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第二十一回 再度の仕事

『世界観解説』

イデア王国の歴史。1900頃まではスペイン領であり貧しい国だった。その後、革命を経て独立。独裁者の暗殺後に王政復古の運動が起きて、現在の政治形態になる。王家主導によるIT分野の投資に成功後はGDP国別ランキングにて常に二十位以内をキープしている。

 緊急メンテナンスが終わったのでログインした。システム画面を呼び出すと劉からメールがきていた。帰ったので時間のある時に会いたいとの内容だった。


 モルルンの秘宝の件を後回しにすると深刻な事態を招く。すぐに劉の経営する四川料理屋に出向いた。


 個室で劉と面会した。時任はモルルンの秘宝が入った箱が空だったことを説明して金塊の返還処理を頼んだ。時任の説明を聞き終わった劉の表情は苦い。


「金塊の返還はやっておく。俺は時任を信じるよ。でも、お前の説明はちょっと無理があるぞ。俺もシャオリーやリリサに詰め寄られたら、間違いありませんとは言えんぞ」


 劉はおかしなことを言っていない。時任が劉の顧客ならシャオリーとリリサも劉の顧客だ。どちらかに言い顔をすれば、大事なお客から信用を失いかねない。劉にとって信用は財産だ。


 劉が困った顔で質問する。

「モルルンの秘宝にどれだけの価値があるかわからんが、報酬の分配から殺人事件に発展するなんてニルヴァじゃ珍しくないぞ」


 時任はモルルンの秘宝の正体について詳しく話すか迷ったが、劉に味方してもらえないと解決の目途が立たないのでしかたなく話した。


「モルルンの秘宝なんだが、ザ・ゲイブの株式と交換な可能なアイテムなんだと聞いた。そんな宝はそもそも存在するのか?」


 劉は眉間に皺を寄せる。劉の口調が小声になった。


「ザ・ゲイブの株式と交換が可能なアイテムがゲームで入手可能なのは本当だ。だからこそあまり情報は出回っていない。俺も一部の顧客に聞かれた時だけ教えている」


 本当に美味い話は出回らないのが世の常だ。だからこそ、怪しくもある。

「俺は初めて聞いたが、今まで教えてくれなかった理由はなんだ?」


「別に意地悪をしていたわけじゃない。ザ・ゲイブの未公開株の話は血生臭い。株式取得に動けばもう遊びではいられない」


 ニルヴァを楽しんでいる人間に教えたくない理由はわかった。現実から離れたくてゲームをやっているのに、血の臭いがする現実的な話は興ざめだ。


 だが、もう片足を突っ込んだのである程度は知っておかないと逆に危険だ。

「ザ・ゲイブの発行済み株式は何株あるんだ?」


「現時点で二千二百株だ。その内ゲーム内で取得できるザ・ゲイブの株と交換可能な株数四百株だ」


 発行済み株式が少ない。とすると、一株当たりの価値はかなり高い。

「株主の構成はどうなんだ?」


「開発者のバビロン・リーが四百株。イデア国立銀行が四百株。イデア王家が四百株を持っている。三者は安定株主だ。あとは投資会社や個人で合計六百株だが、内情はわからん」


「ザ・ゲイブの経営権を握るのは無理そうなのはわかった。でも、なんで劉は株主の一覧を知っているんだ?」


「法人名は明かせないが俺は投資会社の社員なんだよ。ニルヴァ内の動きを監視している。信じるかどうかは自由だが」


 疑うも信じるも意味的には対して違わない。劉は俺にとっての情報屋だ。

「アイテムはどうすれば株に替えられる?」


 劉の態度は素っ気なかった。

「捕らぬ狸の皮算用だな、手に入れてから質問してくれ。そんときには教える。もっとも、宝箱が空だったのだからどうにもならんがな」


 宝箱が空だった理由を知るモルルンのことを話すかどうか迷った。モルルンと会った事実を証言してくれる人物はいない。モルルンからの仕事の依頼を失敗したのでもうモルルンが接触してこない可能性もある。


「頼みがある。シャオリーとリリサに対して申し開きをしたい。弁明の機会を作ってくれ」


 渋々の感を滲ませながら劉は承諾した。

「やってもいいが、二人を説得できる材料はあるのか? ないなら止めておけ。ザ・ゲイブの株が絡んでいるのなら謝っても許してくれないぞ」


「手掛かりはあるんだが、確実とは言えない。手を尽くしている間に後ろからブスリとやられたらかなわん」


 劉はハッキリと釘を刺した。

「面倒な事件に巻き込まれたと同情はする。だが、俺には俺の立場がある。お前の弁護士にはなってやれんぞ」


「俺は悪くないんだが、俺がどうにかするよ」

「弁明の場は作る。それまでは時任に手出ししないように話もつける。ただ、やるのはそこまでだ」


 劉なりのケジメの付け方と良心の表れだ。

「弁明の日時が決まったら教えてくれ。それまでにどうにかシャオリーとリリサを説得できる材料を探す」


 時任は劉との会談を終えた。店への出口を向かう時に酢っぱい香りがした。チラリと客席に目をやる。客は酸辣湯麺サンラータンメンを食べていた。店内を見ればランチメニューなのか酸辣湯麺がよくでている。


「新メニューか? 酸辣湯は四川料理じゃないとかいっていたのに、酸辣湯麺を出すとは客の好みに合わせるようになったんだな」


 時任が店を出た。現状ではモルルンに会う必要があるが、普通にモルルン霊廟に行っても会える見通しはない。かといって、他に手掛かりもなかった。


 誰から連絡が来てないかとメールを開くと大仁田からメールが届いていた。中を読むと「仕事がやっと終わったので今度こそ遊びに連れて行ってほしい」と書いてあった。


 文面を読む限りは偽物や成り済ましとは思えない。前回、キャンセルしてきた本来接待するはずだったお客の大仁田だ。本当にそうかと自問すると間違いないとは言えない。


 偽物の可能性を考える。

「『約束の丘』で死んだが、まだ残機があった偽物か? それとも、人格と記憶が変わった別人か。どちらにせよ、一度騙せたからもう一回騙せると思われているのかもしれん」


 もう一度騙してやれと誰かが再び大仁田を名乗って接触してきたのなら、チャンスでもある。偽物なら何かを知っている。また、モルルンに会えたのも女性の大仁田が絡んだからだ。


「今度は本物の接待の仕事かもしれないから受けておいたほうがいいか。顔を変えて逃げ回るにしても金はいるからな」


 時任は了承のメールを送って仕事の準備をした。

投稿時間を5時50分に統一します。

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