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35.深夜番組

宗二が不幸なR15です。ご注意。

 寝なければならない時刻に起きている後ろめたさが最高潮に達するのは、テレビが付きっぱなしだったことに気が付いた、まさにあの一瞬である。





「しゅういちろうさん、」


 囁きに近い音量に、肩が震えた。


「しゅういちろう、さん、」


 宗二の好きな人は、兄の大切なひとだ。気紛れに訪れる日を、少年は乞い続けている。


「ぁ、」


 その千誉の肩口に夢中なのは宗二ではない。所有を許された柊一郎である。


「ん、ぅ、」


 見てはならぬもの。


「もっと、さわって、」


 世の中に溢れる中で、柊一郎が恐らく最も強く禁じるのは、切り取り線のはっきり付いたこの時間に違いない。それを目の当たりにしていた。

 出来るならば扉をきちんと閉め、こんな隙間なんか消し去りたい。しかし、手指に音を立てないだけの技術を求める余地がない。ならば後ろへ一歩、退けばいい。


--千誉さん、


 それだけの動作すら、今の彼には望めなかった。


「ぁ、」


 口唇と口唇は嘗て一繋がりだったように、ひたりと合う。自分と良く似た形の癖に、何故彼こそが片割れを彼女に定める事が許されたのか。


「千誉さん、」


 汗みずくの兄のためだけに揺れる乳房の残像が、彼の目の奥でぱちぱち光る。


--白い、


 身体中がじくじく痛んでいた。厳しい痛みに、宗二は瞬きすら出来ず、ましてや耳を覆う事など望むべくもなく。唯、彼女に恋をしている事実に苛まれていた。


「しゅう、いちろう、さん、」


しゅういちろうさんしゅういちろうさん、


 その人の呼ばわるのはたった一人である。浮かぶように緩慢に動く腕が伸べられ、指は髪に絡み、四肢は自ら開かれ、擦り寄る。

 ただ一人に対してのみ明け透けに、情を寄せている。それが、


--ずるい、


 兄が耳介のすぐ傍で、浅く早く呼吸するたびに拙く笑う。それが、


--ずるい、


 心底羨んだ。

 柊一郎に口唇を開き、舌も歯も受け入れ、あまつさえ匂いも味も差し出しておいて、


--僕の、


 少年の痛みは一滴も受けてはくれないのだ。


--ずるいよ、


 彼女を折るほどに畳んで大きく溜息をついた兄を見て、ようやく金鎖の外れた少年は、よろけながら後退った。漸々動かした目蓋の裏に白色の手足と、ひりつく角膜を感じて、


--もう、


 もう眼を瞑れないのだと、彼は確信した。

 目蓋を閉ざし暗闇に立っても、瞑りきれないだろう。残像はノイズのようにランダムに浮かび、宗二はきっとじっとたりとした蟠りを昇華させる事ができない。そうして時折吐き出すしかないのだ。



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