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第22話


 そして今宵の目の前には客の数だけお冷が鎮座しており、


 <お、お兄ちゃんの……ばかぁぁぁぁ!!>


 と絶叫を交え今宵が一心不乱に客に次々と水をぶっ掛けていく。


「こいつ本当にやりやがったぁぁぁ!!」


「彼女も中々の逸材よ。自分の属性をしっかりと理解しているところとか、もうベテランの域よ。恐ろしい子」


 そりゃベテラン(京一郎)と親友(纏)のアドバイスを得てのアイデアなので当然といえば当然だ。


 まさか実行するとは泰志も思わなかったが。


「そして最後、この子にはもう言うことは無いわ」


 店長の視線の先、左上の画面にはクイーンの姿があった。


 こちらも一心不乱という言葉が似合うように跪く客の上に立っている。傍から見たらドン引きである。


 しかしエスリナの周囲にいる客はまるで崇拝するかのようにエスリナを見ている。


 どこからどう見ても女王様だ。いや、確かに王女だけれども。


 そもそもエスリナにしてみればこれは激しい運動に分類されるのではないかと泰志は疑問に思った。


 体育の準備運動ですらへばってしまうエスリナがこうまでして活動しているのが不思議でならない。


「そこで私は決めたわ。この子達を臨時じゃなくて正式にアルバイトとして雇用しようと思うの」


「いい話……なのか?」


 店長の提案は喜ばしい限りなのだが、これ以上エスリナをこの世界に浸らせることに不安が無いといえば嘘になる。


 いや、不安しかない。


「それでなんで俺にこの話を?」


 確かに泰志はエスリナの保護者のような役回りを持っているが、雇用に関しては本人と店側の問題であり、何より店長は泰志とエスリナの関係をそこまで深く知らない。


 京一郎などに対しても泰志がガウェインの養子で、義理の親戚としか説明していない。


「それがエスリナちゃんが君が良いって言うなら大丈夫って答えたのよ」


「俺が、ですか?」


「そうなのよ。イリスちゃんもエスリナちゃんがやらないならダメって言うし、纏ちゃんも今宵ちゃんも同じよ。つまりあの子達の雇用はあなたに託されたってわけなの」


 主にエスリナの言葉にイリスと纏が全力で乗っかった結果なんだろうと解釈する。


 だが泰志は以前エスリナに、困ったことがあればどんなことであろうと確認を取ることを言いつけていた。


 それをしっかりと覚えていただけでも今回は上出来というところだろう。


「1つ、条件をつけさせてもらっても良いですか?」


「あら、大きく出たわね」


 生意気な態度と分かっていたが、店長は嫌な顔せず逆に笑っていた。


「すみません、ちょっと重要なことなので」


「いいわ、話してみて」


「差し出がましいことですか、エスリナには極力普通の接客の仕事だけをやらせるようにしてくれませんか?」


 店長の表情が少しだけ強張った。


「それは今の営業ではいけないということかしら?」


 そして少し泰志を睨む。メイド服プラス筋骨隆々の体からの異常な威圧感が泰志を襲う。


「ダメって言うことではないです。でもエスリナには客と会話させるような接客をしてもらいたいんです」


 しかし泰志も怯むわけにはいかなかった。


「どういうことかしら?」


「詳しくは言えませんが、あいつはこの間まで人と関わりを殆ど持たないまま生活をしてきました。なので、今回のバイトも社会体験の1つとして俺が推したものです。だからこそ、多くの人と会話する機会を与えたいんです」


 嘘は言っていない。事実エスリナは人間とは一切の関わりを持っていなかった。


 そして人間社会を知るという意味で接客のバイトを紹介した。


 エスリナの目的に最大限の協力をする、それが泰志の本心であり、今の生きる目的のひとつである。


「……そう」


 店長はさびしそうに呟いた。先ほどまでの上機嫌を考えればその落胆は仕方が無いことだった。


 しかし泰志もこの部分は譲ることは出来ない。


 ―だが、


「まぁもともとあんなことやらせるつもりは無かったんだけど」


「………………は?」


 店長の掌返しに泰志は思わず呆けてしまう。


「考えてもみなさい。あれを毎日やったとしてどれだけの収益が見込めるというの?こういうのはサプライズだからこそ面白いの。流石にあれではお客さんの層も限定されて長続きしないわ。言いたいこと分かる?」


「何で今さらそんな正論を持ち出してきたのかさっぱりです、はい」


 店長は至極真面目な表情で続ける。


「ということで、あなたとこちらの利害は一致したということで商談は成立ということでいかがかしら?」


「まぁ色々思うところはありますが概ね了承でしょうね」


 今での問答がなんだったのかと疑いたくなるが、そこを掘り返すのも野暮なことだった。


 すると店長はクスクスと笑い始めた。先ほどの纏と姿がかぶる。


「なんですか?」


「私としてもあの子が人とのかかわりに異様に気合いを入れているようだったから、空回りしないか心配だったのよ。なるほど、大変みたいね」


「まぁあいつ自身が決めたことですから」


「違うわよ、あなたがよ。意外と心配性なのね。あの子のことちゃんと考えているわ」


「……そりゃどうもです」


 今日は何かとからかわれることが多い日なのかもしれない。

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