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第三十三回 預言者の試練

 数日後に預言者からのメールが届いた。面会指定場所は『逢魔の祭壇』だった。『逢魔の祭壇』は封印の書を使い魔物を呼び出して戦う場所だった。


「会って話をするだけなら街中でいい。これは出向いたら戦わされるな」


『逢魔の祭壇』で呼び出せる魔物の種類は多い。召喚した魔物を倒して褒賞を得るコンテンツなので、出てくる魔物はボスモンスター級であり、強さもピンから限である。


 時任くらいになればボスモンスター級でも弱ければ一人で勝てる。されど、最強クラスが出てくれば敗北は必至である。


「まさか俺を殺そうとしているのか?」


『逢魔の祭壇』で死ぬとする。ゲーム上のよくある死に見せての犯行が可能だ。記録にもプレーヤーにより殺されたとはならない。無謀な戦いに挑んで死んだとなる。


 預言者の実力はわからない。だが、ニルヴァ内で自由に活動し、なおかつ真相の一端を知る人間が弱いとは考え辛い。


 時任は戦闘になってもいいように備えて『逢魔の祭壇』に赴いた。


『逢魔の祭壇』は円柱状の部屋である。広さは半径が五十mで高さも五十mとかなり広い。巨大な魔物が出るので広すぎるとは言えない。


 部屋に灰色のローブを着て、仮面を付けた人物が先に待っていた。魔術職かと思うが武器が大鎌だった。時任は相手の装備の詳細を知っていた。


 体装備は調停者の、ローブ、ボトム、靴。武器は冥府の大鎌。どの装備も価格は高めだがオークションで常時出品されている品だった。


 調停者装備は防御力が低いが状態異常に対して有効な装備である。また、防具を三部位に装備すれば確率で状態異常の解除が自動で発動する。


 武器種としての大鎌は扱いが難しい。タメの回転斬り以外は威力も高くない。硬い敵だとダメージがほぼ出ない。


 ただ、冥府の大鎌には特殊効果の、死の刻印がある。冥府の大鎌は弱いが当たれば固定ダメージが発生する。


 装備から推測すると明らかに特定の魔物と戦う事態を想定した装備だ。時任を倒すための装備ではないと思うが、安心はしない。


 預言者から透き通るような女性の声がした。

「貴方が時任さんですね。魔物を召喚するので私を守って戦ってください。魔物を倒せたら渡す物があります」


 あまり良い気がしなかったので心の中でぼやく。

「最近は知り合う女性が俺に災難を運んでくるんだよな」


 時任の返事を聞かず預言者は祭壇で召喚のスクロールを使用した。部屋の扉が消え、部屋が閉鎖される。預言者は目的を教えてくれなかった。


 時任の腕前を知りたい。魔物との戦闘による死亡に見せかけて始末したい。もっと単純に魔物を倒して報酬や素材がほしい。


 どれかわからないが、やるしかない。タダで戦わされた上に手ぶらで帰れとはならないだろう。


 祭壇の上に魔物が登場した。魔物は装飾が施された三mの高さにもなる陶器の棺の形をしていた。棺の蓋には女性の像が彫られており、周りを八つ赤い薔薇の蕾が囲んでいる。


『逢魔の祭壇』から出現したので魔物であるが、見た記憶がない魔物だ。


「あれは黄泉です」と預言者が教えてくれた。魔物の名前は黄泉とわかったが、魔物の攻撃方法と有効な攻撃法はサッパリわからない。


 魔物からは攻撃してこない。預言者も攻撃しない。

 なんだ? と不思議に思っていると預言者が時任に「どうぞ」と促す。


 武器が大鎌だからてっきり預言者が接近戦をして時任が補助する役だと思ったが違った。

「ならいきなり始めるなよ」と悪態を吐きたい。この後に時任がお願いする側になるのだから、言葉を飲み込む。


『魔力の破片』の魔法を唱える。時任の周りに四十八個の割れたガラスのような破片が現れる。『魔力の破片』はマナ消費が少なく連射できる。ただ、ダメージは微弱である。


 普段なら使わない魔法だった。黄泉が動かないならと、いきなり強い魔法を使ったとする。反射されて死にました、では馬鹿もいいとこだ。


 破片を飛ばすが黄泉は避けない。破片は黄泉に当たる寸前で砕けた。まず一つわかった。黄泉は魔法を打ち消す。どこまで打ち消すかわからないが弱い魔法ではダメージにならない。


