第17話
「まぁ気にするな。それより2人ともよく似合ってるな」
やはりというか2人とも元の素材が良いのでメイド服姿がよく似合っている。
すらっとしたスタイルのいい長身なので、可愛いというよりは凛々しい雰囲気の纏に対して、今宵はこれは当然と言うべきか、小柄な体格で更にメイド服という辱めからか身体をモジモジさせ、いつも以上に小さく見えた。
本人に自覚は無いのだろうが、その態度がなにか守ってあげたくなるオーラを発している。
泰志の目線に気付いた今宵は纏の陰に隠れた。
そんなんではたしてメイドが務まるのかと、疑問が湧く。
すると纏が今宵を守るように手を広げて立ち塞がる。
「何だ貴様!私の親友の今宵に何する気だ!さては貴様、最近噂のストーカーだな!?」
その言葉に泰志ではなく突如復活した京一郎が立ち上がり、不敵な笑みを浮かべる。
「ふっふっふ、よく気が付いたな!その通り、俺は今宵の全てを知りたいストーカーだ!さぁそこをどけ!今宵のメイド姿を目に収めさせるんだ!!」
「な、なんだって!そんな奴だったとは最初から分かっていたぞ!くそ、こうなったら助けて今宵タン!……ってことではい」
纏は茶番にあっけに取られている今宵を引っ張り出すように背後から掴むと、京一郎の方へと突き飛ばす。
その京一郎は両手を大きく広げて受け止める準備をしている。
「えっ?」
「さぁ!この胸に飛び込んでおいで!」
「いやああぁぁぁっ!!!」
泣き叫ぶのは何も恥ずかしいからだけでは無いだろう。
だがバランスを崩した身体はなす術なくストーカーへと向かっていく。
すると本当に嫌だったのか今宵は倒れる身体を無理矢理動かそうとする。
しかし、それも土台無理な話で、崩れた体勢は今にも背中から床に倒れるようになってしまう。
すかさず泰志が動き、あわや倒れる寸前というところで今宵を受け止めるが、タイミング悪く泰志は肩口ではなく、首筋近くで受け止めてしまい指先が首に触れてしまう。
「ひゃうっ!」
「おっと悪い!」
今宵が身体を震わせたため、泰志は急いで指を反るように離す。
そして掌で押すようにして今宵の体勢を起こした。
「あ、ありがと」
「ん?あぁいや、どういたしまして」
戸惑いがちに礼を述べる今宵に対して、泰志も何故か歯切れの悪い返事をする。
そして自身の手を気にするように見やる。
「見ました奥さん?あの男、嫁入り前の娘さんの首に手を触れましよ!」
「あらあら最近の子は本当どこでもお盛んなのね」
「お前らちょっとこっち来い。大事な話がある」
「「すみませんでした!マジで調子に乗りすぎました!」」
「遠慮すんな。時間は取らせない。一秒で終わるさ」
「時間の短さが余計怖い!」
「止めて掴まないで!許して!」
いち早く危険を察知した纏は距離を取って難を逃れたが、逃げ遅れた京一郎は泰志にしっかりと右腕を取られる。
「一本置いていくのがけじめってもんじゃないか?」
「どこの部分の一本だよ!てかどんなけじめだよ!お前目がマジ据わってるよ!!」
「何でもいいんですが、そろそろ仕事を始めなくてよろしいのですか?」
呆れたようなイリスの言葉に誰もがハッとした。
それと同時に控え室のドアが開け放たれる。
「ちょっと!!もうご主人様がお帰りになられているわよ!」
出てきたのは妙にけばい化粧と髪を紫色に染めた女性――と判断しようとしたところで思いとどまった。
女性にしては引き締まった身体。
骨格などから総合的に判断すればこの人物は女性では無い。
男だ。
「早くしてよねもう!!」
所謂オネエ系に分類される人物―エスリナたちと同じメイド服着用―はプンプンッと効果音がなりそうな怒り方をする。
泰志のみならずその場にいた全員の背中がゾクリと疼いた。
こいつはヤバイと誰もが悟る。
「店長申し訳ありません!」
「「店長!?」」
京一郎の言葉に泰志と纏の突っ込みがシンクロする。
「謝罪は後になさい!説明は!?」
「一通りは完了しています!」
京一郎はビシッと敬礼する。どこぞの軍隊を思わせる。
「なら早速こっちに来なさい!今日からあなたたちは私の娘よ!きりきり働いてもらうんだから!」
うふっ、とウインクする店長にその場にいた誰もが戦慄をせざるを得ない。
特に娘指名された4人に向けられた熱視線は異常だ。
しかしそんな中―
「いきましょう!」
と、エスリナは度胸があるのか、最早やけくそなのか、はたまたこれから自分がどんな事態に巻き込まれるのかを把握していないのか1人だけ生き生きしている。
「ふっ、あなた粋が良いわね!いいわ!私についてきなさい!」
「精一杯萌えさせていただきます!」
どうやらエスリナは気に入られたようで店長と目線を交わすと、2人仲良く控え室を出て行った。
さっぱりわけが分からない。
残された3人をドナドナの如く送り出すのに、泰志は非常に心苦しい想いだった。




