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第21話

「そうは言っても店的な問題があるんじゃ」


「あらこんなところにいたの?」


 頭を抱えた泰志は声をかけられ、その方向を振り向く。


 途端、ゲッっと顔を引きつらせる。


「店……長」


 そこには他のメイドと似ても似つかない巨漢のメイド店長が立っていた。まさに世紀末。


「休憩に入ったと聞いたから探していたのだけれど、ちょっとお話いいかしら?」


 名指しでの連行に泰志は心臓を鷲掴みされたような窮屈感を覚える。


 気付けば額に僅かに汗がにじんでいた。


 上司からの呼び出しという緊張感もあるが、それよりは筋骨隆々のメイド様からのお呼び出しの方が何十倍も怖い。


 本気で襲われたら逃げ切れる自信が無い。


「ここではなんだから、個室にでも入りましょうか」


「綺麗な身体で帰ってきてください」


 こういう時だけイリスは笑顔である。他人の不幸は蜜の味とはよく言ったものだ。


 一体どこで選択を間違えたのか。泰志は己の不幸を呪った。


 せめて店長がただのオネエ言葉を使う女装趣味の人であって欲しい。


 拒否権が存在するわけも無く、店長の後をついていき、個室に入ることになった。


 いつの間にかに廊下からエスリナと客の姿は消えていた。


 個室はある程度広いスペースになっており、中央にテーブルがあってそれを囲むようにソファーが設置されている。


 カラオケなどの設備もあり、それなりに盛り上がることが出来るほどのスペースはある。


 イリスは入り口で礼をした後姿を消した。


 完全に店長と一対一の状況だ。


「さぁ座りなさい」


 店長はあろうことか個室の奥に泰志を追いやる。


 これではいざとなった時の退路が無い。完全に外とは隔離されてしまった。


 いよいよ泰志は自分の危機が現実味を帯びてきたことを悟る。


 いくら客が喜んでいるとは言っても、エスリナの行為はダメな方向で常識に囚われていない。


「京ちゃんから聞いたわ。なんでもあの子を紹介したのはあなたらしいわね」


 泰志の正面に座り、店長は腕を組む。


 世紀末覇王の風情を思わせる店長に泰志はただただ頭を下げた。


「よくあの子をここ誘ってくれたわね」


「すみませんでした!!」


 先手必勝、店長の言葉の途中で泰志は靴を脱ぎソファーの上で足を畳むと、出来る限りの低姿勢を持って頭を下げる。


 低すぎて頭がテーブルの下にまで潜った。


「まさか俺の方もこんなことになってるなんて思ってなっ」


「最高じゃないの!!」


「……はっ?」


「あのキレッキレの体の動き! そして時折見せる戸惑いがちな表情!! 昔の私にそっくりよ!!」


 !?


「あの、今なんて?」


 聴覚に障害は持っておらず、逆に鍛えたほどなのだが泰志は耳を疑った。


 主にラストフレーズに。


「今までの子はどこか物足りなかったのよ。でもあの子は違うわ! あの子は私の後を継ぐ、クイーン・オブ・メェイドの称号を持つに相応しい逸材よ!」


「キングではなく?」


「クウィーン!!」


 えらい巻き舌で発音をされる。気付けば店長は恍惚とした表情を浮かべていた。


 というのも、実のところ始めから店長は怒っている表情などとっていなかった。


 泰志は冷静な判断を失っていた。


 そうでなければ先ほど店長の表情が満足げに微笑んでいたことを見抜けただろう。


 状況と店長の放つオーラが泰志の状況判断能力を根こそぎ奪い去っていたのだ。


 空気に呑まれたのである。


 泰志は以前客を足蹴にしたのが店長だったということに驚かざるを得ない。


 実行したという点ではなく、働いていたという点で。


「それにあの子だけじゃないわ!」


 呆気に取られている泰志をよそに、店長はどこからかミニパソコンを取り出した。


 本当にどこからか分からないが、店長に質問をする気力が今の泰志には既に無かった。


「これを御覧なさい!」


 溌剌としている店長に軽いどころかドン引きしている泰志だが、言葉に従い画面を見る。


 そこにはおそらく他の3つの個室であろう部屋の様子が映し出されていた。


 個室にメイドを送るのだから安全上当然の処置だろうと思うのもつかの間、泰志は映像に言葉を失った。


 右上の画面では纏の受け持った個室だろうか、テーブルを挟んで纏と客が対面している。


 もとい、メンチを切っているようにも見える。


 タンクトップから鍛え上げられた上腕二頭筋が顔を覗かせており、客の風貌はとてもメイド喫茶に来るようなものではない、と思ったところで泰志は自分の隣にいる人物を見て何も言えなくなった。


 すると何をするのかと思ったら、二人はおもむろにテーブルに手を出し握り始めた。


 そういう特別メニューかと思いきや、


<だりゃぁぁぁ!!!>


 と纏は気合いが入った言葉と共に男の手をテーブルに叩き付けた。


 うずくまる客、そして勝ち誇る纏。


<残念!また出直してきな!!>


「…………はっ?」


「彼女はアームレスリングの勝負をやっていて、勝つと代金が1割引になり、負けると二倍になるゲームをやっているのよ」


「ぼったくりじゃねえか!」


「乙女に負ける男に文句を言えて?」


 乙女じゃない人に言われる筋合いは無いが、理屈は間違っちゃいない。


 纏が合気道の道場の一人娘だという点を除けばだが。


「でもなんで1割なんですか?」


「私の娘の手を触っておいて金を払わないなんて許さないわ。まぁ今のところ皆2倍だけどね。そのおかげで腕に覚えのある男っていう新たな客層が開拓されつつあるのよ」


 あなたがやれば良いんじゃないですか?と危うく口に出るところだった。


「こっちの子も、負けず劣らずよ」


 店長に促され、右下の画面に目を移す。


 そこには今宵の姿が映っていたのだが、何故か客が皆一列に整列しており、対面にいる今宵に身体を向けている。


 この時点で泰志は嫌な予感がした。

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