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第35話

「止めるんだ藍」

「どうして?私達にとって魔族は生かしてはおけない存在でしょ?殺そうとするのは当然じゃない。どうしてそれを泰志が止めるの?泰志だって数え切れないほどの魔族を殺しているはずでしょ?」

藍のまるでなぶる様な言葉に今宵が身を強張らせる。いや、その目は泰志に向けられており、今の状況もさることながら泰志の存在に恐怖を感じているのだ。

「私より沢山殺してるよね。それに魔界でも数え切れないほど沢山殺したんだよね。その泰志が……なんで……なんで今更魔族を守るようなことを言うのよッ!!」

ヒステリックに語尾を強めた瞬間、首を絞めている力が増し今宵がもがく様に暴れる。

「止めろッ!」

歩み寄るがそれを遮るように纏が舞巫女で地面を削る。コンクリートの地面がいとも簡単に切り裂かれる。

泰志は同時に発生した衝撃波で硬直を余儀なくされ、その隙に藍は今宵を抱えながら近くの建物の屋上に飛び上がる。

「じゃあね泰志」

不気味な笑みを残し、藍は今宵を抱えたままその場から飛び去っていった。

残ったのは、やけに静かな周囲の空気だった。

「何が……起きてんだよ?」

問いかけは京一郎のものだった。

特に誰に問いかけたと言うものではない。思わず口に出た。この状況全体に問いかけたと言うべきものだった。

「俺のせいだ」

そして泰志の呟きも自然に出たものだ。

「纏が、あいつが藍だって分かってて野放しにした。俺の責任だ」

泰志には確信があった。だからこそあの時、纏を助けようとしなかった。纏を助ける意味が無いと分かっていた。

横転したトラックに目を向ける。運転手の姿はもう存在しない。いや運転手など最初から存在していない。

車内を探せば札が一枚見つかるというのは予想ではなく確信だった。式神の遠隔操作による自爆行為。それを昼夜と場所を構わずに魔族に仕掛ける。

相手の正体は泰志の中で確定した。

「立てるか、京一」

泰志は座り込んでいる京一郎に手を差し出す。

だが京一郎は直ぐにその手を取ろうとはしない。呆然と泰志を見上げている。

「お前はこれが何か知ってるのか?」

怯えと嘲笑が入り混じった表情で京一郎は訴える。

「……あぁ」

しばらくの沈黙の後、観念したように頷く。すると京一郎は飛び跳ねるように起き上がり、泰志の襟を掴む。

「なんなんだよ、なんなんだよこれはよ!?今宵は、纏はどうなっちまったんだよ!?」

揺すられる泰志だが、その目は逸らすことなく京一郎の瞳を捉えていた。混乱するのも無理は無い。それが普通の反応だ。

「このままだと今宵は殺される。お前が夢島纏だと認識している、草薙藍によってな」

だからこそ、泰志は嘘偽りの無い真実を口にする。ここでの気休めだけの嘘は事態を悪化させるだけにしかならない。

その泰志の雰囲気に呑まれる形で京一郎は一瞬だけ怯み、そしてゆっくりと泰志を掴んでいる両手から力を抜いた。

「それは何とかならないのかよ?」

力ない呟きは震えていた。

「何故だか知らないが、あいつはこの場で今宵を殺そうとしなかった。つまり何らかの理由で今宵を生かしておく必要があったと考えるのが妥当だ。だからその間に、殺されるより先に、今宵を見つけて保護するしか方法は無い」

「出来るのかよ……そんなこと?」

「やらないと、俺がここにいる意味が無い」

うつむく京一郎の肩に手を沿え、軽く叩く。

「私もやりますよ!」

意気込んだ言葉が京一郎の背後から聞こえた。そこには胸の前でガッツポーズを取るエスリナの姿があった。

「それにこれからは夜の、私達の時間ですからね」

その隣にひっそりと佇む様にイリスが仕えている。

「あぁここからは出し惜しみ無しだ。出来ることを最大限の力をかけてやる。それだけだ」

魔族である二人は夜になって始めて全力を出すことが出来る。もはやなりふり構っている暇は無い。人間と魔族の共存を目指している身としては、目の前で殺されそうになっている魔族を無視することはできないし、また退魔師にこれ以上争いを続けさせるわけにも行かない。

だが夜になったとしても戦力は圧倒的に足りない。先ほど纏が今宵を殺さない理由を分からないといったが、泰志には半ば予想がついていた。今宵を人質に取り、ヴァンパイアであるエスリナをおびき出す。

そう考えているため、相手側は、十分すぎるほどの戦力を投入してくるはずだ。

「イリス、あっちの首尾はどうなってる?」

「昨日時点で予定数の98%の説得が済んでいます」

「上出来だ」

だが泰志たちもただ黙って人界で過ごしていたわけではない。このような状況の時のための秘策は準備されている。

「今宵の魔力は俺が探索する。だからイリスは―」

「待ってくれ!」

指示を飛ばそうとした時、京一郎がそれを遮った。

「俺にも、俺にも何か出来ることは無いか?」

「……大丈夫なのか?」

「ここでへたり込んでるわけにも行かないだろ!俺にも何かさせてくれ!頼む!」

京一郎の言葉には熱がこもっていた。この状況を何とかする、自分が少しでもその役に立てばいい、その気持ちが十分泰志には伝わった。もっとも、その火付け役が自分だとは自覚しているわけではないが。

「分かった。ならお前には連絡係を頼む。イリス」

「どうぞ」

詳しい説明無しでもイリスには分かったようで、バッグから取り出した携帯電話を京一郎に渡す。それも1つではない。10個は軽く超えている数だ。

「これをどうしろと?」

「言葉にすれば簡単だが、今からその携帯全部に登録されているアドレスにメールを送ってくれ。空メでいい。それだけで彼らは気付いてくれるはずだ」

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