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第14話

「と言うわけで、君たちにはこれから21時までメイドとしてお客様をお迎えしてもらうことになります」


 既にコックコートに身を包んだ京一郎が泰志を含める数人に向かい言った。


「あ、いやお前は違うぞ。誰もお前のメイド服なんか見たくないから」


「おおそうか、危ない危ない」


 肝を冷やしながら泰志は京一郎の隣に移動する。


「さて、ふざけた野郎については置いておいて。それでは早速業務内容について確認していくわけだが」


 一度コホンと咳払いをして話を再開する。その正面には4人の少女の姿があった。


 淡い青みがかった少女は何か落ち着き無く、わくわくした表情で周囲を物珍しく見回している。


 その隣にいる赤い髪の少女は逆に落ち着き払った淡々とした憮然な態度で直立している。


 更にその隣、少々長身のいかにも活発そうなポニーテールの凛々しい様子の少女は頭の後ろで腕を組み、良くも悪くもくつろいでいる様子だった。


 そしてそのまた隣にいるふわっとしたショートヘアの小柄な少女は、酷くおどおどとした態度でキョロキョロと周囲を警戒する小動物のように見回している。


 その少女の姿に泰志は同情の色を隠せない。


 なんせこの少女―雪代今宵はつい先ほど纏と遊ぶつもりで外出をした結果、そのまま捕獲(拉致)され連れてこられたのだ。とうぜん状況を全く読み込めていない。


 いや、もうこの場にいる時点でこれから自分が何をするかは理解できるだろう。


 何せ泰志たち6人は今メイド喫茶の従業員控え室にいるのだから。


 元々エスリナとイリスを誘おうとした泰志だったが、人がいるに越したことは無いということで近くにいた纏が参戦。


 そしてその纏と週末に遊ぶ約束をしていた今宵を当日無理矢理引き込み、4人のメイド候補が出来上がった。


 当日まで黙っていたことに関して今宵は憤慨したが、


「あんたが異常な暑がりで恥ずかしがり屋なのは分かってるから、前日に言ったらあんた絶対家から出ないでしょ?どうせクーラーがんがん効いてる室内で大好きなアイスばっか喰ってるんでしょ?」


 という纏の言葉で泣き崩れてしまった。


 当日に呼び出されたことのダメージもさることながら、実生活の乱れを暴露された方が相当心に傷を負ったようだ。


 エスリナとは正反対に物静かで落ち着いた存在と言えば聞こえはいいが、単に恥ずかしがり屋な今宵を親友として何とかしようという纏の思いも分からないわけではない。


 少々荒療治な気がしなくも無いが、これがいい方向に効いてくれることを泰志としては祈るばかりだった。


 そしてそれよりも泰志にはお嬢様の方が気になっているのだ。


「と言うことだ。何か質問は?」


 一通りの説明を終えたようで、京一郎は4人をそれぞれ見る。


 すると淡い青みがかった髪を持つ、西洋風の容姿の少女は生真面目そうな顔でビシッと手を上げている。


「はいなんでしょうエスリナさん」


「話の中にあった特別メニューとはどのようなものですか?」


「あぁそうか。その説明はまだしてなかったな」


 危ない危ない、と言って京一郎は近くのテーブルの上にあったメニューを取り、4人に見えるように開いた。


「最後のページにある特別メニューセットは、君たちメイドがお客様に何か特別なことをするシステムだ」


「特別なことって何さ?」


 首をかしげる纏に、京一郎は良くぞ聞いてくれましたと言わんがばかりに笑みを作る。


「それに関しては店側からの指定は何も無い。君たちメイドが何かをするんだよ」


 その発言に4人がピクッと反応した。普段表情を表に出さないイリスまでもが完全にシンクロしている。


「ちょちょちょ、ちょっと待ってください!それってつまり……」


 手を胸の前で揃え、わなわなと震えさせる今宵はとても怯えきった表情を見せる。


「私たちに一発芸でもしろと?」


「イエス!」


 パチンと指を鳴らし、爽やかな笑顔を作る京一郎。


 途端、メニューがその憎たらしい顔面に突き刺さる。


 投げたのはこの中で一番力がある纏だった。


「マジ洒落になんねーぞこれ!?」


 京一郎は衝撃で鼻を真っ赤に染め、目には涙が浮かんでいた。


「いや、みんなの気持ちでも代弁しとこうかなって思って。あとその顔がムカついた」


 ケロッと悪びれも無い纏の言葉に、主に後者の比率の方が大きいだろうなということは泰志にも感じ取れた。


「まぁ私としては別にやっても構わないんだけどね」


「そんな!良くないですよ!」


 あっさり肯定する纏に今宵が食い下がる。


「特別って、何をすればいいか全く」


「今宵の顔で、突然お冷をお客様の顔面にぶっ掛ければそれはそれでおいしいんじゃないの?そこんとこどうなの?」


「アリだな」


「アリなの!?」


 即答する京一郎に今宵は世界の終わりを感じさせる表情をする。


「ツンデレ喫茶なんてメニューを投げつけられるんだ。今宵みたいな幼女体質の子にいきなり水をぶっ掛けられて、上から目線の言葉を加えれば喜ぶ奴なんて寧ろ多い」


「俺の知ってるメイド喫茶とどこかっていうよりは大分違うんだが」


「まぁやる前にそこはかとなく濡れても良いか確認する必要があるだろうが、おおむね大丈夫だろう。この店には客を跪かせてヒールで踏みつけた人だっている」


「最早メイドと言うよりSMの領域じゃないのかそれ」


「メイドさんにやってもらうのが良いんだってよ。常連曰く、ノリノリでやられるより少し戸惑いがちでやられる方が萌えるらしい」


 どうやら1年の間にメイド喫茶はすさまじい進化を遂げたらしい。


 いや退化か。


 どちらにしろ色々変わってしまったようだ。そう思うことにする。


 泰志が知っている知識ではオムレツにハートマークを書いて美味しくなるおまじないをすることぐらいだったが、もうその域などとうに超えていたようだ。


「なるほど萌え、ですか……」


 その時、先ほどまで沈黙していたエスリナが、何か意味深に呟いた。


 その表情はえらく真剣で、まるで超難問に頭を悩ませているようである。


「どうした?」


 心配、というか不安になって問いかける。


「いえ、何でもありません」


 大体そういう返事をする時は何か良からぬことが起きる前兆なのだが。泰志は深く追求はしなかった。というか怖かった。


 その代わり、隣にいるイリスに目配せする。


 泰志の目線に気付いたイリスは一度眼鏡をクイッと上げた。


 厨房に入る泰志にはエスリナのフォローは出来ない。イリスだけが頼りだ。

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