22.めいめいが好きなだけ
正座の後の長距離は厳しい。絶え絶えな呼吸で、地べたに座り込む。距離を開けて、正座2時間の原因もへたり込んだ。腹立たしさは渦を巻いていて、運動ぐらいでは収まらない。否、拍動のきつさと混ざって、更に厳しいといえた。
「くそ、」
ばたばたと地面に汗が落ちる。乾いて埃っぽいアイボリーに散る黒点が、そのまま己のしこりに見えた。足先を見れば、白かったシューズは見る影も無い。当然だ。屋外で激しい活動をしているのだから、汚れないほうが嘘である。
しかし、
--まただ。
ふるふると揺れながら、ゼリーが他人の口に入ったときと同じように。酷く酷く、
--千誉さん、
彼女が汚された気がした。勿論、都司の極端な重い過ごしである。そんな事実は無い。
--無理に、
引き離されたような気分が、大切なものを砕かれた時と不快の色が似ているだけだ。このシューズを見た時、手に取った時、買うと決めたその時に、
『良いね。』
言ってくれたのが染なのだ。だから繋がってしまっただけだ。青いワンピースをひらひら揺らしていた彼女に。
--畜生、
悔しくてたまらない。
汗が落ちる。黒は広がる。
ひらら。
視界を掠めた青いインパクト。
ひらら。
「柊一郎さん。」
こんにちは。
青くて薄いシフォンの布は、容易い風にも反応する。
「これ、あのときの?」
がんばってる靴になったね。
永遠に渦巻きそうなループが、実にさっぱり遠ざかった。
「やっぱり、その、」
それ、
「似合います、」
凄く。
日も暮れようというのに、涼やかなさらさら。千誉は笑んだ。嬉しそうに笑んだ。
「きれいです、」
都司は崩れそうだった。
「何でそんなに座ることに?」
「き、北園のやつが、」
千誉の視線は言い淀んだ都司から離れて、へたる件の彼へ。
「ふうん。」
アイメイクのきれいな目元で斜から眺められた北園は、
「じゃあ、北園君は不幸になるね。」
絶対。
大いに怯えてた。




