40.マニキュア
しるしをつける。
マニキュアの品定めをしている。真っ直ぐな背中に隠れている手元は、忙しそうに塗っては取り去っていく作業を繰り返していた。
「終わりました。」
見上げられて、頷いた。反射の域に達している。
「柊一郎さんはどの色が好き?」
とりどりに並んだ小瓶は、まさに紅葉だ。千誉はなんの媚でもひけらかしでも無く、いつものこ調子である。そのうち彼女自身の「好き」を忘れてしまうのではと危ぶんだりもしたけれど、
『ちゃんとね。』
ちゃぁんと、
『時と場合は考えてるよ?』
きちんと安心させてくれたから、彼は今回も正直に答えるのだ。
「……これ、」
これが良いです。
貝の内側のような、薄い薄い茜色と光沢。
ついこの間、ひらひらと小さな音を立てながら揺れていた、彼女の深緑のスカートと、
--きっと、
よく似合うだろうと彼は思った。ぽけっと爪とスカートの組み合わせを浮かべていた彼に、千誉はとんでも無く自然に小瓶を渡した。試供品、トラベルの付いたそれを手にするのは全くの初めてである。
塗って?
言外に、しかし声高な口角は、きれいな笑みの形に持ち上がっていて、都司はとてもではないが抗えない。差し出された左手を、彼はそおっと受け取った。
一番、少なくとも都司にはそう思えた、一番最後まで長く細いままであろう、その指のその爪に。
「……ありがとう。」
不器用に塗られた、きれいな光沢。
「しるしね。」
外側から数えて二本目をうっとりと見ている千誉に、都司は小さな上下で肯定した。
「あのスカートに合いそうね。」
覚えてる?
「深い葉っぱの色の。」
これから紅葉する葉の色の。
顔中で、きゅうっと笑んで。彼女はレジに駆けて行った。




