第二十七回 あいつがまた来た
ダンジョンを進んで行く。途中で赤蟻三体が出てきた。エレナを戦闘に陣形を△に組む。エレナは赤蟻の全てを引き付けた。その間に時任と社長の魔法で後方から攻撃して倒した。
前に立つ近接職がいると戦いは安定する。エレナはできるが、凄腕ではない。
「エレナが襲ってきても俺だけで倒せそうだな」とは評価しない。エレナが実力を隠している可能性は充分にある。
道すがら社長がエレナに話しかける。
「エレナさんがいてくれて戦いが安定しました。中々に良い動きをされる。ニルヴァを始めてどれくらいですか?」
先頭のエレナは辺りを警戒して歩いていた。エレナは会話のために振り返らなかった。
「初めて二年ですね。最初は戦闘にほとんど出ずに野菜ばかり栽培していました」
ニルヴァのサービスは開始から四年が経過している。サービス開始時、ある学者が技術的に致命的な問題があると主張した。結果一年目はログインする人間は少なかった。
その後は徐々にユーザー数は増えた。ニルヴァ歴が二年なら安定期以降に入って来たユーザーである。
黙って聞きながら時任は分析する。
「戦闘に打ち込んでからの年数が気になる。素質がないのか、あるのか、わからない微妙な答えだ。だが、不自然な答えではない」
エレナが気にいったのか社長が次の質問をした。
「普段からパーティーを組まずにお一人で活動をしているんですか?」
「今日は仲間と都合が合わなかったので、友人のパーティーに参加しました。友人たちのパーティーは転送系の罠で分断されたので、仲間を探していたら大仁田さんと会いました」
機嫌よく社長は応じる。
「奇遇ですな。私も同じだ」
転送系の罠は『荒野の魔窟』でも五%くらいの確率で宝箱に仕掛けてある。なので、引っかかって分断されるのは有り得るが、疑わしい。
すっかりエレナに社長は気を許していた。社長の態度に良い気分はしないが、親切にしてくれた人を疑えとはいいづらい。社長は当然のごとく気になる質問をする。
「御友人のパーティーとは一緒に行動されなくていいのですか?」
「必要な素材が集まったので先に帰ってもらいました。私の戦利品も渡しました。せっかく集めた素材を失くすともったいないですから」
後ろからなので確認できるがエレナの背負い袋はペッタンコに近い。魔物素材が入っていないのが一目瞭然だ。先の説明とは一致している。
二度ほど戦闘を無事に終える。エレナはT字路を右に曲がる。道の先は緩やかな下り坂になっていた。時任の記憶ではこの場所に下り坂の通路はない。
地図を出して確認しようとすると、エレナがちょいとだけ振り向き声を掛けてくる。
「普通の地図には載っていませんよ」
少し怪しくなってきた。
「新しく実装されたエリアですか?」
「いいえ、昔からあった隠し通路だそうです。ただ、出現条件がわからなかったので混乱を避けるために記載がないのだとか。仲間を探してウロウロしていたので気付けました」
本当かな? と時任は疑ったが口に出すのは止めた。
通路を数m歩き社長が後ろを振り返り驚く。
「来た道が塞がってる。一方通行の隠し通路か」
エレナも振り返って確認する。
「どうでしょう? 時間経過で通路が閉鎖されたのかもしれません」
退路がなくなったが二人に不安な様子はない。二人ともタクシー券を持っているから使えば出られると思っている。だが、時任はクリアするか死なねば出られない気がした。
通路の先には扉がある。エレナが扉を開けると、広い円柱状の空間に出た。
部屋の中央には『いかにも動きます』といわんばかりの高さ三mの像があった。像は黒曜石製で高さは三mの鳥人だった。手にアンクを模した杖をもち、背中に鷲の翼を生やしている。
三人ともすぐに部屋に入らず、入口から中を観察する。先に社長が口を開いた。
「部屋に入ると襲ってきそうだね。ここから魔法で破壊するかね?」
エレナは社長の案にやんわりと反対する。
「戦闘前に口上を語るかもしれません。それが後々のヒントになる事態も考えられます」
奇襲論を唱える社長、余計な事をせずに入室を提案するエレナ。どっちが正しいかは情報がないのでわからない。時任は社長が気分を悪くしないように気を付けて意見する。
「一般論です。ダンジョンの製作者は魔物を設置した場合に入口近辺からの攻撃を想定しています。対策なり罠がある可能性は充分に考えられます」
時任が指摘すると社長は納得した。
「それもそうか、では中に入って動いたら倒そう」
聞き分けの良い人で助かった。自分の意見に固執して死にそうになる人は珍しくないので接待する側としては嬉しくもある。
三人で部屋の中に入ると、背後の扉が閉まった。扉が淡く光り施錠される。
鳥人が男の声で厳かに語る。
「真実を求めし者よ、力の試練、知恵の試練、勇気の試練のどれかを選べ」
社長はエレナに意見を求めた。
「どれがよいでしょうね。私はどれが一番いいのかちょっとわからない」
「力の試練が無難ですね。知恵の試練はわからないとどうにもならない。勇気の試練は中身がまるで不明で何をさせられるのかわからないのが不安です」
時任も力の試練が最も容易いと判断していた。ここで敵が強すぎるとなれば社長は先に進むのを断念するかもしれないとも予想できる。
だが、時任は別の事が気になっていた。
鳥人から出た声がモルルン王とそっくりだった。モルルン王の音声を流用している。たまたま似た声質だった可能性はある。でも、鳥人の裏にはモルルン王がいる気がする。
「やっぱりこれは変だぞ」と怪しんでいたが、モルルン王がどうのは社長には無関係なので敢えて発言する必要性はない。
社長が決断した。
「では力の試練にしよう」
エレナも時任も異論を挟まないと、社長は鳥人に向かって答える。
「力の試練を望む」
鳥人の目が光る。鳥人が咆哮したが動き出した。




