12.そういうきせつ
昼間でも月が浮かんでいたりすると空ばかり見ている。
「薄くした、野菜みたい。」
玉葱か大根。
感傷的な台詞ではなくて、少し安堵した。街路樹が花開いたりしたらば、上ばかり向いている。
「銀杏の季節になったら、通るの止めよ?」
美味しいけど。
言われなければ通っていたと思う。
川沿いを歩くと、彼を通り越して水の流れを。
「烏が行水してる。」
結構長いね。
じたばたする真っ黒い鳥をじっと見ていた。
--我儘を言いたい。
今朝、触りたかった猫に避けられたからとか。英語の時間に当たってしまったとか、誤字が多くてノートが真っ黒になったとか、開けてびっくり箸が無かったとか。
理由になりそうでならないものが、ぽろぽろ起きてしまった日だった。
なんとなく釈然としない、こう、「淋しい」に似た心持は、彼女で極めつけになったのだ。
千誉は雨都司ではなくて、上と真ん中と下ばかり見ている。彼の中で似ていただけの寂しさは、とっても、がつくほど「心細い」へと転変した。
「千誉さん、」
「んー?」
くいい、っと滑らかな動きで彼を見上げる。半透明の半月襞は薄っすらと血色だ。瞬きで、く、く、と動くコンタクトレンズ。
「あの、」
「うん。」
「あの、」
「うん。」
「……なんでもないです、」
「そう?」
「はい。」
我儘を言いたい。
そろそろR15をはさみたいです。ごふごふ。