24.ごめんねダーリン
「ねえ、都司。」
「やっ、」
矢木先輩、
思わず半歩後方へ。
どうしてだか、否、どういった方法なのだか都司には知る由も無いけれども。
--なんで、気配が無いんだ……、
この人は。
「真砂さんさ、怒ってるね。」
すっごく。
「良いの?」
良い訳が無い。しかも、
--すっごく!?
一昨日前の機嫌は上々であった。いやむしろ。都司に対して千誉は大層甘ったるい。ほぼ全ての日々においてそうであるから、別段思い当たらない。今日なんて、まだまともな会話一つ交わしていない。いっそ見事なくらい、
「な、どうして、」
分からない。
「さあ?」
皆知ってる?
いつの間にやら、香川だとか部長だとか北園だとか。とにかく部員の注目を、彼は静かに浴びていた。そうして、
『どうにかしろ。』
言外なくせに、意見は見事な一致を見せていた。
「……ぐ、」
「聞いてきてあげようか。」
「矢木先輩が、ですか、」
「そう、僕が。」
--面白がってる……!
しかしながら。分かってはいても。
「……お願いします、」
頼んでしまう不甲斐無さは、どういう練習を積んだら培うことが出来るのか。
背中にびしびしっとした、特に北園からの嘲笑や、香川辺りが強そうな同情なんかを感じつつ。とにかく千誉から目が離れていかない。
--なんでだ……、
謎である。
見守る彼の目線の先にある、仕事用笑顔。その真下の潜む、矢木曰くの「すっごく。」は怒気だけでは無さそうだ。矢木を上目で見て、
「!」
ぱあっと紅潮して、
「!?」
俯いて、
「ぇ、」
口唇に指を置いて、
「ちょ、」
こき、と小首を傾げた。
「ま、待て、」
彼が所持している特権のうちの、幾つか。
「都司。」
「……部長?」
「自分で行けば良かったな。」
「……ぐ、」
後悔は後で悔いると書く。
「分かったよ、都司。」
--楽しんでる……、
「都司の下駄箱、お隣さんになってる女の子にね、」
真砂さん、
「ジェラシーストーム中だったんだって、」
さ。
「でね、伝言預かって来たよ。」
--今、にやって笑った……っ、
「ごめんね、ダーリン。」
だってさ。
「おめでとう、都司。」
「良かったね、都司。」
「良かったじゃないか、都司。」
「いや、良かったな。都司。」
「都司、おめでとうっ、」
「おめでとうございます、都司先輩、」
--後悔、先に立たず、
彼だけはぐったりとうなだれたけれども、まあ、概ねの世は全て事無し。




