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第四回 大仁田の変身

用語解説


『戦闘不能状態』死亡の前段階。生命力がゼロになってもすぐは死亡せずに戦闘不能状態になる。ただし、治療をしなければ死亡状態に移行する。


『ホワイト禁呪』使い勝手が悪く、パーティプレーの場合は使わないで欲しいの意味から禁呪と呼ばれている。魔法の種別ではない

 先へ進むとスケルトンやら呪いの人形がわらわらと出てくる。さして強くはないが数で押されると、新人は押し負ける。時任は『腐毒の沼』の魔法で対処した。


『腐毒の沼』は上を通過した物は動きが緩慢になり持続ダメージを受ける。人間や動物なら痛覚があるので驚いて、避けるか、逃げる。


 スケルトンや呪いの人形には痛覚がないので直進してくる。数がいても通路の幅には限度があるので広がっても避けられない。『腐毒の沼』をきちんと設置できればノーダメージで倒せる。


 見栄えは良くないが確実な戦い方だった。普段はお客に活躍させるために使わない。ただ、大仁田は見栄えの良い戦いに固執しないので、問題ないとの判断だった。


 大仁田は黙って見学しているが、不満が溜まっていては困るので尋ねる。

「地味な戦い方ですが、もっと景気よく戦ったほうがいいですか?」


 不愛想な顔で大仁田が回答する

「いいよ別に、儂が手を出すまでもないようだし」


 不満はないように見えるが、楽しんでもいない。これでは仕事に失敗する。とりあえず、ボスのいる祭壇がある部屋の前まで辿り着いた。


 ボスのいる部屋の扉は閉まっていた。先に誰かが入っている。ボスが勝つかプレーヤーが勝つかすれば無理せず扉は開く。


「誰かが戦っていますね。少し待つかもしれません」

「無理に開けられないのかね」


 実はボス部屋の扉は高度な魔術なら開けられる、破壊もできる。だが、後から来た人間が乱入するのは誤解を生む。時任たちに害意がなくても、乱入されたほうは敵意ありと見なすかもしれない。


 宝を横取りされるのを嫌がって、時任を攻撃してくれば応戦せざるをえない。結果、先に入っていたチームを戦闘不能にすれば恨まれる。


 また、大仁田が弱ったボスを倒して、宝がほしいと言いだせば、必ず揉める。

「横槍を入れるのは止めましょう。先に入っている人が嫌がりますよ」


「いいから、開けられるのなら開けて」


 まさか俺に手を汚させて宝を独占する気か? 世の中には意地悪な人間がいる。また、現実世界では善良だが、ゲームとなった途端にやるなら今とばかりに悪に走るプレーヤーもいる。


 大仁田が我儘おじさんだとしても、時任は従うしかない。ここで、マナーを説いても無駄だ。性根が腐った人間なら他の人間を連れて同じことをする。


 時任なら乱入してもプレーヤーを殺さずに強制的に街まで飛ばせる。怒ったプレーヤーには後で詫びを入れて補償を渡す対応もできる。ならば、大仁田の手先になったほうが良い。


「開けますね。ただ、開いている時間は短いので入るのなら俺に続いてすぐに入ってください」

「早くしたまえ」と大仁田は苛々した顔で命令した。


 ニルヴァには禁呪と呼ばれる魔法がある。禁呪はブラックとホワイトに分かれる。ホワイトの禁呪は別段オドロオドロしい魔法ではない。


 修得がやたら面倒くさい、マナ消費が馬鹿のように多い、反動が存在する等、使い勝手が悪いため禁呪と呼ばれている。意味合い的にはポンポン使うと行き詰まるのでチームプレイでは禁止としたい魔法だ。


 時任の覚えているホワイトの禁呪『著しい停滞』の効果は術者を中心に半径三mの全ての魔法の機能を停止させる。マナ消費量は大きく七秒で時任のマナは底を突く。


 効果終了後に効果時間の三倍の時間は時任のマナが回復しなくなる反動がある。魔法も使えなくなる。『著しい停滞』の再使用は日を跨がないとダメという使い勝手の悪さである。


