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第5話

「わあああああああああ!」


「やばい! 姫様が発作を起こした!」

「魔力乱れまくって地形変わってるぞ!」

「イリス様! イリス様は本当にどこ行ったんだ!」


 保護者同然の魔族の叫び声がここまで聞こえてくる。もう誰か隣に立って助けてやれよ。

 

 とはいえ、話の内容は伝わってきた。架け橋って言葉でいいはずだ。多分。


「架け橋ってことは、俺に仲介人になれってことか?」


 魔力の余波で小さなクレーターを作成した姫様は、ぼろ泣きしている顔をこちらに向けてくる。


「そうなっていだだげるなら、わだしとしては、ごれいじょうないぐらいありがだいです」


「まず泣き止め」


 エスリナは鼻をすすり、何とか気持ちを立て直そうとする。


「それってのはつまりあれか?」


 頭の中では先ほどから何回も思考を繰り返している。答えを何回もはじき出すが、直ぐにそれを否定する。その操作を何回も、何回も。


 抜いたはずの、存在しないはずのジョーカーを場に出した、でも言おうか。それほどまでエスリナの提示してきた手札は、常軌を逸しているとも言うべきものであった。


 泰志が驚くのも無理はなかった。いや、誰が聞いたところで驚かないわけが無いだろう。


 何せ泰志の予想が正しければエスリナは、今まで誰も考えもしなかったものを実現しようとしていることになる。誰も目指したことが無い道。


 道なき道を希望という存在するかどうかさえも分からない光に向かって突き進むようなものだ。


「私はあなた方人間との共存を望んでいます」


 エスリナは、芯の通った凛とした声音ではっきりと告げた。


 その声にはしっかりとした意思が、真に望んでいる心の声が混ざっているように聞こえた。


「…………正気か?」


 エスリナの言葉をしっかりと吟味した末、尋ねる。


「はい」


 戸惑うことなく、エスリナは頷く。


 そこに存在していたのは先ほどまでの慌てふためいていた少女ではなかった。気弱な、不安を感じさせる危なっかしい姿の少女は完全に消え去っていた。悠然とした立ち振る舞い。


 誠実さを、そして決して折れることの無い強い意志を感じさせる瞳。何かを成し遂げるために重要なものを、この少女は全て兼ね揃えていた。


 言っていることは狂言とも取れる内容だ。普通なら盛大に笑われるか、反感を買うかのどちらかだろう。どちらにしろ、まともに受け止められはしない。


 遥か昔、古より争ってきた両者が手を取り合う。そんな光景、普通は想像ができない。泰志とてその例に漏れない。


 いままで散々憎しみあった相手、それと手を取り合うなど―


    『なんで君はそんな悲しい顔をして戦っているんだ?』



 突然言葉が泰志の頭に反響した。聞いたことの無い声音、しかし何故か懐かしさを感じさせる言葉。記憶を手繰り寄せ、やがてその言葉が何かを思い出した。


「いかが……ですか?」


 不安そうに眉を下げ、今にも泣きそうな表情でエスリナが尋ねる。


「そう……だな」


 気弱く呟く。散々思考を重ね、納得のいく答えをはじき出そうとする。しばらくの沈黙の末、重い口を開く。


「その話、乗らしてもらおうか」


「本当ですか!?」


 エスリナは不安げだった表情を一変させ、明るい笑顔を見せるも、一旦首をかしげた後再度不安そうな表情に変わってしまう。


「どうした?」


「あの、失礼ですが理由をお聞かせしてもらってもよろしいですか?」


「理由?」


「はい」


「そうだなぁ。しいて言うなら、あんたの将来性を買ったってとこだな」


「私の、ですか?」


 エスリナはきょとんとした顔で自分を指差す。


「そう。こんな馬鹿な考え普通は思いつかないし、思いついたとしても実行しようなんて考える方がおかしい。実現できる可能性もはっきり言って0だ。そりゃ実現できたらすげぇよ。でも普通誰もお前に賛同しようなんて思わねえ。今までのこと考えたら、誰だってそうだ。それこそ、頭がイカレてない限りな。で、だ」


 念を押すように泰志は言葉を区切る。


「俺はもうすぐ死ぬ。俺という存在の全てが失われちまう。残念ながらそんな状況で普通の精神状態を保っていられるほど俺は強い心の持ち主じゃないわけで」


 そこで泰志は諦めたような表情で笑う。


「負け確でリスクだらけの勝負に一発狙って賭けてみてもいいんじゃないかって、イカレたことも考えちまうんだよ。納得していただけたかな?」


 泰志の言葉は表情とは違い、陽気さを感じられるものだった。


「それじゃあ?」


「だから協力してやるって言ってんだよ。何回も言わせんな」


 未だきょとんとしているエスリナに活を入れるように言う。


「は、はい!すす、すみません」


 驚いたエスリナは慌てた表情で日傘の取っ手を胸に力強く抱きしめる。

 

 その姿は再びあの危なっかしい少女だった。


 先ほどの雰囲気はなんだったのかと疑問に思うが、この際気にしないことにする。

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