9.異形再生
「百魚と?」
「はい。」
何についてを話していたのか。
ぱしぱしと軽ぅく、2度瞬いてから、千誉はふふと笑った。彼女にしては珍しい。少し、憮然とする。
「あのね、」
都司に自覚があり、それでも隠せないことを彼女は知っているようで、だからといって機嫌をとるで無く宥めるでも無く、実にさらりと話し始めた。
「こないださ、百魚に呼ばれて行ったの。」
良いもの見せるとか言うから。
「なのにね、見せられたのはあれだよ、あれ。」
蟹。
「……カニ、ですか。」
「沢蟹。しかもね。」
思い出すのも嫌なのか。口唇が心持ち尖る。
「異形再生。」
「異形再生、」
「それがね!以上に長いの!」
複眼を除去した蟹の異形再生だったという。触覚へと再生したそれの長さが半端ではなかったのだと、渋面で言う。
「それは、気持ち悪い、」
「でしょ?」
ちょっと強い勢いで千誉は同意を求めた。
「その前は蛙の過剰再生だったしさ、」
蛙。
「蛙、」
聞き覚えのある。彼女が蛙のフォルムが好きだと、それではなくて。
--もっと、
「……多分、柊一郎さんの想像であってると思うよ。」
「じゃあ、銀竜草って、」
「んー。肥料はそれだね。」
嫌がらせとして、気付かないほうが良かった。恐ろしく気持ちが悪い。
「怒ったから、もうしないよ。」
と思う、しばらくは。
--染さんが弱い、
それがこれ程心許無いとは。
都司としても不完全再生をコンプリートされても困る。
「あんまり、刺激しないほうが良いかな。」
「そうですね。」
帰る道すがら、もう見えない校舎を振り返る。
「遅い気もするけど。」
「……そうですね、」
見るからに気持ちの悪いものは遠慮したい。
願わくば。