33.もしも
頬杖をついて座っているひとが、都司に気付いた。あわてて時計を見れば、待ち合わせまで15分もある。いったいどれくらい前についていたのだろうか。問いかけても、千誉は笑って教えてくれないだろうけれども。
「だって柊一郎さん、遅刻じゃないじゃない。」
違うんだと、彼は言い募ることが出来ない。千誉もそれは分かっていて、だから目一杯優しげに言う。ずるいひとだと思うけれども、やっぱりそんなことは口に出来ずにいた。
正面に座ると、遠くから視線を感じる。都司は実のところ、この隠れ家のような薄暗い喫茶店に入りたくない。
千誉に向かう波があるからだ。
彼が目に込める愛惜と比べたら遥かに惰弱だけれども、感情は同じカテゴリである。
気に染むはずがない。
「何、頼む?」
こと、
傾ぐ首。薄い皮膚の下の脈の青が痛々しい。遠くからなら認められないそれを、誰にも見せたくないのに。
「いえ、あの、」
出ませんか?
「出るの?」
氷が解けていく。水かさの増したグラスに口をつける気にはなれなかった。視線を下に向けたままの彼を、覗き込むように千誉は顎を引いた。
「気持ち悪いの?」
帰ろうか?
「えと、ちがくて、」
いぶかしむのではなくて気遣う声に、ぱっと顔を上げる。
「ここじゃないところっていうか、」
あの、
「……すみません、」
「平気。」
わからないこといってすみません。
へいき。ゆっくりしゃべって。
少しだけ端折った会話を交わせることに優越を感じた。
「千誉さんが、」
「うん。」
「……見られてて、」
「うん。」
「……い、」
イヤなんです。
「……柊一郎さん。」
「……はい。」
「だいすき。」
空気を含んだような声に、顔中が熱くなる。
「さ、出ようか。」
極々自然に繋がれた手に、ちょっとだけ、もしかして、と思う。
もしかして知っていたのではないかと思う。
このひとは彼に意地を妬かせることが、本当に上手いから。
「……知ってました?」
問いかけの応えは、含み笑いと絡んだ手指だ。
「だってすきなんだもん。」
うふふ。
鼓膜の震えに背筋がじんわり痺れた。
--あなたをどんだけすきなのか、
口に出来ないくらいだと、言い募って喚いて乙女のように祈ったら、このひとは10割きちんと理解してくれるだろうか。
ほっそい指にへなへなになりながら、都司は思った。
「人」という感じを喋ってほしっくないなーと思って、「ひと」を使っています。
そしてそろそろまたしても、微温ーーーいR15を入れたい。




