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第10話

 魔界での一件から既に3ヶ月の時が経っていた。


 イリスから人界留学の話を聞いた泰志は、しばらくして意識を取り戻したエスリナを交え詳しい話を聞くことになった。


 まず泰志が疑問に思ったのが、どうやって結界を突破するかであった。


 魔界側の入り口を守護する泰志がいなくなったからと言っても、人界側には修復のために24時間体制で退魔師が傍にいる。


 何の策もなければ人界に降り立った瞬間に戦争が始まってしまう。流石にいきなりラスボスである存在とのいざこざは避けるべきだった。


 するとこれに対し、当然とも言うべきかイリスはすでに策を練っていた。それは人界で生活している同胞に深夜騒ぎを起こしてもらい、暗闇に紛れて現界するというものだった。そしてその同胞を頼りに生活の拠点を築く、と。


 人界で生活している魔族がいる、このことに泰志は特に驚くことがなかった。


 そもそも人界に魔族がいないのであれば結界が機能しており新たに魔族が増えることが無い現状、退魔師という役職は意味を成さない。


 50年に一度の大修復はいわば特殊な仕事であり、退魔師の仕事の大半は人界の魔族、古くから知られている妖怪などの浄化任務である。


 つまり人界で生活を行っている魔族がいることが前提で退魔師は存在している。泰志自身も人界で魔族と戦った経験を持ち、その状況は理解が出来た。


 それよりも泰志を驚かせたのは人界にいる魔族への連絡方法だった。


 イリスの口ぶりは、既に相手側の了承が得られていることが前提で行われており、そこに泰志が突っ込みを入れると「数年前から使い魔のコウモリを使って連絡を取っている」との返答が帰ってきた。


 つまり泰志があれだけ必死に結界を守っていたにもかかわらず、ほんの微量の魔力のコウモリならその結界を突破する事が出来るのだという。


 大胆にも結界を突破されていたその事実に、数秒唖然としてしまう。


 そして更に泰志は人界で生活を行っていた魔族の認識を改めざるを得なかった。


 まさか戸籍を改ざんするほど社会的権力を持った人物が、実は魔族だとは夢にも思わなかったからだ。


 その人物、名をガウェイン・ストラゴスという人浪は、有名な資産家として人間社会に十分すぎるほど馴染んでいた。


 ガウェインの助けで人界に降り立った3人は、ガウェインが用意したマンションの一室で寝泊りすることになった。


 そしてこれまたガウェインの一声により、在籍する高校まで決まってしまう。どうやら大口のスポンサーらしく、高校側も断るに断れない状況だったようだ。


 世の中こんなことで良いのかと不安を感じたが、ガウェインを保証人とすれば殆ど障害なく物事を円滑に進められたので、感謝するべきところなのだと泰志は自分に言い聞かせた。


 人界での生活は困難を極めると予想していた。それも人界は魔界で常識的な魔術と言うものが一般的でなく、圧倒的に科学文明が進んでおりエスリナたちはいわば戦国時代の人物が現代にタイムスリップしたのと同じ状況と言えた。


 様々なことを説明する必要がある、と気が重くなった泰志だが、そんな泰志の荷は意外なことで軽くなった。


 これは退魔師である泰志でさえ知らなかったことだが、魔界にはまれに人界のものが流れ着く、という自体が起こっていたということだ。所謂神隠し(物質)である。


 では魔界の文明もそれなりに発展しているべきでは、というところなのだが、そこが悲しいことに魔族は人間が生み出した文明の利器を使用するという考えを持たなかった。


 そしてその流れ着いた物の回収を行っていたのが、魔族を統括していた3種族のうちの1つでヴァンパイアの王族のシンクレア家であり、魔界でも変わり者として有名だったニルフェリニーナ・シンクレア、エスリナの母親であった。


 そして娘であるエスリナもその影響を存分に受け育った、いや受けすぎて育ってしまったがために、魔族間では異端の親人家として幼い頃から人界での生活に憧れを抱いていた。


 エスリナは人界留学の考えを持って以来、独自に人界の機器についてその性能を調べ、研究を行っていた。

 

 しかしながら泰志もシンクレア城にある人界の代物を拝見したのだが、残念なことに電気が無い魔界では電化製品は全滅であった。


 故に炊飯器が使えないのも仕方が無いこと、ということで割り切るしかなかった。


 それでも見たことがある、というのは理解のうえで非常に助かるものであり、使用方法はザルでも、何に使うものかは直ぐに理解はしていた。


 そしてまことに残念なことに、エスリナがもっとも興味が持った人間の文化が、少女マンガであった。

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