第18話
「追加入りました!DXオムライス2!DXカレー3です」
「了解!」
厨房に忙しない声が飛び交う。
昼食時のメイド喫茶、しかも休日ともなれば秋葉原に来る人数を考えればそれはかなりの忙しさになる。
ほぼノンストップで3時間、泰志は厨房でフライパンを振り続け、次々と舞い込む注文を消化して行った。
高校の学園祭とぶつかっているため、そう忙しくはならないと言われていたのだが、どうやらそんなことは別に無かったようだ。
もしこの忙しさでいつもより余裕があると言われたら、泰志は二度とヘルプに入らないと心に誓った。
フライパンをさっと拭き、泰志は今しがた注文に入ったDXオムライスに取り掛かる。
厨房のアルバイトは基本皿洗いから入ると言われているが、皿どころかいきなりオムライスを作れと言われ、隣で京一郎が作ったものを見よう見まねで仕上げた。
スピードが命、ということで少々不恰好になってしまっているのだが、そこはメイドさんの力を借りて、
「頑張って作ってみたんだけど失敗しちゃいました~」
的なフォローが入る。無論作ったのはメイドでは無い。
厨房で汗水垂らしているただの野郎が仕上げた作品である。
だがお客様(ご主人様)には関係が無いようで。
「いいよいいよ!頑張ってくれたんなら僕も嬉しいよ!」
となるらしい。恐るべしメイド補正。
しかし、だからといって手を抜いていいというわけでも無いので、スピードを意識しつつオムライスを仕上げていく。
1時間を過ぎたあたりからそのスピードにも慣れ、速度を維持したまま安定したオムライスを作れるようになっていた。
「DXオムライス出ます」
もはや心を無にして調理しているため、気付いたらオムライスを完成させているという境地にまで達していた。
「DXカレー出ます」
同時に京一郎もカレーを完成させる。
ここから先はまだ注文が入っていないので、やっと一息つける。
「おい2人とも」
フライパンをふきふきしていた泰志は、料理長に声をかけられる。
なんでもフランスの有名レストランで修行した人らしいのだが、何故メイド喫茶の料理長をしているのかは逆に怖くて聞けない。
「そろそろ客足も落ち着いてきたし、休憩に入っていいぞ」
時刻は3時を回っており、昼食時は過ぎたといったところだ。
これから先は軽食が中心になるので、厨房もあまり忙しくなることは無い。
パフェなどはメイドが作ることになっている。
「んじゃ休憩入るか」
京一郎の提案に泰志は首肯を返し、二人は他のスタッフに挨拶をしてから厨房を出た。
控え室に入ったところで、先に休憩していた人物の姿を目にする。
「あれ、お二人は今休憩ですか?」
エスリナがパイプ椅子に座ってゆっくりと麦茶を飲んでいた。
「そんなとこだ。お疲れさん」
「あ、今麦茶用意しますね」
挨拶もそこそこに、エスリナは紙コップに麦茶を注ぎ泰志と京一郎に手渡した。
手馴れた手付きを見ると、給仕係が板についてきたようだ。
「さんきゅ」
一気に麦茶を飲み干す泰志だが、隣の京一郎は渡された麦茶を飲まずにじっと凝視していた。
「どうした?」
「今俺は猛烈に感動している」
そしてわなわなと手を振るわせ始めた。
「だってこんな可愛いメイドさんが俺のために用意してくれたんだぜ。俺は生まれて初めて嬉しいと思ったよ」
「お前の人生絶望ばっかだな」
「これ持ち帰っていいかな?」
「え、いえ、出来れば今飲んでいただければ」
エスリナが遠慮がちに答える。
すると名残惜しそうに麦茶を見つめた京一郎は、意を決して飲み込む。紙コップもろとも。
「いやいややばいやばい!それはヤバイって!」
泰志は目の前の光景についていくことが出来なかった。
あの紙コップが、決して喉を通るサイズと構造をしていない紙コップが、確かに京一郎の口に消えていった。
流石にエスリナも口を開け、目を丸くしている。
「何がだ?俺はメイド様からもらいうけた物は全て受け入れる」
「受け入れる意味合いが全然違うだろ!ていうかお前喉大丈夫なのかよ!?」
「ちょっと……呼吸が……苦しいかな」
「喉に詰まってんじゃねえか!!」
よく見ると青くなり始めている京一郎の顔色を見て泰志は緊急手段を行使、京一郎の鳩尾を殴りつける。
中々本気の一撃だった。
「ぶはっ!!」
異音と共に、白い何かが吐き出される。
「いいもん持ってるじゃ……ねえか」
弱ってはいるものの、しっかりと両足で身体を支えて気を失わない京一郎に泰志は思わず感心してしまう。
手加減など一切していない一撃だったのだが、殴った時ぶ厚い板を殴った感触が、京一郎の生半可な鍛えられ方ではないことを物語っている。
因みに泰志は一切京一郎の体を心配していない。
逆に手加減無しの攻撃を耐えられたことによるショックが大きい。
真人間に耐えられる程度の馬力しか出せなくなったということの何よりの証明になってしまう。
まだまだ修行が足りないかと反省する。
耐えられなかった場合のことは頭の隅っこに追いやった。考えないことにする。




