して卒業して、そしてようやく高校に入学して野球部に入れば甲子園への扉が開かれるというわけだ。なかなかに遠い。


 俺は今11歳だが中1になるまでに12歳になる。それからまた3年って事は、俺の人生の1/4に至る時間を過ごさないと高校生にはなれないって事だ。小学3年生と4年生と5年生までの時間を思い出すと色々な事があった。それをもう一度繰り返すようなものなのだから、まったく気が遠くなるような悠久の果てだ。


 さて、甲子園に話を戻すと今年は神奈川県代表の、左腕から凄いスライダーをガンガン投げるピッチャーが一番印象に残った。あれぐらいぐにゃぐにゃ曲げられたら投げていて楽しいだろうなと思った。でも高校野球は坊主になる必要があるから野球以外をするつもりだ。無事に高校に入れたらね。


「りょーくん、ドリルは?」

「せんせー、持ってくるのを忘れました」


 夏休み明けの学校は第二のエイプリルフールだ。まあ確かにもともとりょーくんは忘れ物が多いが、俺はりょーくんがドリルを始業式の日に持ってくるタマじゃないと知っている。6年間に加えて幼稚園でも一緒だっただけに、あいつの考えなんて筒抜けで分かる。


 4年生の時は頼まれたので宿題を見せたが、あいつは算数で途中の式を書かずに答えだけ丸写しした上に、間違えた箇所も俺と同じだったからばれて、えらく怒られた事があった。それ以来もう人に見せることはしていない。一応言うとその時と担任は変わっている。


「じゃあ明日には持ってきてね」

「はーい」


 お、逃げ切った。折原先生の慈悲に救われたな。俺が先生だったら「そうか。じゃあ今から取って来るように」ぐらい言うところだ。


 まあ、小学生が計画的に休みを過ごすのは難しいというか無理だよねって部分は正直ある。俺もいくつかの宿題は20日ぐらいから詰め込んで終わらせたし。しかしそんなルーズな日程が許されないのが我が弟はじめの宿命だ。


 あいつは頭もいいし周りには小うるさい大人たちが支えてくれている。しかし操られる機械にはなってほしくないものだ。


 さて、そんな日を過ごしていた所、一通の手紙が届いた。差出人ははじめだ。今回の主題はそういったお話になると思う。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