ぼくにたりなかったもの。
「今日も僕は光ることができなかったなぁ……」
曇っていて、街灯だけが頼りの真っ暗な夜の道をコウヤは歩いていました。
その背中にはギターを背負っています。
コウヤはギターを演奏するのが誰よりも上手ですが、いつも「音楽が輝いていない」と言われてしまいます。
けれども、皆は何が足りないのかを教えてくれないので、コウヤも分からないようです。
そのうち本人も人に聴かせる機会がだんだんと減っていきました。
「ただいまぁ」
家に着いたコウヤはギターをケースから出して今日も練習をします。
難しい姿勢で演奏してみたり、思い切ってちょっと良いギターを持ち帰ってみたりもしました。
それでもコウヤの音は曇ったままでした。
コウヤも頑張っていますが、それでも、同じ答えが返ってくるという繰り返しでした。
今日のコウヤはギター始めた時を思い出して、初めての人向けのギター解説講座見ているようです。
動画を見た後、言われたことを思い出して演奏してみます。
でも、自分じゃわからない。
「明日聞いてもらわないと」
コウヤの親友にいつも聞いてもらって足りない〝何か〟が満たされているかを確かめてもらっています。
でも、親友は音楽をやったことがないので、何が足りないのかを詳しくは言えないのです。
次の日、コウヤはいつも学校帰りに公園で親友にギターを演奏します。
「どうだ?」
「特に、変わったところはないかな。上手だけど、やっぱり違う」
「そうか……」
がっかりするコウヤ。
「もう、俺じゃなくてギターの先生とかに聞いてみれば?」と毎回親友は言いますが、紅夜の答えは決まって「僕は自分で答えを見つけたい」でした。
すると、スッと立ち上がった親友は
「よし。コウヤ、いつもギターばっかだろ? たまには出かけようぜ!」
と提案しました。
「……たまにはいいか」
そう思ったコウヤはギターをケースに戻して先に行く親友についていきました。
親友が向かった先は映画館でした。
「何か空いてるのあるかな~ッ」
ちょっぴりワクワクしていたコウヤですが、空いている映画が子供向けの映画だけでした。
それでも、映画を見たい気分だったので二人は中に入りました。
始まっても中はそんなに暗くならず、テーマソングが流れると元気に歌い出しました。
音は外れてるけど、とても楽しそうに歌う子どもたちを見て、親友は
「みんな楽しそうだな……コウヤ、いつも必死な顔だけで、楽しさなんてなかったもんな……」
と言いました。
そう言われてコウヤは気が付きました。
「そうだ…そうだよ! 音を楽しむって書いて音楽なのに、全然楽しんでなかった……!」
コウヤに足りなかったもの。
それは全力でギターを楽しんでいなかったことです。
二人は映画の内容より、元気に楽しむ子どもたちを見ていました。
映画を観終わって、空にはきらきらと輝く星が沢山ありました。
二人はいつもの公園に立ち寄りました。
公園にはいつもより親子連れが多かったけど、コウヤは人に聞かれることにためらいもせず、コウヤがギターを始めたきっかけになった曲を久しぶりに演奏しました。
最初は楽しく弾くということを意識してましたが、そのうち、指が勝手に踊り出し、気が付いたら追加で三曲ぐらい演奏してました。
その時のコウヤを見て
「コウヤ、そんなに楽しそうに笑いながら演奏するんだな……!」
と言ってくれました!
その声を聞いてコウヤはもっともっと笑顔になりました。
楽しく演奏していたのが伝わったのか自分の事のように喜んでくれる親友がとても嬉しかったのです。
そしてさっきの映画に行くともらえる小さなマラカスを持った通りすがりの女の子が、
「お兄ちゃんの音、きらきらしてる!」
二人の声を聞いて、コウヤの心は空にきらきらと輝く星のように明るくなったのです。
それからコウヤは親友以外にもきらきらの音楽を楽しく届けることにしましたとさ!




