21.グラニュー糖の小山
ぱこん。
硬い音を立てて、三段に分かれている弁当箱の蓋を開ける。朝昼晩と三食。その運動量に見合った食事をしているから、それなりに摂取する。だからといって、決して動ければ良いという取り方ではない。彼の母は家事の才能に長けた人で、手間も材料も惜しまない。むしろ嬉々として、細い指をこまごまと動かしていた。
ぱこん。
二段目。彩からして丁寧に詰められた食物を、ゆっくりと食べていった。良く噛んで味わうことは、基本だと言われ続けている。柔和な微笑でそのほうが作ったこっちも嬉しいの、と加えられてしまえば、弟と父を含めた彼らに否やの生じ様が無い。
朝から揚々とした素振りで熱っしていたのはこれだったのかと、長いこと鼻腔に停滞していた甘い匂いの正体が、本日のデザートである。
甘味を目にして、都司は狼狽した。
ゼリー。美しい、赤色のゼリー。
--苺だ。
視覚からの情報は、瞬時に難無く最終点まで導き出した。
赤・苺・千誉。
電気の速さと聡明さで、
--千誉さんの口唇、
けばけばしいのではなくて、瑞々しく光る。口紅なのかリップクリームなのか、はたまた別のものなのか。都司の知識では追いつかない何某かによって、彼女の口唇は最近赤い。
元々化粧を落としたところで、そう違いは無いと彼は思っているが、いつだったか膨大な時間と手間が費やされていると小耳に挟んでいたから、この発言は控えている。
--多分懸命なことだ。
口唇を見て果物や菓子へ行き着いたことは一度も無いけれど、その逆がありえた誤算は、何とか健全な昼食時に戻ろうとする都司を簡単に手放しはしなかった。
--千誉さん、
立ち戻る努力を半ば以上放棄し、連想の帰結していく人を思う。スプーンが握り締めた拳ごと揺れた。だって、きっと、
--柔らかい。
ふるるっとした見かけ通りに、これ異常なくゼラチン質だ。
真剣な面持ちでスプーンを握り締め、ほんのり赤面した都司は、どのくらい己が衆目を集めているかなんて、まるで意識の外だった。
彼を中心に遠巻きにしているクラスメイト、何事かという野次馬は廊下に。良くも悪くも都司は人目を引いたから、そりゃあ見事な、けれども静かな人垣である。
「喰わないのか。」
そんな立った一言で、赤く瑞々しい都司の懊悩は他人の口に消えた。
「--北園、てめぇ、」
地を這う、まさに蛇の如し。人垣は遠巻きへと姿を変え、
結果。
放課後の正座2時間。
経緯。
大乱闘。




