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第7話

 さてどうするべきか、ひとまず泰志は体を起こすのに邪魔になっているエスリナをどかそうと手を伸ばす。


 エスリナの体は文字通り触れば壊れてしまいそうなほど華奢だった。慎重に、そしてゆっくりとエスリナの体を動かす。


 しかしその際、無抵抗の少女の身体に触る行為は背徳感を覚えると同時に、理性にじわじわとダメージを与えてくる。そして安らかに眠っているようなエスリナの表情に―。


「そのまま押し倒してくださって結構ですよ」


「おおおおぉぉぉおぉぉぉうぅ!?!?」


 突然の声に、エスリナの顔を覗いていた泰志は声を上げる。


 いつの間にかに、泰志の正面には一人の女性が立っていた。後ろにアップで纏めた赤髪に、黒い眼鏡をかけた理知的な容姿。


 ロングスカート型の所謂メイド服に身を包み、どこぞの社長付き秘書を思わせる女性は眼鏡をくいっと上げ、


「そしてそのまま既成事実を作っていただければ」


「しねぇよ!」


 さらっと爆弾発言を投下してきた。


「しないのですか?それは残念です」


「全然残念そうな表情に見えないんだが?」


「申し訳ありません。少々顔に出にくい性格でして。なんでしたら可能な限りの残念な表情でも作りましょうか?」


「それはそれでめんどくさいんで止めてくれ。それよりこのタイミングで来たってことはあんたこいつの部下かなんかなんだろ?」


 問いに女性は首肯を返す。


「肯定です。私は名をイリス・ネフリティスと言います。姫様専属の従者で、幼き頃よりありとあらゆる面で姫様をサポートし、お仕えしてまいりました。姫様のありとあらゆることを知り尽くしています。なんでしたら姫様が最後におねしょをした時のことでも語りましょうか?あ、御所望ではない?そうですか、残念です」


 言葉の途中で、怪訝な顔をする泰志を見てか、イリスは終始無表情で話を終わらせる。これも全く残念そうに見えない。


 それにイリスと言う名前に何か聞き覚えがある気がし、同時にいやな予感もした。


「ならば姫様が初潮を迎えた時の話でも」


「頼むからあんた黙ってくれ」


 瞬時に理解した、こいつはダメだ。


「お気に召しませんか?」


「お気に召すと思ってやってるんだったら、あんたの感性は絶対におかしいと思うぞ」


 するとイリスは考え込むように顔に手を当てる。


「なるほど、魔族と人間の間では殿方のエロティックな興味は異なるようですね」


「え、魔族の間では一般的なのか?」


「ごく一部の層では激熱です」


 ふつふつと湧き上がる怒りを何とか抑える。


「なんでそんな少数派の意見をあたかも当然のごとく話すんだ?」


「大穴を狙った、と言ったところですかね。残念ながら外れてしまいましたが」


「どうしてこの時だけ本当に残念そうな顔するんだよ」


 イリスは眉を下げ、シュンとした表情をする。が、直ぐにキリッとした表情に戻る。


「お気に召しました?」


「というか直属の従者なら主の心配しろ」


 泰志は抱えているエスリナを見る。気を失っているのだが、何とも気持ちよく眠っているように見えなくも無い。


「流石にこのままにしておくわけにはいかないだろ?」


「あぁそうでした。忘れていました。ですがご心配なさらず、姫様が倒れるのは良くあることです。元々

 

 虚弱な体質の方なので。放っておけばいつか起きます」


「忠誠心って言葉知ってるか?」


「大事大事に過保護にすることが、その言葉の意味で無いということぐらいは承知しています」


 泰志は言葉を詰まらせる。イリスの言葉に全部納得したわけではないが、エスリナの危なっかしい性格を考えるとそれなりに厳しく接しざるを得ないのは理解ができた。


「とはいえ、あなたが姫様の安否を気遣うのは仕方が無いことでしょう。何せ姫様が死んでしまえばあなたも死んでしまうんですから」


 聞き捨てなら無い言葉が聞こえた。


「今なんて言った?」

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