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第11話

「あ、おはよー。エスリナ、夢恋の新刊持って来たよ!」


 泰志たち3人が教室に入るや否や、声をかけられる。教室の中央には机に腰掛けたポニーテールの少女が手を振っていた。


 その姿、そして言葉の意味を理解した瞬間、泰志には隣に立つエスリナのテンションが急上昇したのが見なくても分かった。


「本当ですか!?見せてください!!」


 異様な食い付きを見せ、エスリナは目を輝かせながら荷物を置くことも忘れ、先ほどの少女のもとへと一目散に進む。


 夢恋とはエスリナだけでなく、今最も人気のある少女マンガ「夢に恋して」のことで、特に中高生に爆発的な人気を持っている作品らしい、というのが泰志のにわか知識だった。


 所謂王道の中の王道を突き進む少女マンガで、第一話で食パンをくわえた主人公がイケメンとぶつかるというベッタベタな展開から始まっている。


 しかしそのぶつかること1つ取ってもただの王道ではなく、イケメンが目を光らせ『甘いッ!』、と叫び華麗に避けたかと思うと、足を滑らせUターンした主人公が再度イケメンにぶつかる、というひと工夫(軽くぶっ飛んだ設定)が加えられたものが多く、王道だがベタじゃないという新ジャンルを開拓した作品である。


 もっとも、泰志に言わせてみればただの突っ込みどころ満載の内容でしかないのだが。


 過去にそのことに言及し、エスリナがまさかのガチギレにまで発展したので、もう触らないと心に誓っている。


 しかしながらこの少女マンガ趣味のおかげで、人間の女子とも友好関係を築けたことを思うと、これはこれで良かったのではと前向きに思っている。


 テンションの高いエスリナに呆れた表情をしていると、後ろにいたイリスはそそくさと廊下側の自分の席へと進んで行く。


 イリスは学校に着くなり、口数を減らす。


 別にいつも口を開いている、というタイプではないのだが、学校では常に寡黙キャラで通している。


 イリス、これはエスリナもそうなのだが魔族である彼らは基本的に日光が苦手な傾向がある。


 妖怪や悪魔などに代表される彼らにとってそれは当然の体質であり、ここ2ヶ月の生活である程度は改善しているものの、未だに日中のけだるさについては気合いによる部分が大きい。


 しかし日中のけだるさについては人界に現界した当初、泰志にも似たような症状が引き起こった。


 おそらくいくら耐性を持っていても毒は毒であり、魔界の瘴気の過剰摂取によることだと自身で結論付けた。


 そしてエスリナに関しては、ヴァンパイア特有の日光に当たると皮膚が焼けるという致命的な弱点が存在している。


 人界に来た季節が新年度の始めの時期だったこともあり、夏に近づくにつれて日差しが強くなる現状、エスリナは外出の際に日傘が必須になっていた。


 とはいえ外見の時点で病弱そうな印象を与えるエスリナなので、そこは元々肌が弱く日光に弱いという、逆に本当のことを告げて回避するにいたった。


 そして悲しきかな、容姿が優れているという点も特に怪しまれない要因の1つになっている。


 薄幸の美少女といえば聞こえが良いが、本人は虚弱のくせに好奇心旺盛で目を離すと直ぐにどこかにいってしまうというトラブルメーカーだ。


結局、泰志とイリスが幾度と無くフォローに回ることで難を防いでいる状況なのだ。


 そのような経緯もあり、本来ランダムで行われる席替えの際には、この二人は公式で日の当たらない廊下側の席に固定という待遇を受けている。


 これに関しても、席が近いほうがエスリナのカバーをしやすいという別の意味も込められていたりする。


 だがそれよりもガウェインの鶴の一声でまさかの一クラスに全員を転入させる事態には泰志も唖然としてしまった。


 泰志たちが通うことになった私立栄凌学園は所謂マンモス校と言われ、1500人の生徒が通っており、敷地内にはコンビニやカフェ、小さなショッピングモールなども設置され、一種の町と化している。


 その中でクラスは完全に学力の高さによって分けられており、本来ならば学業に関する人界の知識が一切存在しないエスリナとイリスが特に成績が悪いというわけでもない泰志と同じクラスになるなどあるわけが無いのだが、そこはまた大人の事情というわけだ。


 もっとも、学力が中の中というこのクラスは他に比べ転校生が数人出たため生徒の人数が少なかったという状況があったから、というちゃんとした理由も存在してはいるが。


 ともあれ人間という社会集団を知る分には様々な人間と触れ合える栄凌学園は絶好の試験場であり、2ヶ月生活した限りでは特に目立った事件が起きたということはなく、ただただ平穏な毎日が過ぎ去っていった。


 勉強して、友達と遊んで、飯を食べて寝る。


 普通の、なんのおかしいところも無い学生の生活である。


 実のところこの生活に一番驚いているのは泰志だったりする。


 今まで魔族と生きるか死ぬかという戦いを繰り返してきた泰志にとって、普通の日常とはあるようでなかった。


 学校には通っていたがそれは学校に潜伏している魔族の摘発、という退魔師としての仕事であったところが大きい。


 人界に住んでいる魔族には簡単に二つの種類が存在する。


 それは自分が魔族であることを隠し、人間として生活している者と、決して表に出ることはなく、魔族として影で生活を送っている者の2つである。


 今のエスリナたちが前者に分類され、こちらは表で活動することによるリスクも大きい。


 その反面学生時代に隠し通せるということは、十分な社会性を身についてるということであり、社会に出てからは退魔師としても対応を取り難くなるというメリットが存在する。


 そのため退魔師は学生時代に多くの学校を渡り歩き、魔族が人間と偽って生活を送っていないか、見回っている。


 故に泰志も学校には通っていたものの、部活動に精を出すわけでもなく、常に校舎をブラブラしながら魔族の気配を探るという神経を使う仕事をしていた。


 エスリナたちに威張れるほど学校での思い出というものをあまり持っていなかったりする。


 だからこそ、何の変哲も無いこの生活は泰志にとっても新鮮であり、調子が狂うとまではいかないが少しむずかゆい感じがしてならなかった。

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