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30.クレヨン

「クレヨン?」


 そんな訳ないだろう、と言いつつ思う。普通の鉛筆の三倍位の太さで、


「うわ、」


 突付くと、モスグリーンの芯が爪につくほど柔らかい。


--なんだ?


 矯めつ眇めつしてみるがさっぱり思いつかず、都司は困惑した。


「アイライナー、」


ですよ。


「わ、」


「クレヨンでもないし、色鉛筆でもなくって、」


アイライナー。


「愛?」


「それでも良い。」


間違ってないわ。


 彼がどうしようもなく好きになってしまったひとは、賢しげに笑って見せた。一日に何遍見たって慣れないだろう、という予言と肯定が三千回目くらいを迎えた。


「ほら、」


ね。


 ぱたんと両目を閉ざして、スクエアの爪先が自らの目蓋を指して見せる。


「睫のとこ。」


「はい。」


 細く丁寧な一本の線は、彼の爪に着いたまま拭われていない濃い緑だ。


--器用だなぁ、


 秘密の道具を一つばらすと、彼女は都司の両目の間近で、実に注意深く目蓋を開けた。きゅきゅ、とした俊敏な瞳孔の動きは、彼にとって呪いも同じだ。金鎖で縛ったように、きつく、確りとした。


「……目の、」


 話すために口を開く。解れた訳ではなくて、その証に、動かす口唇がぶつかるのではないかとひやひやしている。


「目の周りを縁取るから?」


「うん。」


でも、


「でも?」


「好きの証拠というか、」


なんか、


「手の内というか、」


だから、


「……だから?」


「愛、」


でね。


「あってるの。」


 食虫花の甘ったるい手管の様なものだと、彼女はからからと笑った。



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