第6話:「影の奉行VSお奉行様」
空中商店街に現れた“もう一人の奉行”――。
影に潜み、密かに裁きを下すその正体とは何者か?
むむ、これは見過ごせぬ……さて、今宵も裁きを下すとするか!
プロローグ
空中商店街に奇妙な噂が流れ始めた。
「最近、夜になると“もう一人の奉行”が現れるらしい」
ある者はこう言う。
「夜中に商店街の隅で、法衣を着た影が悪党を裁いていた」
またある者はこう証言する。
「違法な商売をしていた奴が、真夜中に白い面をつけた男に追い詰められたんや」
そして、決定的だったのは——
「その影が名乗った名前や。“この世に正義をもたらす、真の奉行”……やて」
「……なに?」
お奉行様は煙管を吹かしながら目を細めた。
「つまり、ワシの名を騙る者が現れたということか……?」
第一幕:「夜の裁き人」
最近、商店街の裏通りでは不思議な事件が多発していた。
詐欺まがいの商売をしていた行商人が、突然怯えた様子で姿を消す。
賄賂を受け取っていた役人が、ある日「すべてを自白する」と言い出す。
さらには、大和都市開発の関係者までもが不可解な辞職をしていた。
「お奉行様、これはワシらにとってええことなんちゃいます?」
藤田親方が言う。
「商店街を狙っとった悪い奴らが次々に消えていってるんやで?」
「むぅ……そう簡単な話ではなさそうじゃの」
お奉行様は顎を撫でる。
「裁きというものは、表に出て正しく行うからこそ意味がある。影で誰かが密かに処断を下すようなことになれば……やがて、秩序は崩れる」
その時——
「お奉行様! 大変や!」
駆け込んできたのは、喫茶店「リーガル・カフェ」の店主、河合さちえだった。
「さちえ、どうした?」
「昨夜、商店街の裏通りで『影の奉行』が、ある商人を取り締まっていたんだけど……その後、商人が行方不明になったのよ!」
「なに……?」
「しかも、目撃者の話じゃ、『影の奉行』はお奉行様そっくりの姿をしていたらしいの!」
お奉行様の眉がピクリと動く。
「ワシそっくり……? ますます妙じゃのう」
第二幕:「影の正体を暴け!」
お奉行様は霊たちに命じ、夜の商店街を見張らせた。
「今夜こそ、“影の奉行”の正体を暴くぞ!」
そして——深夜。
ヒュゥゥゥ……
夜風が吹き抜ける商店街の裏通りに、黒い影が現れた。
その姿は、確かにお奉行様そっくりだった。
法衣をまとい、腰には扇子を差し、そして、顔には白い能面のような仮面をつけている。
「悪を裁くは、我が使命……」
静かにそう呟く影。
「ほう、見事な口上よのう」
お奉行様が姿を現す。
「しかし、その名乗り、ワシにそっくりじゃな?」
影の奉行はゆっくりと顔を上げた。
「お前こそ偽者だ」
「なに……?」
「お前は商店街を守ると言いながら、悪を生かしている。ワシこそが、本当の裁きを与える者……真の奉行なのだ」
お奉行様は扇子を広げた。
「ふむ、では尋ねよう。“真の奉行”よ。そなたはどのような裁きを下すのじゃ?」
影はゆっくりと答えた。
「悪を根絶やしにする……ただそれだけだ」
「ふむ……つまり、そなたの裁きに情けはないということか?」
「裁きに情など不要……悪は、消すのみ」
「……なるほどのう」
お奉行様は目を閉じ、一つ深く息を吸った。
「では、ワシがそなたに裁きを下そう」
「幽霊裁判、開廷じゃ!」
第三幕:「幽霊裁判VS影の奉行!」
幽霊たちが現れ、商店街の路地が裁判所へと変貌する。
「被告、“影の奉行”! そなたは、この商店街の秩序を乱す存在なり!」
「ふん、くだらぬ……お前こそ、甘すぎるのだ!」
「では尋ねる。“裁き”とは何か?」
「悪を裁くこと……ただそれだけだ」
「ふむ……では、“裁かれる側”の声は聞かぬのか?」
「聞く必要などない。悪は悪だ」
お奉行様は静かに目を細めた。
「そなたの言葉……かつてのワシと同じじゃのう」
「……なに?」
「ワシもかつては、悪を憎み、裁きのみを信じておった。しかしな……」
お奉行様は商店街の住人たちを見渡す。
「ワシは、この商店街で“人と人とのつながり”を学んだ」
「……?」
「裁きとは、悪を罰することにあらず。裁きとは、人が道を誤らぬよう導くことじゃ」
影の奉行の手が震えた。
「そんな……甘い……」
「甘くとも、それが“本当の奉行”よ」
お奉行様は扇子を振り上げ、最後の裁きを下す。
「影の奉行! そなたの裁きは、ただの独善! よって、この世に必要なし!」
バァァァァン!!
白い仮面が砕け、影の奉行の姿が薄れていく——
「……我が道が……否定されるとは……」
「さらば、もう一人のワシよ」
影は静かに消え去り、商店街には再び静寂が戻った。
エピローグ:「真の奉行とは?」
事件が解決し、商店街は再び平和を取り戻す。
藤田親方が苦笑しながら言った。
「お奉行様……あんた、ほんまにすごい人やな」
「むぅ……ワシもまだまだ学びの途中じゃ」
「せやけど、結局“影の奉行”って何者やったんや?」
お奉行様は少し遠くを見つめながら呟いた。
「それは……過去のワシ自身だったのかもしれぬのう」
ノコギリ仙人が笑う。
「お主も、ずいぶん丸くなったのぉ」
「ふむ……それも商店街のおかげかもしれぬの」
こうして、今日もお奉行様は空中商店街を見守る。
次なる事件に備えて——。
次回:「空中商店街最大の裁判」へ続く!