4.pajaro azul
女と言う生き物には、独特の優しさがあると思う。女らしいとか、そういうものではない。莢の筋をとる指先とか、マグを傾ける手首の動きだとか。末端で感じることの多い匂いだ。
千誉の気に入りの輸入雑貨屋で、一際存在を気にしているものがある。
蛙だ。
正確には蛙の置物。
恐らくモルタルで作られた体。硝子戸の外へと顔を向けて鎮座していた。仄かに笑んで、指の腹いっぱいを使い、その丸いフォルムを撫でる。
優しさ、
否。
懐の深さ、
否。
ふくよかなのだと思う。本人の与り知らぬところで、都司ばかりを幸福にする。すっぽりと幸福圏内に入った彼は、こちらの方も知らぬうちに安堵している。
「蛙、嫌いじゃないんですか?」
「触るのはどっちでもないけど、形は好き。」
とても好き。
「このまるは愛しいね。」
そおっと、話さないで欲しい。
ノイズの混じったラジオが、狭い店内で充満している。もちろん言語はネイティブだ。淀みなく続くのは母国がだから、なのだけれども、それでも形態の全く違う音は遊戯じみている。壊れ物が丁寧に並ぶおかしな匂いの空間は、千誉が橋を渡さなければ都司にとってラジオの中身と同じくらい遠方だった。
--悪くないんです。
彼女の口調を真似て、そおっと思う。無理やり外へ出すように、気管支が引っ掻き回される。
--悪くないんです。
千誉は紛れも無くたった一つだ。46億年にたった一つなのに。
--何がいけない。
この点においては、きっと彼のほうがポジティブだ。
「ちょっと、待ってて、」
結局、それを購入するらしい。小さなレジスターへ、大切に持っていった。少し、
--少し?
少し、と少し。たして、それから何倍かしたくらい、蛙が羨ましい。
「柊一郎さん、これ、」
彼女の気に入りの裏道一本目にある喫茶店は、いつどの時間に行っても無人と言うことはなく、かといって込み合ってもいない。ぼんやりとした店内は、彼女に良く似た「内」の匂いがした。行き着けではない。常連でもない。空いた時間のために在るような「内」を、彼女はいくつか持っていた。
とつ、
硬い音で置かれたのは、底光りする木の置物だ。研磨されて木目の美しい。
「青い、」
確かに青かった。
「どうやって染めたんだろう。」
ぐらぐら煮るのかな。
千誉の中指くらいの体長の、青い鳥。
「azulって、書いてあった。」
スペイン語だね。
「御誕生日おめでとう、の1。」
「いち?」
「いち。」
「いち、」
「こまごまとね、することにしたから。」
こそっと笑う。彼女の声音は低いから内緒話のようだ。
「ありがとうございます、」
「いいえ。」
音の切れ目が無い。
--過る。
やはり間違ってなどいない、そう頭を過る。こんなに大事にしたい厚みなんて、ほかの生き物に有るものか。
「柊一郎さん、」
おめでとう。
鳥が飛んでいくみたいに。蛙がべったり着地するみたいに。ずいぶんな濃さの内の匂いが、ぐらりとよぎった。