 時任はオーブを手に『著しい停滞』を使用した。発動と同時に扉を開けて中に躍り込む。大仁田が入ったのを確認できたので、魔法の効果を即座に切った。


 大仁田が素早く動いてくれたので、使用時間は五秒。二秒余ったのでマナは残ったが、反動で十五秒は魔法が使えない。


 部屋の中では予想通りに他のチームが戦っていた。だが、五人中四人が倒れており全滅寸前だった。倒れているのが子供だったのが気になった。


 ニルヴァに魅入られた子供は三回死んでもゲームを止めない。結果、禁断の四回目の死を迎える。


 敵は一人しかいない。モルルン霊廟一階ボスは偽モルルンだが、目の前にいるのは違った。相手は雄羊の髑髏を被った巨人。肌は黒く、心臓の位置に虚空が広がっている。


 マモンと呼ばれるモンスターに似ているが、モルルン霊廟には出現した記録がない魔物だ。


 最後に残っていた子供の首を掴んでマモンが持ち上げる。止めないと、子供が殺される。だが、まだ時任が魔法を使えるまで七秒ある。見捨てたくないが、魔法が使えない古代魔術師が飛び込めば自殺行為だ。


 大仁田がさっと駆けだした。短い距離を野生動物のようなスピードで詰める。マモンは子供に止めを刺すのを中断した。大仁田に向かって子供を投げ飛ばした。


 大仁田は迷わず子供を避けた。大仁田の回避行動によってできた死角にマモンが移動していた。子供を避けた大仁田からはマモンが急に現れたように見える。


「まずい、大仁田が攻撃を受ける」と焦った。

マモンの振り上げた拳が大仁田にむかう。大仁田は六尺棒で受けようとする。


「ダメダ、破壊される」


 時任の声もむなしく、マモンの一撃が六尺棒をバラバラにする。勢い余ったマモンの一撃を受けた大仁田は真っ二つに裂けた。時任は目を大きく開いて直視した。


 おかしい。打撃で裂けるのは有り得ない。砕けた六社棒の棒の部分がマモンに付着する。マモンは両腕を体に密着させた状態で身動きがとれなくなっていた。


 大仁田の武器は六尺棒ではなかった。五つの棒の部分と間を繋ぐ細い鋼線で繋がれた武器だった。変形五節棍と呼べた。鋼線がマモンを捉えている。


 マモンの上から少女が降って来た。少女は赤い布の服を着て、短い黒髪をしていた。少女はマモンの頭にある角を掴んだ。少女は足を伸ばして体をマモンの上で回転させた。


 大きな力がマモンの首にかかる。ゴキッと音を立ててマモンの首があらぬ方向に曲がった。マモンが力尽きて倒れた。


 何が起きたかすぐにわからないが、大仁田の中から現れた少女が大仁田の本体で、マモンに止めを刺したと考えるしかなかった。


 少女が時任に命令する。

「子供たちを強制的に街に飛ばして」


 時間経過により時任は魔法が使えるようになっていた。マナが少々足りないので、マナポーションを服用する。


 色々と聞きたいところだが、子供たちがいると面倒だ。また、大仁田の中から出てきた少女が依頼人なら従わないわけにはいかない。


 時任が『強制排除』を唱える。『強制排除』に抵抗した子供がいた。理由はわからないが、かなり強い抵抗力があったので、飛ばせない。全滅寸前の状態で現場に残ろうとする子供から敵意を感じた。


 抵抗して残った子供はさっと飛び起きる。残った子供はほぼ無傷だと確信した。倒れていたのは偽装だ。子供が短剣を抜いて少女に飛び掛かった。


 少女は強く地面を踏む。次いで手加減なしで、掌底を子供の胸に叩き込んだ。


 子供が後ろに飛ばされた。威力的に見て悶絶必至。だが、時任の魔法に抗いきったので、油断は禁物。時任は『拘束の鎖』魔法を唱えた。吹っ飛んだ子供が姿勢を立て直したところで魔法は完成。


 少女にも子供にも色々と聞かねばならない。子供は光り爆発した。自爆だった。距離があるので時任は無傷。少女も無傷だと予想した。光と音が止んだ時、ボス部屋に子供も少女もいなかった。

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