 攻撃を受けた黄泉が時任の方を向いた。棺の表面にあった薔薇の蕾が一つ開花した。時任はさっと移動する。時任のいた地面から鞭のような茨が上に飛び出した。動かなければ当たっていた。

 

 茨のダメージは対したことがなさそうだが、当たれば拘束される。茨の棘には持続ダメージがあると見て良い。


「二人しかいない状況で二人とも拘束されたら一気にピンチだな」


 預言者を見るが預言者は動いていない。理由は不明だった。


『火球』の魔法の詠唱を時任は開始する。詠唱中にも地面から茨が襲ってきた。移動しながらの詠唱になる。


 魔法が完成して火の弾が黄泉に飛ぶ。今度は命中して爆発する。炎の中から現れた黄泉は無傷だった。


「中程度の威力の魔法では打ち消されないが、魔法による抵抗値が高いのかほぼ無傷だな」


 棺の薔薇がまた一つ開花した。今度は時任のいた地面の下から二本の茨が出現した。


 黄泉は攻撃を受けると棺の薔薇が開花する。開花するたびに地面から出現する茨が増えて攻撃の手数を増やしてくる。


 地面から出現する茨が一本や二本なら問題ない。だが、八本が生まれて時任に集中して向かってくると厄介だ。移動しながらの詠唱も困難になる。ここで疑問が湧く。


『逢魔の祭壇』は同時に八人まで入場できるコンテンツだ。黄泉を攻略したいなら八人で挑むのが確実。


「なんで預言者は二人で戦う選択をした。また、明らかに状態異常対策をしている理由が不明だ」


 時任は戦法を変えた。『跳躍』の魔法でジャンプ力を増す。跳ねながらオーブで攻撃をする。黄泉は出現地点から移動しないので狙うのは楽だった。オーブから出た光線が黄泉に当たった。


 黄泉の棺がパラパラと欠けた。オーブによる攻撃はダメージが入った。古代魔術師なら魔法攻撃よりオーブで押したほうがよい。予想通りに三つ目の蕾が開花する。地面から出現する茨が三本に増える。


 地面から茨が出るが、出現時には時任は跳んでいる。跳ねながら戦うなら、茨に捕まることはない。

「攻略はじわじわ進んでいる。だが、このままでは終わらないんだろうな」


 攻撃を受けた黄泉の体の色が変化しだす。赤、青、黄色、紫、黒と変わるが特段に黄泉からの攻撃に変化はない。


「攻撃に変化がないなら、防御に変化があるな。黄泉は受けるダメージが一定量を超えると耐性や弱点が変わるタイプか」


 オーブの攻撃は弱いが万能性がある。どの種の攻撃に耐性が付こうが、オーブならちまちまとダメージが入る。


 黄泉と戦うのに古代魔術師は向いている。古代魔術師が八人で跳ねて戦えば楽だ。


 預言者は相変わらず一歩も動かない。ただのMMOなら中の人が寝てるのではないかと疑うところだ。

「寝ててもいいけどね、着実に進んでいるから」


 八つの薔薇が全て開花した。地面から出る茨が八本でも変わらない。地味な戦いが続く。黄泉の体は少しずつひび割れていく。自動回復はしていない。


 ダメージが低いのか『跳躍』を用いた戦闘が長丁場になる。『跳躍』の魔法の効果時間が切れる。魔法の掛け直しで跳べなくなるタイミングで上着のポケットから『絶界玉』を出す。


 使用すると球が光り時任は透明になった。『絶界玉』の効果時間は八秒。この間は時任から魔物を攻撃できないが、魔物からも感知されなくなり攻撃を受けない。


 時任は再び『跳躍』を掛け直す。フィールドに預言者が一人残っているが、預言者は攻撃されることはない。


「黄泉の攻撃対象は黄泉を攻撃した者に限られる。預言者は黄泉と戦うのは初めてではない。または事前に攻略情報を持っている。なら、事前に教えてほしいものだ」


 時任の姿が現れたところで戦いは再開する。飛び跳ねて光線を当てる地味な戦いが続く。そろそろ三回目の『跳躍』を使おうかと思うが、異変が起きた。


 茨が出現せず、地面から家の柱にもなりそうなでかい薔薇が出現する。薔薇が一斉に伸び開花する。花から大量の花粉が噴き出した。

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