01 春休み
*桜side*
高校1年生になる直前の春休み。
「今日から此処に住むんだねー♪」
私、楢崎桜はこの春から両親と一緒にアパートに住むことになった。
理由はというと、お父さんとお母さんの”喫茶店を開く”という夢がめでたく叶い、仕事場が少しでも近いようにと此処を選んだから。
「アパートだから狭く感じる? 無理しなくても、今まで通り桜はおばあちゃんと一緒に住んでても良かったけど…」
「ううん、私此処がいい!」
両親は開店準備のために半年くらい前から此処に住んでいるので、部屋はきちんと片付いていた。
一緒に住んでいたおばあちゃんは、私が両親と一緒に行きたいと言うと快く承諾してくれ、別の親戚と住むことになった。
「まあ、また家族一緒に住めるからいいな」
「へへ」
本当は、わざわざ県を越えてまで此処に住む必要はなかったのかもしれない。
県を越える、と言っても此処の町と前住んでいた場所は隣町の関係だし。
……でも、会いたい人がいるから。
色恋沙汰って思われるかもしれない。
ただ私は、恋愛に疎いからこの気持ちが一体何なのか知りたいだけ。
実をいうと、その人に会えるかどうか、微塵も分からない。今この街に住んでるかとか、どの高校に通ってるかとか。
全く分からないけど、それでも小さな小さな奇跡を信じて、此処に来た。
──顔と名字しか分からない、あの人に会いに。