26.首すぢの赤い蛍
「ひ、」
くう、
と、続いた不振な音は、明らかに傍らの彼女からのものであった。ぎゅう、といつになく強い力で腕に縋られて、都司にも狼狽が伝染してしまった。
「柊一郎さん、」
妙な角度で都司を見る千誉は、今までで一番弱気だった。
「千誉さん?」
「とって、」
これ、
傾げて、晒された肩口に力が篭もった。
「とって、」
きゅうっと瞑った目蓋は、かわいらしく切実だ。そおっと回り込んで首を覗く。
点滅。
都司の網膜が一瞬で焼ける。
「……蛍?」
「いいから、とって、」
指の先でぴしと弾くと、重たげな翅音ともに真っ黒な宵に消えていった。
「びっくり、した。」
びっくりした。
二度、続けて言う彼女が幼く見えて、知られないようひそりと笑んだ。
「ありがとう、柊一郎さん。」
周囲の藍の所為で、いっそう白い頬。
--夢に見そうだ、
点滅陰影の逆転する、耳と首と。恐怖の対象となった異形と。日常から幾許か遠い出来事であった。
「虫はさ、怖いね。」
--また、
子供みたいに。
眉が寄ったその様がとても大切だと、強く感じた。
「蛍って、この辺にいたんですね。」
「そうだね。」
でも怖い。
縋ったままなのは、忘れているからか。気分が良いままでいたいので、あえて指摘しない。指先の形と移動してくる体温で、俄かな興奮が今も彼女の中に停滞していると、都司は知る。
「もし、」
「うん、」
「もしまた来ても、俺が去かしますから。」
「うん。」
きゅう、
改められた指の力も、よる眉根も。
「柊一郎さん、」
音のたびに動く赤い唇も。
--囲って仕舞いたい。
彼女の持つ、出来る限りの何もかも。




