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第三十回 あいつがやってきた(下)

 時任は重要な疑惑を胸に尋ねた。

「ここに来る前に、中年の付与魔術師と女性の騎士と会いましたか?」


「魔物に襲われていたから助けたわ。一人が戦闘不能状態になっていたから街に帰って行ったわよ」


 状況から見て、転移系で脱出は有り得る。社長とエレナが魔物に襲われた確証はない。犯人は目の前にいる大仁田たちかもしれない。同様にエレナの証言を疑う証拠もない。


 大仁田は優雅かつ恩着せがましく語る。

「礼ならいらないわよ。困った時はお互い様だもの」


 ハッキリと頼まないが、今度は時任が助ける番だと暗に主張している。


 時任が答えないと、大仁田がスッと肉塊を指さす。


「本当は時任のお仲間を治療してあげたかったけど、私たちも危険地帯に行くから余裕がなかったのよ。予想以上に苦戦して仲間はいなくなったわ」


 現時点で時任は帰っても収支はプラスである。社長とエレナがどこに消えたかはわからないが、探せるところは捜索した。帰っても言い訳はできる。されど、それでは肝心なお宝は手に入らない。


「番人を倒せたら報酬を二人で山分けするならいいですよ」


 二人でと釘を刺した。後で死亡した仲間の分を大仁田から要求されないための布石だった。


 大仁田の決断は速かった

「交渉成立ね。報酬は二等分で行きましょう」


 部屋の北側に大仁田は移動し、軽く六尺棒で叩くと隠し扉が現れた。隠し扉の向こうは大きな立方体の部屋だった。一辺はざっと二十五mはあると時任は見積もった。


 部屋の中央に闇が集まり灰色のローブを纏った男が現れる。


「我が名は……」と男は言いかけた時には大仁田が殴りかかっていた。大仁田の武器は前回、六尺棒に見せかけた変形六節棍だった。今回は変形しないので本当の六尺棒と見える。


「なんか重要な情報とか教えてくれるかもしれないのに気が早い」と時任は苦く思ったが戦闘は始まった。


 叩き割り、足払い、胴薙ぎ、突き、次々と攻撃を大仁田は攻撃を繰り出す。魔術職なら避けきれないほどの攻撃を男は見切っていた。


「これは大仁田が倒れたら負け確定だな」

『鈍足』の魔法で男を動きに制限を掛けようとしたが効かない。


「魔術職らしく魔法に強いな。ならば」

『加重』の魔法で男の装備を重くする。こちらは効果を現した。


「色々と工夫して支援すればどうにかなるか」


 突如、男のローブが内側から弾けた。男は大きくなり翼を持つミノタウロスに変身した。普通のミノタウロスなら身長は三mを超えない。だが、男の身長は四m弱あった。


「こちらは飛行形態ミノタウロス改だな」


 ミノタウロスが魔法を唱えだす。『魔法剣』を出そうとしていたので、『魔法解除』で対抗する。ミノタウロスに手に魔法剣が出現したが、振るう前に時任が消した。


 ミノタウロスの魔法の腕前は中々のものだが、魔法の腕比べなら負けない。


 時任は古代魔術師なのでマナ切れにも簡単にならない。

「問題は大仁田の攻撃しだいか」


 能力なりスキルなりで身体強化している大仁田は簡単には押し切れない。ダメージを与えられないとスタミナ切れを免れない。


 男の変身後のなりをみればかなりのスタミナがありそうなので、持久戦は不利。


 大仁田が急に後ろに飛び退く。ミノタウロスから危険な攻撃が出たわけではない。大仁田は六尺棒の底でトントンと軽く地面を打った。六尺棒の先端が緑にぼんやり光る。


「毒だな。しかも、かなり強烈なやつだ」

 大仁田の攻撃において突きの頻度が増した。時任は大仁田の戦法が読めた。


 時任はミノタウロスの唱える魔法をことごとく潰しにいった。

「何もさせない」


 攻撃魔法、強化魔法、支援魔法、幻覚魔法、召喚魔法、ミノタウロスが使おうとする魔法を全て対抗する魔法で時任は消してゆく。攻撃は大仁田に任せた。


 しっかりと腰が入った重い攻撃を大仁田はしない。撫でるような威力になっても速さ重視で繰り出す。鎧を付けない男の体に毒を刷り込むような戦いだった。


 毒が効かないのなら、作戦は無意味だが、大仁田には勝算があると見えた。


 観客がいたら「卑怯だぞ、ちゃんと戦え」とブーイングが飛ぶ。下手したら物まで投げてくる戦いを大仁田は迷わずやった。


 大仁田の顔を見ると笑っている。楽しんでいる顔だった。

「大仁田は動きを変えた。トリッキーで速すぎる。俺なら態勢を立て直すために上に逃げるかな」


『反転する力場』をいつでも唱えられるように準備しておいた。時任の予想通りに男は上空に逃げようとする。


 読みが当たったのですぐに『反転する力場』で重力の向きを変えて男を落とした。男は姿勢が崩れたので地面に前のめりに落下した。


「これはまずいな」と時任は案じた。大仁田の目の前に男の牛の頭がある。頭を叩いて脳震盪を起こさせれば殴り放題になる、と大仁田が考えたら危険である。


 男が頭や骨格を強化していないわけがない。チャンスと思って油断して、強烈な反撃をもらえば形勢は覆る。大仁田の防具は軽く柔らかい。


 男からの一発が致命傷になりかねない。時任には回復手段がないので大仁田は脱落する。


 時任はフォローを考えたが、不要だった。大仁田は倒れた男の頭を殴らず、素早くコツコツと叩き続ける。


「単なる嫌な奴じゃない。徹底した嫌な奴だ」


 馬鹿にしたような攻撃ではある。だが、毒を重複して与える点からみれば理に適っている。やるなら徹底的にだ。男が起き上がるタイミングで大仁田は離れた。


 大仁田は再度、六尺棒の底を地面で撃つ。


 時任は冷静に分析していた。

「毒が切れると、ああやって先端に補充するのか。毒を重視して戦うなら隙が生まれる瞬間が存在する」


 大仁田に弱点があるなら知っておかねば危険だ。番人を倒したら「次はお前だ」がある。


 大仁田の打ち込みが再開される。時任はミノタウロスの魔法の妨害を続ける。


 終焉は唐突に訪れた。ミノタウロスにそろえますが倒れて痙攣しだす。戦闘中に苦しんでいた様子はない。動きも遅くならなかった。


 時任は静かに考察していた

「毒は一定量に達すると急死するタイプの毒か。あとどれくらいで死ぬのかわからないとはなんとも嫌らしい毒だ」


 派手な戦いではなかった。だが、最良の勝利であったことは間違いない。大仁田も死なず、時任も生き残った。ここで、大仁田が時任を殺しにくれば大仁田の一人勝ちだが、そうはさせない。


 大仁田が一息を吐いてから時任を褒めた。

「誘って正解だったわ。私は魔法攻撃には弱いから」


 嘘かもしれない。だが、あえて魔法に弱いと発言したのには理由がある。時任にも大仁田を倒す可能性があることを示唆したともいえる。私からは襲わないとの意思表示とも取れる。


 大仁田には本当に宝物を折半する気があるのかもしれない。

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