02 高校生活の始まり
*桜side*
入学式は昨日終わり、いよいよ高校生活が始まった。
教室の中や、廊下はやっぱり知らない人たちばかりで緊張してしまう。
「ねえ、名前は?」
席に座ってぼぅっとしていたら突然後ろから肩を叩かれ、驚いた。
振り向いて後ろの席を見ると、綺麗なストレートの髪を2つくくりにした、ぱっちり二重の可愛らしい女の子が私を見ていて、慌てて返事を返した。
「あ…楢崎桜ですっ」
「桜ちゃんか…。よろしく! あたし、西岡千里。千里って呼んで。あ、あとタメでもいい?」
「うんっ。よ、よろしく…千里っ」
そう言うと、千里は可笑しそうに笑った。
千里が話しかけてくれたお陰で、少し緊張がほぐれた。
「実は私、隣の県から来たから知り合いが全然いなくて…話しかけてくれてありがとう、千里」
私が少し照れながら言うと、千里は目を丸くした。
「え、そうなの!? すごいっ。そっかー隣の県からかぁ」
「…え、お前隣の県から来たの?」
後ろから声が聞こえ、振り返るといかにも明るそうな男子が私を見ていた。
ちょっとビックリした私は、おずおず頷いた。
「うん、そう…」
「へっえー! …………」
「…? な、何か付いてるかな??」
その男子は黙ってじっと私の顔を見るから、なんだか恥ずかしい。
…だってかっこいいていうか、男子にとっては失礼だろうけど可愛い人だし…。
「あ! 分かったっ楢崎さん!!」
「え、ぇえ? 楢崎ですが…」
思い出したように、先ほどよりもぱっと明るい表情をした男子は私に言った。
「剣道してたよな! 強かったから覚えてた~。あ、俺、藤野恭汰。よろしくっ」
…藤野??
胸の奥が、ドキッとした。
そんなことを知る由もなく、藤野くんは話し続ける。
「楢崎さんの後ろの人は名前なんてゆーの?」
「西岡千里。よろしくっていうか…久しぶり?」
「、、、あっ! 千里かっ久しぶりー! 小学校卒業以来だなー!」
2人の会話の傍ら、私の胸は何故かドキドキが止まらない。思わず病気かなと思ってしまう。
…藤野…。
私が会いたいと思っている人の名字のはずなんだ……。
「覚えててくれたんだぁ。懐かしーね! ……桜?」
「あっうん?」
「ぼーっとしてるから、どうしたのかなーって。」
「何もないよ大丈夫っ!」
早く小さくならないかな、私の煩いくらいの鼓動。
まだ緊張してるのかな…。
しばらくして、だんだんと治まっていった心臓の鼓動に安心しながら、私達はその後も授業が始まるまで喋りつづけた。
昼休み。
今日1日ですごく仲良くなった私と千里は、喋りながら校舎の中を歩いていた。
「それにしても桜、剣道してたんだよね? 部活はやっぱり剣道?」
千里の問いに、私は頭を振った。
「あー…、ううん。私、部活はしない予定なんだ」
「え、そうなの? 此処の高校、剣道結構強いって話なのに…」
私の答えは意外だったようで、千里は驚いていた。
「うちは両親が共働きで、忙しいんだ。炊事とかしなくちゃいけないかもだし…」
「そっかー…」
千里が残念そうに言った後、今度は私が訊き返してみた。
「千里は? 部活何入るの?」
「あたし? テニスだよー♪ 一応中学でも部活でしてたから、高校もって」
「そうなんだ~」
「うん。…あ、桜ゴメン、トイレ行ってきていい?」
「あ、いいよ。此処で待ってるね」
私は頷くと、少し壁にもたれて窓の外を見ながら千里を待った。そして、あの日のことを思い出していた──。
◆◇◆◇◆◇◆◇
中学2年の時の夏。
県でなんとか勝ち残った私達の中学は、地方大会に出場していた。
流石地方大会か、どの中学も強かったのを覚えてる。
試合で残念ながら負けてしまった私はユニホームに着替え、自分の中学を応援していた。
「…お茶買ってくるね」
喉が渇いた私は小銭を持って立ち上がり、部活仲間にそう言うと自販機を探しに行った。